Basic Japanese

Fuji-yama by Yamashita Kiyoshi

氷川清話(ひかわせいわ)・抄

(listening)

目 次

作品解説 作者紹介

作品と注

  1. 戊辰の変
  2. 江戸城受け渡し
  3. 知己を千載の下に待つ
  4. 西郷隆盛
  5. 西郷の大度洪量
  6. 今の大臣ー1
  7. 今の大臣ー2
  8. 外交の極意ー1
  9. 外交の極意ー2
  10. 外交の極意ー3
  11. 死を懼れる人間ー1
  12. 死を懼れる人間ー2
  13. 死を懼れる人間ー3

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作品解説

この本は海舟の談話を中心に編集したものだが、この口調は「シンドバッドの冒険」を髣髴とさせる。だからと言って法螺(ホラ)の連続ではないが、常人がびっくりするような、特に集団志向の日本人には考えもつかないことがポンポンと飛び出すのだ。

同じ革命でもパリ・コミューンでは3万人以上の人々の命が失われたことを比べてみると、海舟と西郷によって実現した、幕末の江戸城無血開城だけでも、歴史の上では非常にまれなことだろう。海舟が言うには、「戦争は小心者によって起こされる」という。そういえば、すぐに2008年でその任期を終えるブッシュ大統領の名前が誰にでも浮かんでくるだろう。

権力を少しでも扱うものは、途方もない胆力が、そして誠が必要なのだと、彼は繰り返し説いている。そして維新の際に、西郷があらわれてくれたことが日本国の歴史にとって、非常に幸運だったといっている。西郷との江戸城開城直前の会談の模様が何度も語られる。彼の人生にとって、最高のハイライトであったことは言うまでもない。

数多くの彼の談話のうち、いくつかを選んだが、今の政治家たちの語るたわごとと比べて、あまりにレベルが違うのでまったくため息が出るであろう。今度日本に勝のような政治家が生まれるのは何百年、いや何千年後のことだろう?

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作者紹介

ある人が言うには、明治維新前にすべての優秀な人はこの世を去り、維新後に残った人物はいずれもスケールが小さいか、無能か、金や権力や地位をひたすら追い求める人々だったという。これはかなりの真理が含まれていると思うが、例外がいる。勝海舟は77歳まで(1899年まで)生きたのだ。

人々の中には彼のあまりにオリジナルな考えについていけず、坂本竜馬のように、相当命を狙われたようだ。これで、当時としては例外的な高齢まで生きられたのは奇跡に近い。ある人は彼のことをフランスのヴォルテールによく似ているといった。また、東洋の哲人だという言い方もある。いずれにせよ、このような人は、国内では冷遇されることが多く、むしろ海外にそのファンが多い。

この人の柔軟なものの考え方や見方には、実に驚嘆させられる。今も昔も日本人の多くが、政治家も実業家も思想家も、実に頭の固い人間ぞろいであることを考えると、きわめて珍しい存在であろうし、西郷隆盛と並び、勝海舟のおかげで明治維新前の混乱期をこんなに犠牲者を少なくして乗り越えることができたことに日本人は本当に幸運だったといわざるを得ない。

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(1)戊辰の変

(1)戊辰の変

注;
  1. ぼしんのへん > 戊辰の変 : 1868年から翌年まで行われた新政府軍と旧幕府側との戦いの総称。戊辰の役。
  2. ばっかく > 幕閣 : 江戸幕府における、老中を中心とした家臣による内閣のような機能を持つ集団。
  3. しょうちした > 承知した : 知っていた、知らせが届いていた。
  4. かんきょ > 閑居 : 世事を離れてのんびりと暮らしていること。
  5. かなえをわかす > 鼎を沸かす : 議論や混乱がはなはだしいさま。
  6. ばくぎ > 幕議 : 幕府の評議。
  7. さいごうめ > 西郷め : 西郷隆盛のこと。
  8. てんぺい > 天兵 : 天皇が統率し、派遣する兵。
  9. じんしんきょうきょうとして > 人心恟恟として : 人々の心が不安に恐れおののいて。
  10. しせいいっぱつ > 死生一髪 :危うく死ぬところ、死と生の境目。
  11. かんぐん > 官軍 : 朝廷方の軍隊。明治新政府方の軍隊。
  12. ひょうかん > 剽悍 : すばやくて強いこと。荒々しく強いこと。
  13. せんぽうそうとくふ > 先鋒総督府 : 、正式には「東山道先鋒総督府」といい、新政府の東征軍団として、板垣退助・伊地知正治の両参謀に率いられた。
  14. はくぼ > 薄暮 : 薄明かりの残る夕暮れ。たそがれ。
  15. あかばねばし > 赤羽橋 : 東京都港区の古川にかかる橋の名前。
  16. びん > 鬢 : 頭の左右側面の髪。
  17. くつわ > 轡 : 乗用の馬具の一つ。馬の口にくわえさせておき、金属製で手綱をつけて御するのに用いる。
  18. るる > ?々 : すぐさま。
  19. ちんぶして > 鎮撫して : しずめなだめて。
  20. くだんしょうこんしゃ > 九段招魂社 : 現在の”靖国神社”のこと。東京都千代田区九段にあり、明治12年までそう呼ばれた。
  21. せつゆをくわえて > 説諭を加えて : 説教をして、説得をして。
  22. いっそつ > 一卒 : 一人の兵士。
  23. さとうつぐのぶ > 佐藤継信 : 平安末期の武士(1168~1185)。”屋島の戦い”に義経の身代わりとなって平教経の矢に射られて戦死。勝は兵士が倒れるのを見てこのことを思い出した。
  24. そうし > 壮士 : 意気の盛んな者。血気にはやる男子。
  25. はしため > 婢(端女) : 召使の女。女中。
  26. おおくぼいちおう > 大久保一翁 : 大久保利通のこと。
  27. やまおかてっしゅう > 山岡鉄舟 : 江戸生まれの幕臣。戊辰戦争の際、西郷隆盛を説き、勝海舟との会談を成立させた。
  28. せいけんをほうかんして > 政権を奉還して : 徳川慶喜による”大政奉還”のこと。
  29. こっかしゅぎ > 国家主義 : 国家を人間社会の中で第一義的に考え、その権威と意思とに絶対の優位を認める立場。ただし、勝の場合は極端なイデオロギーにはしってはいない。
  30. とふ > 都府 : 都道府県など、国家の構成部分。
  31. さばくろんじゃ > 佐幕論者 : 幕末、尊皇攘夷、統幕に反対して幕府の政策を是認し、これを助けた一派。
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(2)江戸城受け渡し

(2)江戸城受け渡し

注;

  1. こくじたなん > 国事多難 : 国家が直面する大問題が山積していること。
  2. ななじゅうまんごく > 七十万石 : 米穀の単位を測るのに使う単位。一石は約180リットル。転じて土地を支配するときの目安になった(知行石高ちぎょうこくだか).。ここでは徳川家に与えられた駿河領のことをさすと思われる。
  3. りこうしょう > 李鴻章 : 中国、清末期の政治家(1823~1901)。太平天国の乱を平定し、日清戦争、義和団事件にかかわる。
  4. だん > 談 : 会談のゆくえ、結末。
  5. ろうや > 老爺 : 年老いた爺さん。
  6. ひとよしさた > 人好沙汰 : 人が好くて相手にだまされたり利用されたりしやすい態度。
  7. しなじん > 支那人 : 日本における昔からの中国人全般に対する呼称。ただし、1945年に終結した戦争のおぞましい思い出から、現在の中国人はこれを嫌う。
  8. せいらい > 生来 : 生まれながら。
  9. (だい)かんぶつ > 大奸物 : 悪知恵が働く人。
  10. (だい)ぎゃくじん > (大)逆人 :反抗する人、反逆する人。
  11. さいごうなんしゅう > 西郷南洲 : 西郷隆盛のこと。南洲は号(ごう)である。
  12. ごけ > 後家 : 夫に死別して、その家を守っている寡婦。やもめ。未亡人。

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(3)知己を千載の下に待つ

(3)知己を千載の下に待つ

注;

  1. ちき > 知己 : 親友、または知人。
  2. せんざい > 千載 : 千年、長い年月
  3. じじょでん > 自叙伝 : 自分で書いた自分の伝記
  4. だいくんい > 大勲位 : 国家が勲功あるものを賞するために作り出した栄典の等級。それぞれに応じた勲章がある。
  5. なにしゃく > 何爵 : 伯爵や公爵、子爵など、さまざまな勲位のことをさす。
  6. ぞくぶつ > 俗物 : 名誉や利益にとらわれてばかりいるつまらない人物。
  7. みとのれっこう > 水戸の烈公 : 徳川斉昭のこと。水戸藩主(1800-1860)。
  8. へんげんせきご > 片言隻語 : ちょっとしたことば。
  9. とってもってそくとする > 取って以って則とする : それを取り入れて規則や法とする。
  10. ひっぷひっぷ > 匹夫匹婦 :身分のいやしい男女。道理に暗い者ども
  11. あんき > 安危 : 安全か危険かということ。

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(4)西郷隆盛

(4)西郷隆盛

注;

  1. てんしょ > 添書 : 添え状。人を紹介するときに添えて送る書状。紹介状。
  2. かんしき > 鑑識 : 善悪、真贋、良否を見分けることやその能力。
  3. たんしき > 胆識 : 大胆な心意気。
  4. けんぼう > 権謀 : 自分の計画を成功させるための大小のはかりごと。
  5. しせい > 至誠 : きわめて誠実なこと。真心。
  6. しょうちゅうせんりゃく > 小籌浅略 : 何とか事態を切り抜けるために小ざかしい戦略を重ねること。
  7. せつぜん > 載然 : ものごとの区別がはっきりしていること
  8. しんせい > 新政 : 江戸幕府が倒れてはじまった新しい政治の体制。
  9. たいりょうなる > 大量なる : 度量が広い。
  10. さりとは : そうとは。そういこととは
  11. ぎおん > 祇園 :京都の八坂神社の旧称。また、その付近の地名で遊里。
  12. なかい > 仲居 : 遊女屋・料理屋などで客に応接してその用を行う女中。

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(5)西郷の大度洪量

(5)西郷の大度洪量

注;

  1. だいどこうりょう > 大度洪量 : (タイトル)非常に度量が大きいこと。
  2. ほねだった > 骨だった : 大変苦労した
  3. しば、たまち > 芝、田町 : 東京都港区の山手線田町駅付近
  4. ほねだった > 骨だった : 大変苦労した。
  5. いぢち > 伊地知 : 伊地知 正治(いぢち まさはる、文政11年6月10日(1828年7月21日) - 明治19年(1886年)5月23日)のことだと思われる。薩摩藩士。伯爵。
  6. とんちゃくせず > 頓着せず : 気にせずに。
  7. ひききりげた > 引き切り下駄 : 下駄の一種。台も歯も一つの木材で作った駒下駄のことか。
  8. せいれい > 生霊 : 命、生命
  9. じかどうちゃく > 自家撞着 : 同じ人の原稿が前と後と食い違ってつじつまの合わないこと。
  10. げんこうふいっち > 言行不一致 : 言っていることと、することが一致しないこと
  11. きょうと > 凶徒 : 暴徒
  12. とんしゅう > 屯集 : 集まること
  13. きょうじゅんのみ : 恭順の実 心から服従していることを示すしるし
  14. はれつ > 破烈 : (談判が)失敗に終わる
  15. かだんにとんでいた > 果断に富んでいた : 決断力が強く、大胆に物事を行うさま
  16. ごうけつ > 豪傑 : 一風変わっていて、他人の思惑など考えず、思い切ったことをする人
  17. きんぼう > 近傍 : 近所、近辺
  18. ひしひしと : 隙間なくぴったりと寄り付くさま
  19. さっきいんいん > 殺気陰々 : 今にも殺し合いが起こりそうな雰囲気で
  20. たいぜんとして > 泰然として : 落ち着き払って
  21. ささげつつ > 捧銃 : 軍隊で銃を持っているときの敬礼の一つ
  22. そくかとう > 足下等 : 理想も持たずただ殺しだけを目的としている連中のことか?
  23. つつさきにかかって > 銃先にかかって : 銃で撃たれて、銃剣に刺されて
  24. いとまごい > 暇乞い : 別れを告げること
  25. はいぐん > 敗軍 : 負けてしまった側の軍隊

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(6)今の大臣ーその1

(6)今の大臣ー1

注;

  1. ぜんたい > 全体 : もともと、元来
  2. けんこうほうか > 剣光砲火 : はげしい戦闘のさま
  3. ふうきえいか > 富貴栄花 : 贅沢を尽くすこと
  4. さんびゃくしょこう > 三百諸侯 : 江戸時代の大名のおおよその数
  5. しせいほうこう > 至誠奉公 : まごころをこめて国家社会のために尽くすこと
  6. たぬま > 田沼 : 田沼意次(1719-1788)のことであろう。江戸中期の幕府老中。貿易や開発に力を入れたが、賄賂政治と批判され、天明の飢饉により失敗に終わった。
  7. せいどう > 聖堂 : 孔子を祀った湯島聖堂のことと思われる。東京都文京区湯島1-4-25 
  8. はやしだいがくとう > 林大学頭 : 林復斎(はやし ふくさい、寛政12年(1801年) - 安政6年(1859年)のことか。幕府朱子学者林家当主。
  9. ぶんせんのう > 文宣公 : 孔子のおくりな、つまり死後にその徳をたたえて贈る称号にあたる。
  10. ゆうひつ > 右筆 : 現在の秘書官にあたり、貴人に持して文書を書くことをつかさどった人。
  11. ひょうぎをした > 評議をした : 種々意見交換をして相談をした。
  12. ふせん > 付箋 : 用件を書きつけて貼る小さい紙。
  13. とうどのちゅうじ > 唐土の仲尼 : 中国の孔子。仲尼は孔子の字(あざな)、つまり男子が成年後に実名のほかにつける別名。
  14. こうふし > 孔夫子 : 孔子。夫は成年に達した男子であることを示す。
  15. めいくん > 明君 : すぐれた君主。
  16. せいざんこう > 静山公 : 松浦清(まつら きよし)は、江戸時代中・後期の大名。肥前国平戸藩の第9代藩主(1760-1841)の号。
  17. じゅしゃ > 儒者 : 儒学を修めた人。儒学を講ずる人。
  18. こうしやわ > 「甲子夜話」 : 静山公の著わした江戸時代後期を代表する随筆。
  19. しんめんもく > 真面目 : (真の)様子、ありさま
  20. せいし > 正史 : 国家が編纂した正式の歴史。
  21. さいしょう > 宰相 : 総理大臣、首相。
  22. ばんのうこう > 万能膏 : さまざまの物事にたくみなこと
  23. ひっきょう > 畢竟 : つまるところ、つまり
  24. おうぎだにとほうじょう > 扇谷と北条 : 北条氏は武蔵への侵攻を開始し、扇谷家は上杉朝興のとき江戸城を奪われた。朝興の子上杉朝定は山内家と和解して後北条氏との戦いに臨むが、1546年、河越夜戦で戦死し、扇谷上杉家は滅亡した。
  25. ぶしゅうはちおうじ > 武州八王子 : 武蔵野国の一部で、現在の東京都八王子市あたり。
  26. なんばだだんじょう > 難波田弾正 : 難波田憲重(なんばだのりしげ、生年不詳 - 天文15年(1546年)4月20日?)のこと。戦国時代の人物。扇谷上杉氏の家臣。松山城城主。深大寺城城主。
  27. きみをおきて・・・  : 君をおきて・あだし心を・わが持たば・末の松山・浪もこえなん=古今和歌集に見られる東歌で、「仮にもあなたをさしおいてわたしがほかの人を思う心をもったりすることがあったら、(山奥にあるはずの)末の松山に波が押し寄せて越えてしまうだろう」
  28. ちゅうたん > 忠胆 : 忠義の心
  29. ついきゅうする > 追窮する : どこまでもおいつめること
  30. しし > 志士 : 高い志を持つ人。国家社会のために自分の身を犠牲にして尽くそうとする志を持つ人。
  31. くににゆるす > 国に許す : 国を価値あるものと認める

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(7)今の大臣ーその2

(7)今の大臣ー2

注;

  1. おしなべて : 全体において
  2. たいりょうかんこう > 大量寛宏 : 心の広いこと
  3. ふんきした > 紛起した : 巻き起こった
  4. わりだし > 割り出し : あるものに基づいて結論を出すこと
  5. くくたる > 区区たる : 小さくてつまらないさま、まちまちであること
  6. しょうじん > 小人 : 小人物、つまらない人物
  7. せたい > 世態 : 世の中のありさま
  8. せいろん > 政論 : 政治論議
  9. むがくもんもうのともがら > 無学文盲の徒 : 学問を知らず字の読めない連中
  10. しんもんのたつ > 新門の辰 : 新門辰五郎(しんもんたつごろう、寛政12年(1800年)? - 明治8年(1875年)のことか?浅草近辺の生まれ。浅草十番組「を組」の頭である町田仁右衛門の元へ身を寄せ、火消や喧嘩の仲裁などで活躍する。徳川慶喜と知り合い、その身辺警護を勤めた。
  11. いきづく > 意気づく : 気力、気合、意気込みをもって
  12. はらくかん > 破落漢 : ごろつき、ならずもの、破落戸(ハラッコ)
  13. きゅうごう > 糾合 : 寄せ集めること、まとめること
  14. よつでかご > 四ツ手籠 : 四本の竹を柱とし、割竹で簡単に編んだ粗末な駕籠(カゴ)。辻待ち(今のタクシー)もあって近世江戸庶民の専用。
  15. ざんじ : 暫時 : しばらく。
  16. ちゃや > 茶屋 : 客に飲食、遊興させる店。
  17. ごじゅうりょう > 五十両 : 一両は6万円以上だという説もあるが、1860年~1868年のいわゆる”幕末”では<14880円、9672円、5952円、558円、651円>と激しく変動したようである。幕末の貨幣価値外部リンク
  18. ひんせき > 濱斥 : のけ者にすること、押しのけること、排斥(ハイセキ)。
  19. ついしょう > 追従 : こびへつらうこと、おべっかをつかうこと。
  20. まきじた > 巻舌 : 舌の先を巻くようにして強く、また早口に言う口調。江戸っ子の物言いをさすことがある。べらんめえ口調。

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(8)外交の極意ーその1

(8)外交の極意ー1

注;

  1. めいきょうしすい : 明鏡止水 曇りのない鏡と静かな水=邪念がなく、静かに澄んだ心境。
  2. せけんのかぜ > 世間の風 : 世の中のならわし、しきたり、流儀
  3. れいち > 霊智 : 霊妙な知恵
  4. きにのぞみへんにおうず > 機に臨み変に応ず :そのときや場所の状況に応じて、適切な処置をすること。臨機応変。
  5. かげのかたちにしたがい > 影の形に従い : ぴったりとくっついていること。
  6. きょうのこえにおうずる > 響の声に応ずる : ただちに反応すること。
  7. ていけん > 定見 : 自分だけの確固としたものの見方、考え方。
  8. せいしんじつい > 誠心実意 : いつわりのない心とまことの心
  9. いわせ > 岩瀬 : 岩瀬忠震(イワセタダナリ)のことで、幕末の旗本・肥後守。開国を唱え、安政仮条約を締結した。のち外国奉行。(1818~1861)
  10. かわじ > 川路 : 川路聖謨(カワジトシアキラ)のことで、幕末の旗本。佐渡奉行、勘定奉行などを歴任。ロシア使節プチャーチンと折衝。江戸開城約定の翌日、ピストル自殺。(1801~1868)
  11. ごしゅう > 五洲 : 世界の5大陸。
  12. ぎがでた > 議が出た : 意見を述べた文章が出た。
  13. へいしき > 兵式 : 軍隊の運営方法のことか?
  14. さなきだに : そうでなくてさえ。
  15. あどみらる、きっぺる > Admiral, Keppel :当時までイギリス海軍に属し、世界中の戦争で大活躍をしたケッペル提督(Henry Keppel 1809-1904)のことと思われる。
  16. けいぶせられて > 軽侮せられて : かろんじあなどられて。
  17. うちうみ > 内海 : 日本海のことであろう。
  18. じっさいか > 実際か : 本当なのか?
  19. へいしんせられた > 陛進せられた : 国家元首によって、昇進を受けた
  20. りきみをみせる > 力味を見せる : こちらにも負けない力があるのだと見せること。

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(9)外交の極意ーその2

(9)外交の極意ー2

注;

  1. さがみのかんのんざき : 相模の観音崎 現、神奈川県三浦半島の先端にある岬。
  2. とうみょうだい > 灯明台 : 灯台のこと
  3. ぎがあった > 議があった : 意見があった
  4. きょうおう > 饗応 :宴会などによる客人へのもてなし
  5. カプテン : キャプテン、艦長、船長
  6. よぎなく > 余儀なく : ほかにとるべき方法もなく
  7. とうれい > 答礼 : 相手の礼に答えて礼をすること。返礼。
  8. しょうぎをとげた > 商議を遂げた : 相談をおこなった。協議した
  9. いちじょう > 一条 : 一件、一つの事件
  10. せばすとぽーるのたたかい > セバストポールの戦い : セヴァストポリの戦いまたはセヴァストポリ攻囲戦(Siege of Sevastopol)はクリミア戦争中の戦いの一つ。ロシア黒海艦隊が立てこもるセヴァストポリを英仏土連合軍が攻撃した(1854-1855)
  11. こうがあった > 功があった : 戦功をたてた
  12. おなじねんぱいのぼうだった > 同じ年配の某だった : 同じく老人で、名前は不詳であった。
  13. かつは > 且つは : さらに、そのうえに
  14. ふくぞうなく > 腹蔵なく : 心の中に包み隠すことなく
  15. えいこくこうしぱーくす : 英国公使パークス Sir Harry Smith Parkes (1828 - 1885) は、幕末期の英国外交官。倒幕、明治新政府樹立の政治路線を大きく推進した。

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(10)外交の極意ーその3

(10)外交の極意ー3

注;

  1. じょうじょう > 上乗 : 最もすぐれていること
  2. じして > 而して : しかるに
  3. じようひん > 滋養品 : 栄養のある食べ物
  4. けんぽうせいじ > 憲法政治 :規則に縛られることをさすか?
  5. かつぶつ > 活物 : 生きているもの、生活しているもの
  6. きさえうゑなければ < 気さえうゑなければ : 気分さえぐったりしなければ
  7. しょくみんろん > 殖民論 : 外国に植民地を作ろうとする政治的意見
  8. こじん > 古人 : 過去の時代の人間
  9. いまひと > 今人 : 現代の人間
  10. こにしゆきなが > 小西行長 : 安土桃山時代の武将(~1600)。キリシタンで、文禄の役で朝鮮に出兵。関が原の戦いでは豊臣側につき、破れて刑死。
  11. かとうきよまさ > 加藤清正 : 安土桃山時代の武将(1562~1611)。文禄の役で朝鮮に出兵。関が原の戦いでは徳川側につき、肥後国を領有。
  12. さかいうら > 堺浦 : 現代の大阪府堺市。
  13. きぐすりや > 生(木)薬屋 : 漢方薬を売る店。
  14. てだい > 手代 : かしらに立つ人の代理をなす者。現代の”代理店”店長に近い。
  15. どじん > 土人 : 原住民
  16. いっしょういっちょう > 一消一長 : あるものは滅び衰え、あるものは興隆し栄える。
  17. しなにはかった > 支那には勝った : 日清戦争(1894~1895)のことと思われる。
  18. ぎゃくうんにであう > 逆運にであう : 悪い運にであう、物事が一転してうまくいかなくなる。
  19. けんようのちい > 顕要の地位 : 身分の高い大切な地位
  20. だいやくなんのきょく > 大厄難の局 : 非常に困難な時期
  21. しけん > 試験 : 試練のこと

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(11)死を懼れる人間ーその1

(11)死を懼れる人間ー1

注;

  1. だんすにはたらない > 談すに足らない : 話をする価値もない
  2. げんき > 元亀 : 1570年~1573年の正親町(おおぎまち)天皇朝の年号。戦国時代の一部。
  3. てんしょう > 天正 : 1573年~1592年の正親町(おおぎまち)・後陽成天皇朝の年号。安土桃山時代の一部。
  4. いっぱんのかぜが > 一般の風が : 世間の風潮が
  5. いっしんをいさぎようする > 一身を潔うする : 自分の命を絶つ
  6. のうじ < 能事 : なすべき事柄
  7. ばんぱん > 万般 : すべての事柄
  8. かんなん > 艱難 : つらくむずかしい事柄
  9. はんもん > 煩悶 : わずらいもだえること、もだえ苦しむこと
  10. おおいしよしお(よしたか) > 大石良雄 : (1659~1703)江戸中期、赤穂浅野家の家老。赤穂浪士の頭領。大石内蔵助(くらのすけ)ともいう。主君が切腹の処分を受けると、同志とともに仇を討って後に切腹。
  11. やまなかしかのすけ > 山中鹿介 : 戦国時代の武将(~1578)。主君の尼子義久が毛利氏に降伏したが、戦いを続けて敗れ、捕らえられて打ち首にされる。
  12. ぼんよう > 凡庸 : すぐれたところのないこと。平凡なこと。
  13. ほうじ > 奉じ : 主君に仕えて
  14. やましな > 山科 : 京都市東部の区。
  15. ぎおん > 祇園 : 京都の八坂(やさか)神社の旧称。
  16. しじゅうしちし > 四十七士 : 大石ら、赤穂浪士全員。
  17. きゅうごうして > 糾合して : まとめて
  18. えんあん > 宴安 : 安んじ楽しむこと。何もせず遊び楽しむこと。
  19. しき > 志気 : 物事をなそうという意気。意気込み。

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(12)死を懼れる人間ーその2

(12)死を懼れる人間ー2

注;

  1. しな > 支那 : 中国王朝の一つ、「秦(シン)」から生じた呼称。英語の China のもとでもある。日本では江戸中期から第2次世界大戦末まで中国を指すのに用いられた。
  2. ていじょしょう > 丁汝昌 : 丁汝昌(テイジョショウ)1836年ー1895年は清朝末期の軍人。初めは太平天国の乱に反乱側として参加したが、清朝に帰順してからは李鴻章(リコウショウ)の下で働き、後に北洋艦隊の提督になった。日清戦争中に艦隊戦敗北の責任をとって服毒自決した。
  3. しゅうよう > 従容 : 落ち着き払っているさま
  4. せまらなかった > 迫らなかった : 落ち着きを失うことはなかった
  5. にっしんせんそう > 日清戦争 : 1894年~1895年に行われた日本と清国との間の戦争。中国語では甲午戦争という。朝鮮に出兵した日本が海戦を中心に勝利をおさめた。明治維新後初めての本格的対外戦争。
  6. りょじゅんこう > 旅順口 : 中国遼東半島の最南端に位置し、黄海と渤海に臨み、山東半島とは向かい合っている。1880年、清朝政府はここに北洋水師を創立しており、軍事要塞として軍港、砲台、埠頭、軍事基地などが造られた。旅順口は、冬季でも不凍の東北随一の良港である。
  7. かんなん > 威海衛 : 中華人民共和国山東省最東部に位置する現在の威海市(いかい-し)にあったかつての防衛拠点。近代にはイギリスの租借地となり、現在は地理的環境から大韓民国との経済関係が強化されている。
  8. ようがいのち > 要害の地 : 地勢が険しく、敵を防ぎ味方を守るのに便利な地。
  9. しせいのさかいにでいりして > 死生の境に出入りして :危うく死にかける経験をして
  10. しんたんをねり > 心胆を練り : 沈着、冷静、勇気を持つように鍛えて
  11. きゅうやくのいきにうきしずみして > 窮厄の域に浮き沈みして : 危難にあって苦しむ思いを何度も経験して
  12. せいせつをみがき > 清節を磨き : 汚れのない節操を高めて
  13. おうせいいしん > 王政維新 : 明治維新のこと。
  14. げんくん > 元勲 : 明治維新に大きな勲功があって、明治政府に重んじられた政治家。西郷隆盛、木戸孝之、大久保利通、伊藤博文、山県有朋など。
  15. しょせい > 書生 : 学生、研究生。
  16. ただいっかの > ただ一科の : たった一つの科目だけを
  17. せけんのふうそう > 世間の風霜 : 世の中にある厳しく激しい苦難。
  18. じんせいのさんみをなめよう > 人生の酸味を甞めよう : 人生につきものの苦難を自ら進んで受けよう
  19. さばきをつける : 判断力をもって物事をきちんと処理する

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(13)死を懼れる人間ーその3

(13)死を懼れる人間ー3

注;

  1. だいかつぶつ > 大活物 : 大いに生きているもの、生活しているもの、活動しているもの
  2. くくたる > 区々たる : こまごまとした、小さくつまらぬさま、別々であること
  3. せけんのふうそう > 世間の風霜 : 世間の厳しく激しい苦難
  4. せたいのみょうをうがち > 世態の妙を穿ち : 世間の様子の微妙な点を言い表したり、普通には知られていないところを暴く
  5. にんじょうのびをきわめて > 人情の微を究めて : 人情の細かい点を深く知って
  6. けいせいのようむをだんずる > 経世の要務を談ずる : 世を治めることで重要な点を述べる
  7. こうしんの > 後進の : 後輩の、あとから生まれてきた
  8. いうべからずみょうみ > いふべからず妙味 : 簡単にはことばで言い表せないすぐれたおもむき
  9. かっこふばつのたいせつ > 確乎不抜の大節 :意志がしっかりしていて動揺しないおおきな志
  10. せけんのふうろう > 世間の風浪 : 世間の風霜におなじ
  11. てんぽうのだいききん > 天保の大飢饉 : 天保4(1833)から3年以上続いた全国的な飢饉。特に東北で被害が甚大で、一揆や打ちこわしが盛んに行われ、幕藩体制の弱体化を招いた。
  12. ふつぎょう > 払暁 : 明け方、暁(アカツキ)
  13. とっくりつき > 徳利搗 : 本文中に解説あり
  14. つく > 搗く : 杵(キネ)や棒の先で打って押しつぶす
  15. ふるい > 篩 : 格子状に編んだ網を張り、粉または粒状のものを網の目の大きさに応じてより分ける道具。
  16. かしいで > 炊いで : 米をたいて
  17. かつは > 且は : 一つには、一方では
  18. とう > 糖 : 砂糖、または飴の類
  19. ふんまい > 粉米 : 粉状にした米
  20. しょうしんもの > 小身者 : 地位が低く、俸禄(給料)の少ない人
  21. さいみん > 細民 : 下層の民、貧しい人々
  22. うえのひろこうじ > 上野広小路 : 東京都台東区、上野駅と徒町(オカチマチ)の西側にある区域。
  23. すくいごや > 救小屋 : 天保の飢饉などの大災害の際に、幕府が江戸の被害を受けた市民を救済するために設けた、食事供与と宿泊のための施設。
  24. がふ > 餓孚 : 飢えた人々
  25. もみ > 籾 : 稲穂からとったままで、まだ脱穀も精米もしていない米。保存が利く。
  26. なまふ > 生麩 :麩(小麦粉から取り出したグルテンを主材料とする食品)のうち、まだ 焼いたり乾かしたりしていないもの
  27. するめ > 鯣 : イカの内臓を取り、乾燥して作った食品。
  28. おうだん > 黄疸 : 胆汁色素(ビリルビン)が体中に増え、皮膚などが黄色くなる症状。
  29. さしつき > さし搗 : 不明
  30. みそこし > 味噌漉 : 味噌を漉すのが本来の使い道である、笊(ザル)の一種。食品を持ち運ぶのにも使う。
  31. かのもの > 香の物 : 漬物、おしんこの類
  32. むしんをいう > 無心をいふ : 遠慮なく物をねだること
  33. かぞくさま > 華族様 : 明治初期、皇族の下、士族の上に置かれた族称。大名や公卿のほかに威信で功績のあった人にも授けられ、第2次世界大戦が終わるまで続いた。
  34. いし > 縊死 : 首をくくって死ぬこと 

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© 西田茂博 NISHIDA shigehiro

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