政治時評

杭州・西湖

法制度や行政によって社会に実現するべきだと思われる具体的方法

HOME >  Think for yourself > 政治時評 > 現代資本主義

現代資本主義は進行方向を誤った

===安売りで体力消耗を強いられる企業。技術の粋を尽くしても儲からない構造。規格化、均質化された製品の運命。===

製品の優秀さで定評があったソニーが減益で苦しんでいる。その主な原因は、店頭での安売り競争だ。アメリカが広めた、規制緩和と自由競争は、名門企業をも苦境に陥れる。品質に差がない場合、結局価格競争に陥るからだ。安く売るために企業は従業員の給料を下げ、長時間働かせ、コストをぎりぎりまで切りつめなければならない。

相手の会社が値下げをすれば、それに負けないだけの値下げを続行しなければならない。このようにしてお互いに価格を下げるのは一見消費者にとっては利益になるようであるが、実はそうではない。当事者である企業は確実に体力を消耗し、競争は意味のないものとなり、脱落する企業が相次いで、結局のところは寡占化が進む。

短期的に消費者は得をしたように思えるが、長期的には寡占化と多様性の喪失、従業員の疲弊、そして有用な熟練工の失業が相次いで起こり、その国の経済自体を弱体化することによって直接には目に見えない大きな被害を被るのである。

ソニーの場合には薄型テレビをはじめとするデジタル電化製品の分野であった。これらはかつてない高度の技術に支えられており、これらはこの企業の中で蓄積された高度な技術遺産だ。その企業は勢いが衰えると、どこかの会社に買収される。内部での伝統は打ち壊され、それまで協同して働いていた技術者たちはバラバラにされる。

ガソリンの場合はもっとひどい。ガソリンの場合の品質の違いなど、ハイオクタンの場合を除いてまったくないに等しい。ガソリンスタンドの売り上げは一つに立地、そしていくつかの店が集中している場合には、1円、2円単位の価格差だけだ。しかも無人スタンドの普及によって、サービスによる差もつけにくくなった。かくして多くのガソリンスタンドがつぶれている。すでにスタンドの数が多すぎたということもあるが、施設は再び利用されることのないまま、吹きさらしとなり、投資は浪費される。

タクシーも規制緩和を受け、新たに参入する業者が相次いだ。地方都市では、そもそも失業者が多いために、多くの人々がタクシー業に望みを託した。だが、それでなくても地方では高いタクシー料金を払わずにバスに乗り、あるいは無理してでも自家用車を買う人々の方が多いから、どうしてもタクシーは供給過剰となる。かくして地方都市の駅は、客待ちのタクシーがラセン状にぐるぐるといつも取り巻いているのが当たり前になった。

酒屋の規制緩和も消費者の役にほとんど立っていない。なるほど安売り酒屋が一時は大いにはやった。だがその店の件数が増えるにつれ、多くの店が淘汰されていった。ディスカウント店は原則として配達をしない。これは消費者に車がないと買いに行けないことを意味する。ビールの大箱を担いで買っていく人はいない。大都会であっても自家用車がないと不便な状態を作り出され、これが交通渋滞と汚染に一層拍車をかける。一方では近所にあった昔の酒屋は衰退していく。

高速道路を走る大型トラックの運転手はみな過労でひどい睡眠不足に陥っている。しかも年々その給料は下がっていっている。トラック一台あれば安易に運送業を開業できるものだから、どんどん運輸会社が増えて、運賃の安売り競争になった。我々がインターネットでお買い物をすると、最近では「代引き手数料無料」、「運賃無料」という但し書きをよく目にする。これはなにを意味するか?ただで運送会社が引き受けるわけはないのだが、裏で恐ろしいほどのダンピングが横行していなければこんな事はあり得ない。

我々はスーパーで買い物をすると、ビニール袋はただでもらえる(なかには数円を取る「良心的」なスーパーもある)。これはポリエチレン製造会社がいかに安くスーパーに製品を卸しているかを意味する。客はただだからどんどん無駄に使い、買い物袋を持ってくる気はさらさらない。袋代が、スーパーで売っている品のものに上乗せされているとしても、それを知って袋の浪費をやめようと考える客はいない。

スーパーでは、野菜、果物、肉、魚に関しては地元の産物だけでは品揃えが間に合わないので、国内の遠隔地から、そして地球の裏側からも調達する。客はその際の運賃計算など誰もしないだろう。メキシコで生産されたカボチャが飛行機で運ばれ、トラックに乗せられ、どうして地元で作ったカボチャより安いのか?

なるほど日本とメキシコとの為替差額は極端に大きい。だがそれにもましてここまで持ってくるときの運賃の安さである。野菜果物、特に葉ものに関してはいくら保存技術が発達しても船でのんびり運んでくるわけにはいかない。実は、今どこの空港でも「貨物機」というのが非常に増加しているのだ。それもジャンボで。

ジャンボジェットが離陸するときは最大出力にするのだが、いったいその時にどのくらいの燃料を消費するかご存じだろうか?それでも安いカボチャが店頭に並ぶだけの運賃しか要求していない。これは次々と倒産する会社が出ているのでわかるように、航空業界は安全に響くほどの価格競争を強いられているからだそれでもアメリカ以外の多くの航空会社は国によって援助を受けているので、そう簡単にはつぶれない。

もちろん肝心の燃料の値段が安いのは中東の石油の価格が異常に低く抑えられているからだ。先進国の石油メジャーの頭を押さえられている産油国は、もう石油資源のピークは過ぎた(特にサウジアラビアなど)のを知っていながら、このままの値段を据え置いている。安いから浪費は依然として続く。

もっとばかげた話がある。栃木県のイチゴ生産者が香港にイチゴを輸出するのに成功したということだ。大きさをそろえ、痛まないように特殊な緩衝材を間に挟み、早朝収穫したイチゴを5,6時間後には香港の高級スーパーの店頭に並べている。もちろん地元のイチゴの10数倍はする価格だが、成金というのはそういうものを平気で買う。これが経済を活性化するのだと信じているのかいないかのかしらないが。

フランス革命前夜の有名な逸話に、王妃のマリー・アントワネットが、一般民衆が飢えに苦しんでいるのを聞いて、「パンがないならお菓子を食べればいいのに」と言ったそうだが、現代文明はそれを遙かに上回る愚劣さで進行している。

もはや資源の浪費はアメリカ生まれの信資本主義によって、とどまるどころかどんどん加速している。となれば、再び革命を起こさなければならない。それは民主革命でもなく、共産革命でもない。地球資源の再分配革命だ。浪費を根本にして回っている現代文明は自ら滅びるか、それを独り占めしている人々を打倒して60億の地球人に最新の技術を利用して資源を効率的に、持続的生産に変える革命が必要なのだ。

そのためには多くの血が流されるだろうが、どちらにせよこの事態を放置すれば、資源の枯渇が大規模な資源戦争(すでにイラク、ウクライナなどでは始まっている)を引き起こして相打ちとなって自滅するか、その前に温暖化による気象異変によって大規模な飢饉が生じるか、いずれにせよ人類は滅亡の瀬戸際での判断を迫られているのである。

2005年2月初稿

HOME > Think for yourself > 政治時評 > 現代資本主義

© Champong

inserted by FC2 system