多言語学習への基礎

超初心者のための外国語入門

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内容目次

PAGE 1

世界のこんにちは 第1章 英語以外の言語への挑戦

第2章 音声学習  第3章 基礎構文

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第4章 文法  第5章 各国語文法拝見

第6章 応用 第7章 終わりに  追章 なぜ多国語をやるのか

第4章 文法篇

次のステップへ いよいよこれからの学習に欠かせない文法の問題に入ります。暗唱を先に行うということは決して文法をおろそかにするという意味ではありません。それどころか、むしろ文法の習得を楽にするための下準備と言ってもよいのです。すでに述べましたように、日本語を見ただけでその言語の文が口から無理なく出てくる時が(さらに文字でも書ければ申し分ありませんが)、文法に本格的に取り組む潮時です。すでにおおざっぱな文法構造は暗唱をしている間にできているわけですが、これを1課ずつ丹念に見て行きます。

語尾変化を覚える さて英語と中国語を除くほとんどの言語が学習者にとって大変なのは語尾変化といえます。アラビア語の語根変化、ロシア語の動詞は言うまでもなく、名詞に及ぶ格変化、フランス語やスペイン語での、時制の変化による複雑な活用があり、朝鮮語では、動詞の語幹の変形や、連体形の込み入った構造、など、枚挙にいとまがありません。

このような語尾の学習を1課ごとにやっていたのでは、全くいつになったらマスターできるものやら見当もつかないと言えます。従って暗唱の段階では、そこの所は基本構文に出ているものにとどめて覚えておくだけにし、暗唱ができた段階で、これらの語尾変化を全部そろえて電車の中なり、トイレの中なりでゆっくり覚えてゆけばよろしい。

たとえば海外旅行に行って実際に使うのは「現在形1人称単数(私)3人称単数(彼、彼女)」と「命令形(おまえ・・・しろ)」だけですから。ただ、その場合に即座に役に立つのが、すでに覚えた基本構文の中身です。なぜならば、一部が音としてすでに身に付いているために、文法として説明を受けたときに、抵抗なく自然に頭に入ってくるものだからです。

覚えた音が記憶の中に たとえばスペイン語で3人称複数の「彼らは・・・だ」というような英語のbe動詞にあたるものはestanと言いますが、これが覚えてある基礎構文の中に含まれているとすると、あとで1人称から3人称に至る活用を覚えるとき、その中に含まれているわけで、そのために記憶をするときの「手がかり」になり、思い出すのが大変楽になるのです。

また、朝鮮語の場合、ハングル文字の習得の難関があり、文字は音声の後ろ盾がなければ決してものになりませんからなおさらのことです。中学校の英語の学習では、発音が全く分からず、単語の綴りだけを覚えるというような、恐るべきことが行われていますが、基本例文の音が頭に入っている限り、そこから離れたさまざまなハングル文字の読みとりにスムーズに入っていけるわけです。

問題を解く ほとんどの語学のテキストでは練習問題がついています。その形式は時制を変換する、指定された語句を代入する、その文法事項を応用して文を変える、という形式であり、基本構文を元にして作っているので、これらの例文を暗記したあとでやってみると、暗記する前とでは比較にならないくらい楽に問題を解いてゆくことができるし、所要時間が短いので、繰り返しやることができるので効果が倍増します。

これはすでに頭に入っている音声が、文法規則という「理屈」と堅く結びついたために、効果的な運用が可能になったのです。語学を勉強する人が、特に独学では練習問題をやることが、非常に頭を「疲れさせる」ために、また時間をおいて再びやってみると忘れてしまって努力の2度手間になるため、避けて通る人が少なくありません。

語学の勉強で一番大切なのは達成感であり、絵や音楽と違って、検定試験のような具体的なテストを受けない限り、自分が進歩したという実感がもてないために、練習問題をスムーズに解くことができるという実感は語学学習の継続にはなくてはならないものだといえます。

秘術 さて、「15.6歳の学生に、文法書と辞書を与えて適当な指導を与えれば、2,3年後には英米の読書階級が読むような本でも正確に読むようにすることができる(「秘術としての文法」渡部昇一・講談社学術文庫)」、かどうかはともかくとして、文法を道具として使いこなすことが「大人の語学」であり、決して学校での学生いじめの道具ではないことはこの小論をお読みの読者にはすでにおわかりでしょう。

どうも受験教育のせいで文法の役割が過小評価されているような気がしてなりません。すでに述べましたが、海外旅行のアクセサリーとしての挨拶だけであれば、文法は必要ありません。しかしまとまった自分の考えを互いに伝え合うには、論理の組立が必要です。「条件、理由、仮定、比較」などの道具を使って相手に分からせるのは人類共通に存在する言語機能です。

その理論については拙文「Language and Thinking言語と思考」に譲りますが、そのシステムの基礎的な共通部分はすべての言語において、先に述べた基礎構文に収まる程度のものであり、誰でもそのコンパクトな規則を駆使して、日常生活を送っている訳なのです。もちろん、細かいことにまで立ち入れば、専門書の書棚に並んでいるような膨大な量になりますが、最低限のルールでもコミュニケーションは可能です。

第5章 「各国語文法拝見」篇

ラテン語系統 しかし、すでに述べた6カ国語に関してはそれぞれの文法体系の違いを十分に認識しておくことが大切です。まず、英語スペイン語フランス語の3つにさらにイタリア語、ポルトガル語も加えて発生の時代も、地理的な位置に置いてもきわめて似通っているため、その学習も一つを習得していれば、きわめて容易です。

この中で英語はもともと、ドイツ語やオランダ語に近いゲルマン諸語に属しますが、ローマ帝国、そしてフランスに占領された時代が長かった結果、ラテン系の語彙や文法的特徴を数多く備えるようになったのです。

BE動詞の役割をするものが存在すること、動詞を中心とする並べ方が同じこと、接続詞による文を追加できること、関係詞による名詞の修飾があること前置詞によって、形容詞や副詞の働きを作れること、の5点は決定的にこれらの言語を近いものにしています。

語彙に関しては、「リンゴ」、「ストライキ」「水」などのように日常的に使うことばには大きな隔たりがあるものの、ちょっとでも抽象的な分野の語彙になると、語源的に同一であることがすぐわかるほど似ています。

まるで違う日常語(英・仏・西)
リンゴ ストライキ(争議) スカート
apple アップル strike ストゥライク water ウォータ skirt スカート
pomme ポム grève グレーヴ eau オー jupe ジュップ
manzana マンザーナ huelga ウエルガ agua アグア falda ファルダ

違いと言えば、代名詞を置く場所がそれぞれ異なること、それぞれに歴史的な痕跡を残した動詞の人称、時制の違いによる独特の活用があることでしょう。しかし実際にこれらの言語をイタリア語も含めて学習してみて驚くのはその類似性です。

ただ、皮肉なことに、シンプルで国際語と言われている英語が、その語法体系の複雑さにかけてはピカイチであり、そのほかの言語はそれに比べるとさほどでではないということです。これは英語が特に、語学的な研究の対象になってきていることと無縁ではないでしょうが、もともと英語には報道、ビジネスのような実用的なコミュニケーションの手段とは別に、詩、エッセイ、実験的小説の占める領域という、二面性を持っているからです。

「格」が大変 さて、ロシア語もおおざっぱな見方をすれば、西ヨーロッパのラテン語に関係の深い、先の3カ国語に近い構造を持っていると言えます。ただ、ゲルマン語系と同様、この言語の歴史的な変化は少なく、古い時代の言い方を現在にまで持ち越しているところがあります。その結果、BE動詞の働きがないこと、名詞に男性、中性、女性の区別はもちろんのこと、依然としていくつもの「格」が存在し、それによって、形容詞にも複雑な活用を要求しています。

格というのは、最も基本的なものは、主語を表す印、目的語を表すしるしのことです。これらはたいてい名詞の語尾についています。これがついていれば文中のどこに持ってきても、主語や目的語であることがわかるので、語順が自由になります。日本語での「太郎は」「太郎が」「太郎を」と最後にくる -wa/-ga/-wo も見方によっては格の一種だといえます。だから「格助詞」などと名づけられたのです。現代語の多くのように代名詞を除いて格をなくしてしまった場合、語順を厳しくして意味が不明瞭にならないようにしなければなりません。

不思議なことに、言語は昔にさかのぼるほど複雑で覚えにくいものです。ラテン語、古代ギリシャ語、サンスクリット語、どれをとってもこんな難しい言語を使いこなすことができた人が本当にいたのかと首を傾げるほどです。もっとも、口語体はそれほどではなかったと思いますが、それでも現代英語や中国語のシンプルさに比べると、雲泥の差です。昔の人、特に社会階級の上層部はよっぽど暇だったのかもしれません。毎日詩作に励み、超複雑な言語構造を構築するのが生きがいだったのかもしれません。

別世界の言語ではない アラビア語も基本的にはインド・ヨーロッパ語族と似ています。あの文字が全く異質の言語のような印象を与えますが、アルファベットになおし、右から左を左から右に進むようにすれば、動詞によってできる文(順序は異なるが)、接続詞、前置詞、関係詞の使用に関してはさほどの差がないことが分かるでしょう。

アラビア語もロシア語と同じく昔の形をかなり引きずっているところがあり、このために生ずる複雑な不規則動詞のさまざまなタイプを覚えることになります。ただ、アラビア語の文法を研究する人と、英語その他の文法の研究者との共通点を見つける努力が足りないため、違いばかりが目立ち、目に見えない類似性が、文法用語の違いによって一層隠されてしまっていることは確かです。言語は人類の共通財産であるという考えに立ち、できるだけ多くの類似点をこれから探してゆくのが我々の仕事です。

切りつめた言語 さて、中国語をやった人なら、その語順が意外と英語に似ていることにびっくりするでしょう。確かに動詞の文型などでは互いの共通点が目に付きます。しかし中国語は英語以上に単純化され、文法事項を極限まで切りつめた言語です。漢字文化圏に育った人なら気にならない、文字の問題をさておくと、ある意味では世界で最も歴史的に進んだ言語だともいえます(ロシア語のような複雑な活用のことを考えれば)。

言葉を並べる順番がきちんと決めてあるので、漢字はその置かれた場所によって、品詞がいつでも変化する。前置詞(のようなもの)以外に連結のための機能語を持たない、時制がなく、ただ、「完了」か「不完了」かだけで区別する、などの特徴があります。けれども、このように普通の言語なら当然備わっている文法機能をばっさり落とすことを可能にしているのは、やはりその背後に漢字という膨大な「記憶装置」があるからにほかなりません。

漢字は日本語の場合と同じく、同音異義語が多く、中国人の頭にたとえば、ma という音に対しては文脈に応じて、「麻」、「馬」、「母」などの概念が浮かぶわけです。(イントネーションを示す4声による区別はある程度できるが)英語の方は表音文字なので、これ以上の単純化は曖昧さを引き起こすだけでしょう。

ところで時制がないと言いましたが、ほかの言語でも時制がないとか、軽視されていることが多く、(日本語もそうですね)この忙しい現代生活にマッチしないのではないかといぶかる声も聞こえてきそうですが、不思議とどの言語でも備わっているのが「完了」と「不完了」との区別です。英語での現在、過去、未来の完了形は言うに及ばず、ロシア語の完了体、不完了体、そして中国語での le による完了表現など、実生活に必要なのは「やっている、やる」なのか「やってしまった」の区別だというのは面白い現象です。

日本語の語順 最後に朝鮮語ですが、独創的なハングル文字を覚えなければこの世界に入っていけません。しかしひらがな、カタカナと同じくらいの数なので、ヨーロッパ人が漢字を覚える苦労とは比べものになりません。さて、朝鮮語をやって驚くことは漢語を語源とするものを除いて、これほど語彙が違っているのに、文法構造が日本語と酷似していることでしょう。このことはモンゴル語やトルコ語についてもいえることですが、もし、古代において同一の言語的祖先を求めることができないとすればどうかしています。どんなに語彙が異なっていても、文化的な相違があったとしても、文法構造の類似性はどれだけ外国語の学習を楽にすることでしょう。一方、朝鮮語を母国語にする人は日本人と同じく英語が苦手と聞いて、異なる文法構造が言語習得の障害となることも痛感させられます。

助詞の共通性 どれだけ似ているかと言えば、いわゆる助詞、私「は」「も」「が」「に」にそれぞれ対応する言葉があることが筆頭にあげられます。ただそれだけで、語順がほとんど全くと言っていいほど同じになり、「何歳におなりですか」、のように日本語から見ると、やや古めかしい感じのする表現がいくつか見受けられるものの、ほぼ出てくる単語をそのままなぞってゆけば、両国語間の翻訳はできてしまうといっても言い過ぎではありません。朝鮮語を聞いていると、何となく東北地方の方言にリズムやイントネーションの点で似ているところが見受けられます。このことはともに寒い気候による影響といえるのかもしれませんが、鼻音に共通性があるのです。日本語との最大の違いは朝鮮語における連体形の複雑さです。日本語であれば、「美しい」プラス「花」のように終止形をそのまま名詞につなげてしまえばいいのと違い、動詞、形容詞に特有の語尾があり、しかも変格活用が多いのが最大の難所だといえるでしょう。

異なる文字 しかし全体としての類似性と比較すれば取るに足りません。むしろハングル文字の存在は朝鮮半島の町を歩くとき、英語の看板の多い、インドなどに比べると、異国の感を強くするでしょう。かつてのようにハングル混じり漢字文であれば、漢字から意味を大体推定することができたでしょうが。日本語にたとえれば、ひらがなカタカナかローマ字だけのようにして、この表音文字を覚え、さらに単語の視覚的な「かたち」を身につけてしまわねばなりません。アラビア語にもいえることですが、文字の読みとりに通暁するためには、音を唱えつつ、実際に書いてみる、そしてもしワープロがあれば打ち込んでみるのが文字を意識的に覚え込む、最も実際的な方法といえましょう。

第6章 「応用」篇

とにかく語彙を増やせ 応用レベルに向かう最大の関門はなんと言っても語彙です。たとえ基礎構文を完全に暗記したとて、そこに含まれる語彙は200にも達しません。その言語の全貌が大体つかめたのに、言い表せる単語が頭の中にない!まさに「隔靴掻痒」の状態です。役立つ語彙を増やす方法は、同じ基礎レベルの他のテキストを復習することです。その中で最も無理なく、半年以内で一通りの単語を身につけることができるのが、NHK ラジオまたはテレビ講座のテキストです(英語、フランス語、スペン語、ドイツ語、ロシア語、中国語、イタリア語、朝鮮語があり、アラビア語はなし)。これは別に毎日ラジオやテレビのスイッチを入れる必要はありません(できれば理想ですが)。テキストを「音読」するだけで十分です。これによって(ここが大切なところですが)「文の中で」単語をものにしてゆくのです。単語帳を作ったり、書いたりするような「無理」は避けましょう。基礎構文が頭にはいった今、リラックスして楽しみながら日常生活では絶対に必要な語彙からものにしていってください。

中級者のための毎日の学習パターン

三位一体図まず手頃な中級用教材(ちょっとした評論や随筆など)を手に入れ、始めから終わりまで徹底的な精読により、構文と語彙を明らかにする。テキストは別に、何でも書き入れられるノートを用意し、気づいたことはすべて書き入れる。ただしこの段階ですべてを覚える必要はなく、むしろ「理解」に重点を置く。知識の定着は以後の「復習」にて行う。

  • 第1ステップ;再び精読、ただしメモを見て忘れた部分を思い起こしながら。
  • 第2ステップ;テキストを見ながらのリスニングにて音声再確認、これにて覚えた構文や語彙を「音」によって定着させる。・・・今まで日本人が一番軽視してきた部分・・・実は最も大切な部分。
  • 第3ステップ;テキストを見ながらの音読。リスニングにて聞き覚えた音にできるだけ近く再現できるように努力する。ついでに語彙も覚えてしまう。

第4段階 最後に基礎構文はほぼ苦労なく暗唱でき、文法も基礎に関しては一応身につけた段階に達したあとのことを考えてみたいと思います。このレベルのままで当分いいとすれば、すでに述べたように、最低週一度の暗唱と、2ヶ月に1回ぐらいの文法の復習で、語学力を維持できます。

しかし、もっと先を目指し、ゆくゆくは現地語で書かれた新聞を読めることや現地語でのテレビ、映画を耳で理解できることを目指すにはこれまでの方法から脱皮しなければなりません。もっとも、このレベルに達した人はそのためのアドバイスを必要とせずとも、一人歩きをできるようになっているとは思いますが。

ただ、最も低費用で無理がなく、音声と文の解釈の両方のトレーニングに向いているのは、またまた NHK ラジオ講座の、金曜日と土曜日に放送される、各国語の「応用編」です。これは中級ではなく、上級といえるほどの難しいもの(文芸作品、特に詩)を扱う場合もありますが、週に2回だけなので、残りの5日間を復習に当てれば、十分に余裕を持って進めることができますし、その進度に何とかついてゆくことができるとすれば、「基礎構文」「基礎文法」は卒業です。

基礎レベルの辞書を この時点で初めて、辞書の必要性も感じるはずです。今まであてがわれてきた語彙に対する再確認、そしてこれからどんどん出てくる新しい表現に対処するためです。ただし、本格的な、細かい字で印刷されたものはさらに2,3年先で、それまでは「基礎レベル用」と銘打ったものをページに手垢が付くまで使った方がいいのです。というのもこのレベルでは語彙を増やすことも大切だけれども、多義語、重要語の用法についての知識を拡げることの方が将来的に必要だからです。

このように辞書の「2段階レベル」に分けた使用法の重要性はあまり認識されていないようです(多くの人が2重投資だと勘違いしている)。しかし、英語以外ではどの言語でも、それぞれにふさわしい辞書は出ていますし、「大は小を兼ねる」と称して、本格的な辞書を早々と使い始めても消化不良を起こすケースが非常に多いのです。

ところで、残念ながら英語は事情が違います。というのも、英語は中学一年生から教え始めるため、「基礎レベル用辞書」は同時に14,5歳の子供向けになっているからです。そのため大人になって英語を本格的に学習したい人は、まだ基礎的な力しかないのに、本格的なレベルの辞書を買う羽目になります。また英語が受験科目に組み込まれているため、重要語の語法を詳しくのせたものより、試験に出そうなたくさんの語彙を覚えさせるだけが目的の参考書ばかりがあふれています。早く「大人向け」の「基礎レベル用」の辞書が良心的な出版社から出ることを期待する次第です。

ただし、2000年12月現在の状況では、桐原書店で出ている、ロングマン エルドス2000活用英単語 Longman Ldoce 2000 Active Words ・稲村松雄・監修/名和雄次郎・編著 ・B6判(ケース入り)/376頁/本体1,800円 と、OXFORD の辞典で WORDPOWER / 本体2200円 の二つが最も有望である気がします。なお、フランス、スペイン、ロシア、アラビアの各国語に関しては、白水社の「パスポート」シリーズがあり、これらは適切でわかりやすい例文を含んだ、実に使いやすい辞書です。

辞書を読む 応用段階にさしかかろうという人にぜひやってもらいたいのは、上で述べた「基礎レベルの辞書」を引くだけでなく、暇があるたびに「読んでみる」ことです。本屋に行けば、NHK のテキストをはじめとして、どの言語でも実に豊富な参考書がそろっていますが、易しい例文を取りそろえていることにかけては、辞書に勝るものはありません。

少なくともそれぞれの辞書で指定している、約800から1000語の「重要語彙」をすべてマスターするまではほかの教材に移らず、ひたすら、辞書の例文を読んでその用例に多く触れることが役に立ちます。例文ではたいていいちいち丁寧な和訳が付いていますし、使われている語彙もみな基本的なものだからです。

重要語についての主な用法を一通り経験しておけば、あとで多読に入った場合に、基本的なことにこだわることなくスムーズに学習を進めることができます。本格的なレベルになってから基礎的なことを辞書で調べ直すのは気が滅入ることですから。

語彙は2年計画で 最低限800個の単語はものにしなければなりません。最も無理のない方法は1週間につき10個づつ覚えてゆく方法です。1年間は52週、2年間で104週、できない週も考えに入れて2年間で終了するはずです。(急ぐ方はこれを2倍、3倍にしてどうぞ!)

ただ覚えるときは品詞の区別は必ずすること。形容詞か副詞かわからなくて、将来役に立つはずはありません。少なくともこの数だけの単語は、中間試験を控えた女子中学生のように丸暗記でも何でもいいからとにかく頭の中に詰め込むこと。できたら辞書の例文の中で覚えること。

カード方式 単語カードを作るのは昔ながらのよい方法です。それは「並べ替え」「抜き取り」がきくからです。たとえば、英語の前置詞といいますと、約60個ありますが、カードからその60個だけを抜き出して徹底的にものにする。すでに覚えてしまい、完全に自信の持てる単語は、覚えるべきカードの中から削除してしまう(あるいは昔の受験生のように食べてしまう!)。

多読しかない この段階を過ぎるといよいよ多読です。すでにHow To Brush Up Englishでも紹介してあるように、読解力の無理ない養成は児童文学から始める、それも自分が幼い頃になじんだ物語が最も効果的です。そのあと少しずつレベルを挙げ、身近な話題から、自分の最も興味ある分野へと進んでゆくのが望ましい。

そしてこの島国日本に住んでいて、他の国語を習得しようとする限り、できるだけ多く、その言語で書かれたものを読むことにつきます。高校生のほとんどが、英語ができないことの最大の原因は自分の英語力に見合った、多くの文を読む機会がまったくないためです。日々接する英文とは、教科書に書いてある数十行の英語と練習問題、入試問題だけ。副読本を課す学校もありますが、それを加えても必要な量から遠く及びません。

彼らの英語の力を高める方法はたくさんの試験問題を解くことではなく、できるだけたくさんの英文に触れることなのですが、日本語の文を読む量すら減っていると嘆かれている今、こんな考えは全くのファンタジーなのでしょうか。とにかく、英語もそれ以外の言語も大きな本屋さんを捜せば、易しい読み物はいっぱいそろっているのですから、実行に移すのは、「基礎構文レベル」に到達した人ならだれでもできます。

速読も 大切なことは「基礎構文レベル」からのスムーズな切り替えです。それまでのあてがわれた、「型」を覚えるのと違い、今度は、その応用をしながら、文を読んでゆくのですから、自ずと方法は違ってきます。それは一言で言えば、「精読」方式から「多読」方式への大転換です。

NHKラジオ講座の応用編ならば、精読方式をそのまま引き継いでもいいのですが、副読本による勉強なら、(そのレベルに達しているなら!)辞書をできるだけ引かず、(引くなら自分で意味を推定したあとで!)パラグラフごとの要約を作ることに専念するような読み方に変更すべきです。

実は多くの人がこの勉強法の「変態」を遂げずにいるため、さなぎの状態、つまり、いつまでたっても漢文を読み解くような読書法にとどまり、語彙ものびず、文をたくさん読めないから、さまざまなタイプの文を経験できないために「基礎構文レベル」以降の進歩が著しく停滞するのです。

外国語放送を聞く 聞き取り力の養成も、How To Brush Up Englishの中で述べていますが、英語(とフランス語)の場合は映画のビデオという強力な味方がおり、シナリオもさまざまな出版社から出ているので教材に困ることはありませんが、それ以外の言語では、そのような教材を求めることはきわめて困難で、あっても大変高価です。

そこで登場するのがインターネットラジオであり、放送局の選定と、番組スケジュールさえ手に入れれば、かなりの効果を期待することができます。特に日本語放送をやっているならば、そこで得た情報や、手紙の送り先をチェックして、望む言語での放送を聞くことができるようになります。

どうしても島国日本に住んでいると、書かれた文の読みとりだけに偏ってしまいがちですが、聞き取り能力をあとで高めようとしても、読解によって固まってしまった場合は、またはじめから音の特性に慣れ直さなければならず、大変な苦労を味わうことになります。

すでに基礎構文のところで述べたように最初の段階で、まだ頭がその言語に対して白紙の状態にあるときに、聞き取り能力は付けておくべきであり、その後も、読みとり能力とバランスをとって進めて行かねばならないのです。

変化した音声 実地に聞く音声はテキストでゆっくり話してくれる音声と全く違います。英語の音はその点、最も極端でしょう。人種間の違いも、階級、職種による違いもありますから。フランス語の音はそのような差はあまり感じられませんが、とはいうものの、庶民が日常生活で早口でまくし立てる音声が、テキストの模範的な音から遙かに変化してしまうことは絶対に忘れてはいけない事実です。

映画、ビデオ、テレビドラマ、ラジオドラマで話される音声を聞くときには必ず念頭に置き、模範音と比較し、どのように変化するかを常に研究することが必要です。英語ではそのような変化を理論的に研究し、まとめた本も出回っていますが、その他の言語ではとてもそこまでつっこんだものはありません。(2004年6月現在)ですから常に模範音との比較をすることが聞き取り訓練の神髄であると思ってください。

私も、中国語を早口でまくし立てる人をテレビで見て、あの「4声」の区別はいったい何だったんだろうと思いました。あんなに早口で言うなら、イントネーションの「上向き」、「下向き」、「高く維持」、「低く維持」、などの注意は何のために必要なんだろうかと。けれども数多く聞くうちに、音の「崩し方」「連結の仕方」「別の音への変化」にもある程度の法則性があって、それを一つ一つ会得してゆくうちに、最初にテキストで習った基礎的な音の重要性が改めて分かるようになったのです。

知らない単語、言い回しは何千回聞いても理解できるわけはありません。しかし、「記憶された音」なら何回かの訓練で身に付くものです。聞き取り訓練をする多くの学習者はそこの所の区別をおざなりにしているようです。

第7章 終わりに

世界の言語ガイドブック(1)「発音」「基礎構文」「文法」「応用」この4つのステップに分けて、超初心者が外国語に挑戦する過程を考えてみました。日本人が外国語の学習が苦手なのは、その中に正しい言語習得の方法論を確立していないからに他なりません。

確かに語学には音楽や絵と同じように才能がものを言う面もあります。でもすべての人が通訳や翻訳者になるわけでなし、「実用面」「趣味としての面」を満足させるレベルに到達するには時間と努力を最も効率的に運用することが必要です。

日本人が江戸時代以来やってきた漢文の勉強法が今の語学の勉強に大きな影を落としていることは否めません。また、私たちは言葉を覚えたばかりの幼時ではなく、一つの文化の中に規定されてしまった立派な大人ですから、単なる繰り返しや、理屈のない勉強も受け付けることはできないわけです。

世界の言語ガイドブック(2)以上の点を考慮に入れた上で、基礎構文を中心にする方法を提案してみました。忙しい現代人で、その言語の話されている国へ出かけてゆく時間的、経済的ゆとりもすぐには得られない人にとっては、大いに役立つと信じます。

参考文献

世界の言語ガイドブック(1)ヨーロッパ・アメリカ地域 東京外国語大学語学研究所(編)三省堂

世界の言語ガイドブック(2)アジア・アフリカ地域 東京外国語大学語学研究所(編)三省堂

追章 なぜ多国語をやるのか 

答は簡単だ。一週間は7日あるからだ。正確には、日本語と英語を加えれば9カ国語になるわけだが、この二つは、日常的に使うのと、仕事で使うのとで、毎日否が応でも接するから別にしておこう。

語学の大部分は記憶力に頼らなければならない。だが繰り返しをしなければ、せっかく覚えたものもついには消滅してしまうから、これを防止するためには、最低1週間に一度復習する必要がある。研究する外国語を7つに絞ったのはそのためだ。

なお、言語を「地域語」と「公用語」に大別しておく。ある特定の国やさらに狭い地域で話されており、その地域をでるとほとんど話す人がいないのが地域語である。日本語がその典型であろう。

これに対し、地域語のさらにいっそう小さな言語集団がひしめき合い、その数があまりに多いためにコミュニケーションがまともに進まない地域で、誰もが母国語以外に使う言語が公用語である。

一日を、それらの言語のためにあてることができれば、無理なく少しずつではあるが、習得していくものと期待している。ところでその言語とは、朝鮮語、中国語、ロシア語、アラビア語、トルコ語、スペイン語、フランス語、である。

ところが時がたつうち、それでもさらに追加しなければならなくなってきた。それはエジプト・アラビア語・ヒンディー語スワヒリ語である。全部で10カ国語になったが、そうなったら10日間サイクルでぐるぐる回ればよい。

地域語でもある朝鮮語のほかに、中国語とロシア語は、わが「ヒギンズ言語研究所」にあるとおり、日本が日本海を挟んで接している国々だからである。距離的に近ければ、使用する機会も多いと考えられる。

もっとも日本海側に住む人々で、これらの言語を真剣に必要と感じた人は、海上保安庁職員や漁船員以外にいただろうか?今までいかに交流がなかったかを思い知らされる。これが似たような距離にある、北海を中心とした、イギリス、デンマーク、オランダ、スカンジナビア諸国と比較して見よ!

その他の言語は、話されている人口の多さというよりは、公用語としての地域の広さと、歴史的な長さによる文化的影響を考慮に入れた。アラビア語は北アフリカと中東諸国、トルコ語はトルコ本国と西にドイツまで、東に中国領まで伸びる中央アジア一帯、スペイン語はブラジルとカナダをのぞく南北アメリカ(アメリカ合衆国でのスペイン語の普及は高まる一方だ)、フランス語は、フランス本国と北アフリカやインドシナ半島、カナダ東部。

ヒンディー語を加えたのは、インドという巨大な多民族国家の公用語としての将来が見込まれるからである。よく旧植民地操守であったイギリスが残した英語がこの国ではよく通じると言われるが、インド国家全体の共通文化、マサーラーを表現するためにはヨーロッパ言語では不十分である。

最後にスワヒリ語を取り入れたのは、タンザニアを中心とするアフリカ南部東海岸を中心とする重要な共通語になりつつあるからだ。フランス語に文法構造が似ているが、語彙は、地元の部族文化に密着している。北部のアラビア語、フランス語、南部の英語に挟まれた地帯の公用語としての将来が期待される。

言語としては世界中に何千もあるといわれる、その土地固有のものより、共通語としての性格のほうが重要だ。そして、一番大切なことは、現在のような英語独占体制を崩すことである。言語的に言えば、英語は中国語と同様、極端に簡素化されており、曖昧な部分が少なくない一方で、語彙やイディオム的な表現がやたらに増えてしまっていることで、必ずしもすぐれた言語だとは言いかねる。

ただ、現在のようにビジネス中心の世界であれば、決まった表現を駆使して取引を行うとき、英語の方が何かと便利であろう。ただ文化的な多様性の観点から見れば、英語だけで中心的役割を果たすのは決して好ましいことではない。

企業間の競争もそうだが、競争相手が多すぎて乱立したあげく共倒れになるのもまずいが、寡占によって、勝ち組だけが突出するのも決してよい結果を生まない。理想的なのは、3つから6つぐらいの相手で競争することなのだ。

上にあげた言語は、国連の公用語が含まれている。アメリカの拒否権だけが行使されるような安全保障理事会では困るように、英語だけの独壇場でも、英語の不得意なものにとっては困るのだ。

さらに、その言語を母国語として使用している人の言語的優位性の問題も考えておかなければならない。この問題は、いくら公用語を増やしても解決するものではなく、エスペラントのような純粋な意味での人工語を創造することによってしか、方法はない。

ただ、すでにエスペラントそのものは人工語の持つ不完全さによって、普及が頭打ちになっている。最終的に世界の言語の集大成としての新国際語を造ることが求められているが、それはずっと先の話になりそうだ。

今のところは、別の項で述べたように、「自分は母国語で話すが、相手の言語で聞く、またはその逆を行う」、というルールによって会話をすすめてゆくしかないのであろう。でも人間の頭は外国の3つや4つぐらいは収容できるスペースはあるのだから、挑戦してみたら?

HIGGINS言語研究所所長 西田 茂博 Shigehiro Nishida

1998年12月 作成初稿 2008年8月追加・訂正

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