エデンの園はいずこ

ユートピア社会を求めて変化する価値観

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竹林

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チグリス、ユーフラテスの岸にはさまれた中東では、多くの考古学者たちが「エデンの園の遺跡」と思われるものの発掘作業に取り組んでいる。彼らは何とかして手がかりが見つかるものと信じている。究極的な社会への探究は、文明国のあらゆる民族の心の中で現代社会に対して感じている「不満」を反映しているのだ。

それも我々が飢え死にしそうだとか、貧困にさいなまされているというのではなく、自分の思い通りの生き方ができないというのが、ユートピアを求める主要な理由なのであろう。我々は黄金で覆われた国を建設することを夢見ているのではなく、多様化や個性が重視されるような世界を望んでいるのだ。

問題なのは日本社会が全くそれとは正反対の方向へ進んでいるということだ。わたしの以前の生徒から、円の売り買いをする会社に就職しようという話を聞いた。そのオフィスは大きな丸テーブルからできており、それぞれの部課が一つ一つの電話ボックスのようになっており、そこでは職員が海外にいるブローカーたちと取引をするのであった。10台の電話機に囲まれて、彼も午前7時半から早くとも夕方5時または6時まで電話をしつつ座っていなければならないのだ。

一度に電話が鳴ったらどうするのだろうか。いずれにせよ、彼は仕事による大きなストレスを受けるだろう。大変高給だとはいっているが。その結果彼は酒におぼれるか、退職するかになるのだろう。だが退職することによっては、なにも新しい人生は生まれない。別の種類のストレスだらけの仕事に就くことになるだけだ。

このような息づまるような状況では、何ら脱出口が見いだせず、我々は大きな困難に向かい合うことになる。40年前、貧困に苦しみ、毎日の食事を得るにも必死だった頃であれば、為すべき事を見つけられたし、向こうからやってくることもあっただろう。言い換えると、多くの考える機会を持っていたのである。

20年前でさえ、いわば激動の時代に我々の社会があったとき、もっと柔軟な体制に政府や社会の制度を改革する新しい方法を考えついていたことだろう。

しかし今や社会構造は硬直してお互いに絡み合い、普通の人間にはこの非人格的に作り上げられた複雑な機構を理解することはできない。進取の精神、冒険、未知のもの、探検、こういったことばはもはや死に瀕している。常に新しいものを求めてきた人々は文明国に住むことに絶望し、開発途上国へ向かってゆく。そこでは少なくともすべての社会の仕組みが固定化しているわけではない。

もちろん現代社会においては、解決しきれないほどの問題があり、その数があまりに膨大で複雑なので、ひとりの人間がそれらに手をつけることなどとてもできない。政府や専門家でさえ、これらの問題に対処するのに困難を感じている。個々の人間には手の届くはずがない。

こんな風に機械に支配され、非人間的で大量消費の世界を作り続けるのは本質的に間違っているのだろうか?個人の自由の理想が、言論の自由と共に絶滅に瀕しているというのは誇張だろうか?もし社会が人間の基本的権利を消し去るとすれば、社会は人間的であることを止め、むしろミツバチや蟻の巣に似たものとなろう。

考え得る唯一の解決策は、社会的なコントロールをゆるめることであろう。しかしどのようにして行うのか?ニューヨーク、ロンドン、東京のような大都市では、圧倒的な人口と混乱のおかげで、新しい方向を生み出すための出発点となれるだろうか?だが、これらの都市における、大規模な中流階級化、高級化(gentrification)の波は風変わりな人間や芸術家やその他の独創的な才能の持ち主たちの存在を脅かしている。

出口はないのか?この状況はまさに、二者択一なのだ。もし欲しいものを今手に入れるとすれば、物質的な豊かさによって高度な生活水準を楽しむことができる。そのかわり、そのような社会を維持するために社会的コントロールの複雑なシステムを受け入れざるを得ないだろう。

テレビやその他の見事な視聴覚機材がわれわれに生活の楽しみを与えるだけでなく、受動的に生きるところから生じる退屈や空しさをももたらすことをわれわれは知っている。テレビのリモコンでさえ、誇張的すぎるかもしれないが、知らず知らずのうちに我々を怠惰にし、毎日の生活の生き生きした面をゆっくりと奪っているのだ。

エデンの園は現代の技術的に進歩した社会には見いだされることはない。未開社会にもない。せめて21世紀は良くも悪くもなく、少なくとも寛容であってくれて、金持ちであれ、貧乏であれ、まじめであれ規範をはずれているのであれ、正常であれ異常であれ、どんな種類の生き方もできるものであってほしい。想像しうる最高の社会は現在の道に代わる、多数の選択肢が見つかるようなところだ。


1987年11月作成
1999年9月改訂

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