英文の曖昧さの研究

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あじさい

あなたは英語の構造が一通り理解できました。単語や熟語の数が増え、多くの文章を読むにつれ、読むスピードが上がってゆきます。もちろん、そこであなたの勉強が終了したわけではありません。たくさんの英文を読むに連れ、さまざまな英語の特徴に気づくことでしょう。それまでの構文の知識だけでは対処できない文が続々出てくるはずです。

英語の構造は単純すぎるため、どうしても「あいまい性」がつきまといます。いわゆる「高級」な英文はそれを逆手にとって読者に考えさせる難解な文を作り出しました。詩や俳句と同じく、表現をできるだけ煮詰めて、あとは読者に解釈の作業をゆだねるこのやり方は、作者の方に深い洞察力と知力があってはじめてできることですが、読者の側もそれに受けて立ってみるのはどうでしょう。それはちょうど将棋や碁の挑戦を受けたのと似ています。

他動詞と自動詞

succeed は他動詞と自動詞を持ち、それぞれ意味が違うためにおかしな事が起こります。他動詞の場合は「・・・の跡を継ぐ」です。自動詞の場合は「成功する」です。cf He succeeded his father's business. 「彼は父親の仕事を次いだ」 He succeeded in his buisiness. 「彼は商売に成功した」

このようにそれぞれ直接に目的語、前置詞の to がついているうちは問題がありませんが、関係代名詞による形容詞節が関わってくると次の文の場合、文脈を欠くとどちらかわかりません。

例文;Mary is the one Jane wants to succeed.

the one は「人」を表し、実際には Mary のことです。したがってそのうしろには関係代名詞の目的格 whom が省略されていると考えられます。この文の構造を正しくとらえるためには、先行詞によって形容詞節ができる前の「もとの文」に迫ることが必要です。

まずこの文の succeed を自動詞の「成功する」としますと、もとの文は Jane wants Mary to succeed. 「ジェインはメアリーに成功してもらいたいと思っている」となります。つまり Mary は want の目的語であります。want はしたがって第5文型で使われています。ここから作った上の文は「メアリーはジェインが成功してもらいたいと思っている人だ」となります。

次にこの文の succeed を他動詞の「跡を継ぐ」としますと、もとの文は Jane wants to succeed Mary. 「ジェインはメアリーの跡を継ぎたいと思っている」となります。今度は Mary は wants ではなく succeed の目的語となります。こうなりますと want は第3文型で使われていることがわかります。ここから作った上の文は「メアリーはジェインの跡を継ぎたいと思っている人だ」となります。

どうしてこんな違いが出てしまったのでしょう。これは succeed の文型が二つあるということのほかに、want の文型が二つあるという偶然によって生じたあいまい文です。さらに根本的原因は英語の場合、単語同士の関係は「語順」のみに頼っていることにもあります。もし one が want の目的語なのか succeed の目的語なのかを示す語尾記号でもあれば、もちろんこんな事態は生じません。(そんな面倒な規則は人々に嫌われることはわかってますが・・・ラテン語のように)

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動名詞と現在分詞

次の例を見てください。

a sleeping baby / a sleeping car

この二つの sleeping の使い方が同じだと思う人はいないでしょう。前者は、 a baby who is sleeping の意味であり、baby は sleeping の主語になることができます。このような用法を(現在)分詞の形容詞用法、つまり名詞を修飾する用法と見なします。

しかし、あとの例では、どう考えても car が眠るわけはなく、これは人がその中で眠ることしか想定しようがありません。ですから、このような場合には、 a car for ( the purpose of ) sleeping とみなして、「使用目的」を表す者とします。これは sleeping を恣意的に解釈しているわけですから、形容詞用法とするのは乱暴で、誰かがこれは動名詞(名前はどうでもよいが・・・)であると言い出したのです。

なるほど、名詞が名詞を修飾する例は結構あるものです。たとえば、stone bridge というのは、「石製の橋」のことであり、普通の形容詞を使った、 stoney bridge 「石みたいな橋」のような性質のみに重点を置いた表現とは異なります。

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これはどうでしょう?

Flying planes can be dangerous.

ing 形は、便利ですが、時として落とし穴を用意します。この文の本動詞が can be であることは間違いありませんが、Flying の解釈によって二通りの理解ができます。

まず、flying が動名詞であるとする。すると、fly は他動詞ということになり、目的語の planes をつけるので、「飛行機を飛ばす」と解釈できます。したがって、「飛行機を飛ばすことは危険なことがある」となります。

ところが、この文の主語が、planes だとすると、これに付属する flying はこれを形容詞的に修飾している現在分詞だと解釈でき、「飛んでいる飛行機」となる。したがって、「飛んでいる飛行機は危険なことがある。」となります。

どちらが正しいのでしょう?この文しかほかになければ、判断の仕様がありません。ほかの言語のように、名詞に「目的語」や「主語」である何か印でもついていれば、助かるのですが、英語はそのような記号を廃棄してしまいました。

この文は常識から判断できそうですが、やはり二通りの解釈が可能です。

The dog was attracted by the smell of a man roasting meat.

この文の前置詞 of はうしろに動名詞 roasting を従えていると考えられます。ですから「焼いているにおい」です。動名詞には、「意味上の主語」というものがあり、動名詞の主体が man であると考えられます。したがって、「男が肉を焼いているにおい(に犬は引きつけられた)」という結論に達するわけです。

ところが、roasting が現在分詞だとすると、前の man を修飾しますから、a man who is roasting meat と同じ事になり、「肉を焼いている男のにおい(に犬は引きつけられた)」となってしまいます。

このような悲喜劇が生まれるのも、動名詞の意味上の主語の記号である、所有格、つまり man's とすることをやめてしまったからです。

誤解を防止するには、分詞の名詞修飾をできるだけやめて、関係代名詞によって表すことです。flying planes は、dancing girls や boiled eggs と違って、決まり文句的ではありませんので、もっと修飾語句を増やして具体的に表すべきです。たとえば、planes which are flying in the air just after taking off (離陸直後に空中に浮かんでいる飛行機)のように。

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焦点はどこにあるのか?ー否定文を考える

強調構文と呼ばれるものがあります。自分の強調したい部分(主語・目的語・副詞・副詞句・副詞節)を it と that または適当な関係詞で挟む形式です。

  • Tom didn't go to France. 「トムはフランスへ行かなかった」
  • It was Tom who didn't go to France.「フランスへ行かなかったのはトムだ」
  • It was not Tom who went to France.「フランスへ行ったのはトムではない」
  • It was to France that Tom didn't go.「トムが行かなかったのはフランスだ」
  • It was not to France that Tom went.「トムが行ったのはフランスではない」

このように作り方は簡単で、それぞれ日本語では以上のように訳しています。ですが、ここで厄介な問題が生じています。この文では単に Tom や to France を強調しているだけでなく、新たな言外の意味が加わってしまっていることです。

つまり、最初の文では、トムが行かなかった事実を単純に言い表しているのに対し、第2の強調構文では、確かにトムは行かなかったが、他の人たちは行った( Others went to France )を暗示しているからです。さらに第3の強調構文では、トムに代わる人が行った、たとえば、not Tom but John などが想定されます。また第4の強調構文では、フランス以外の国々へ行ったことを表し、最後の第5の強調構文では、フランスに代わるドイツかイタリアあたりに行ったことを想像させます。

このように、強調構文のおかげで、最初の単純な文がいろいろなように解釈されてしまうのです。もし強調構文形式がなくて、第1文からその内容をくみ取れといわれたら、誰でも困ってしまうでしょう。つまり話の「焦点」がどこにあるかわからないからです。特に not が否定文を作るときの多様さには実に手を焼きます。

  • She did not marry him because he was poor.
  • She did not marry him because he was rich.
  • Just because he was rich she didn't marry him.
  • It was not because he was richi that she married him.

because と not の関係も要注意です。

第1文は「常識」にしたがって読めば、「彼が貧しかったので、彼女は結婚しなかった」と読むでしょう。

ですが第2文は、彼女が金持ち族が嫌いであるとすれば、「彼は金持ちだったので、彼女は結婚しなかった」と解釈できますが、彼女が彼の財産に目がくらんだという噂が流れている中では、「彼女は彼が金持ちだからといって結婚したわけではない」と理解するでしょう。

いずれもまわりの文脈があればどちらかに決着をつけることができます。しかし、まわりから切り離された文であれば、悪文、あいまい文のそしりを免れません。

そこで、焦点をはっきりさせる必要に迫られます。焦点が、「結婚しなかった」であれば、because の前にコンマをうてば済むことです。実は結婚はしてて、焦点を「結婚したことの理由」に当てるとすれば、そのことを明示しなければなりません。

そのためには、just because 「・・・という理由だけで」というように理由を限定してみたり、強調構文に再び登場してもらって、not because に対応する but because が実は存在するんだ、ということを暗示してみせればよろしい。

同じことが、次の文にも言えます。
  • Happily he didn't die. 「幸せにも、彼は死ななかった」
  • He didn't die happily.「彼は幸せな死に方をしなかった」
  • It was not happily that he died.

副詞には文全体に係る「文修飾副詞」と、特定の単語(特に動詞)に係る副詞とに区別されます。最初の文では、文頭にありますので、fortunately などと同じく、文全体の雰囲気を決めるだけです。全体は素直に解釈できます。焦点は「死ななかった」ことにあります。

ところが、あとの文では、die と happily は隣同士であるために、固く結びついています。そこに否定の not が入り込む余地がないのです。死に方にはいろいろあり、この場合死んだことは事実だが、「幸せな死に方」ではなく、「不幸な死に方」をしたというように暗示されているわけです。

したがって焦点は「死に方」にあります。したがって、ぎこちないけれども、3番目のように、強調構文にしてみるのも一つの手でしょう。

こうやってみると、not を含んだ例はまわりにいくらでも転がっています。
  • Clinton won't step out of Air Force One.「クリントンは大統領専用機から出ないだろう」
  • Clinton won't step out of Air Force One wearing a referee's uniform--but he might want to bring one along.「クリントンは審判員の制服を着て大統領専用機から出ることはないだろうがーーー持参はしたいと思っているかもしれない。」
  • Clinton will step out of Air Force One wearing anything but a referee's uniform.「クリントンは審判員の制服以外の何かを身につけて大統領専用機から出るだろう。

第1文のように Air Force One でピリオドを打ってしまえば、問題ないわけですが、第2文のように、分詞構文の wearing をつけることによって、事情が異なってきます。

大統領が外遊の際に審判員の制服なんか着るはずがないという前提のもとに、これを即座に否定文ではなく、第3文のような肯定文の内容なのだ、と直感できるようになることが必要です。

焦点は「(飛行機から)出ない」ことにあるのではなく、「制服を着ない」ことにあります。

部分否定とは、not と all, every, always, entirely などとの組み合わせによって生じます。しかし、これらの語が not と結びつきを作る前に、ほかのごと結ばれていたら?
  • I didn't expect everybody to be so friendly in London.
  • I expected not everybody to be so friendly in London.

この文章は、第5文型ですから、SV と OC の部分に分離することができます。すると、「私は予想しなかった」プラス「ロンドンではみんながこんなにも親切だ」となります。つまり100%の人々が親切だ、という事態を予想していなかったということです。

ところが、not と every との組み合わせによる部分否定に固執すると、「ロンドンでは誰でもがこんなに親切であるわけではないと予想した」となります。つまりロンドン市民の一部は不親切だと予想したことになります。

解決策は、not からの距離を測ってみることです。every よりも expect の方が近い。したがって部分否定は成立していないと見てよいでしょう。ことさら部分否定を示したければ第2文のようにすればよいのです。

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名詞の二義性のおかげで犠牲になった!

これはどんな意味でしょう?

What he wrote is a mystery.

困ってしまうのは、この場合の mystery をどう解釈するかによって、二通りストーリーが発生するからです。

(1)彼が書いたものは「推理小説」だ。

(2)彼が何を書いたかは「謎」だ。

このように、文脈によって取り方が違ってきます。すでに文脈を知っている人にとっては、別に大した問題ではありませんが、この文単独で出されれば、それだけで判読をすることは困難になってきます。これもひとえに、mystery という単語が二つ以上の意味を持っているためです。では、それぞれに応じて単語を別に作ればいいのか、といわれれば、これ以上語彙を増やすな!という声が、学習者たちから返ってくることでしょう。これは言語における、いや人間の記憶力の限界における、どうしようものない問題なのかもしれません。

次の例はどうでしょう。これは全体で名詞とします。

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need fulfillment

これは「満たす必要」なのか?それとも?ここでは二つの名詞が並んでいて、(経験がある人ならわかるはずの!!)ある約束に従って関係が結ばれているから、それによって理解せよと言っています。何ともはや困ったことです。

まず手始めにあの「銀行強盗」 bank robbery を思い出してみましょう。なぜかというと上の need culfillment と同じ構造だからです。

They robbed a bank of the money. 彼らは銀行から金を奪った。

ご存じ、rob ..of... による表現です。他動詞である rob を名詞にして robbery 、また a bank はこの rob の目的語。従って bank robbery は本来は他動詞と目的語の関係だったことがわかります。ただし並べる順を逆にして、bank がrobbery を修飾するような形になっている・・・

振り返って、need fulfillment を上のような構造に成り立っていると仮定すると、他動詞と目手語との組み合わせで書き改めると、 fulfill a need 「必要を満たす」となります。そこからら生じたのが、「必要を満たすこと、必要の充足・・・」となります。

このように詳細な分析によってある種のルールに則って語が作られていることがわかりますが、それはネイティブにとっては自明のことであっても、部外者には迷惑な話ではありませんか!

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来月更新に続く

目的か結果か?

He stopped to smoke.

他動詞はすべて「有意志」か?

このitは「それ」かそれとも仮主語か?

It's really their game to lose.

この前置詞は副詞句を作っているのかそれとも形容詞句を作っているのか?

They haven't seen anything yet in terms of paralysis./ They ain't seen nothing yet in terms of paralysis

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