Öztürkçe |
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Merhaba! (メルハバ=こんにちは) Teşekkür ederim(テシェキュル・エデリム=ありがとう) はじめに トルコ語をすぐ使う状況になった時、即戦力になるのは何か?それは「イスタンブールから東京へ」「部屋でコーヒーを飲む」にあるような、「カラ」「ヘ」「デ」「ヲ」などの日本語文法で言う”助詞”をまず覚えてしまうことだ。これらの使い方は日本語のそれと酷似している。音が違うだけだ。きっと太古の昔、同じ言語から派生したのだろう。もっとも、どこでどうなったのか、まだ誰も確信を持って言える者はない。トルコと日本の距離は離れすぎている。 もちろん英語のように、主語、動詞の使い方から学んでいくのが正道であろうが、トルコ語の場合、動詞変化は規則的だが、その規則を覚えるのはやや厄介(辛抱強い反復練習が必要)なので、それは後回しにして、上記の使い方だけでも覚えておけば、トルコに行ったときに何とか間に合うかもしれない。例えば駅で切符を買うときとか。あるいは道を尋ねる場合とか。 ボスボラス海峡から中央アジアへ トルコ語が属しているチュルク語族はもともと中央アジア・モンゴル高原からシベリアあたりにおり、トルコ系を中心とした住民が、かつてのさまざまな大帝国の盛衰によって、長い歴史の間に東西に広がり続け、ついにはその語族が東はアナトリア半島(小アジア)から、西は中国のシンチャン・ウイグル地区にまで広がった、ユーラシア大陸をまさにまたにかけた言語となっています。「トルクメン」「トルキスタン」「ダッタン」「チュルク」などの名前は皆、同じ系統であることを示しています。その種類はざっとあげただけでも、下記に示すとおり少なくとも17種類がみとめられるのです。
テュルク系はユーラシア大陸を東西に広がっているにもかかわらず、その方言による差は意外にすくないといわれます。。たとえば 中国のシンチャン・ウィグル自治区領内で話されている現代ウイグル語をみると、はるか離れたトルコ語とは使われている代名詞までが大体同じです。ピレネー山脈を隔ててほんのわずかな距離にあるフランス語とスペイン語の間でも相当の開きがあるというのに! 今のトルコの経済力や国際的な影響力から考えると、トルコ語は地域語と見なされることが多いのですが、このような「薄い広がり」を考えに入れると、アラビア語ほどではないが、かなり広域に通用する「シルクロードの公用語」と見なされることが多くなっています。特にロシア語がつかわれていたソ連の崩壊後、中央アジアに数多くの国々が誕生しましたが、その中にはトルコ語そのものではないにしても、実に近縁だといえる言語が数多く話されているのです。 日本語と似た文法、でも・・・ トルコ語の文法構成は、今は正確な分類用語としては使われなくなった、いわゆる「アルタイ語族」に属しています。つまり、日本語や朝鮮語と実によく似た構造を持っているのです。まず語順がほとんど同じであること。「が」「は」「も」といった助詞(後置詞)の使い方もそっくりです。しかも「連体形(英語のような関係詞節がない)」「連用形(英語のような副詞節がない)」があり、古代日本語を彷彿(ほうふつ)とさせる規則によって機能しています。 ただし、かつて大帝国として、ヨーロッパの西部やアラビア半島方面にも勢力を拡大しただけあって、トルコ語は周辺諸国の言語から影響を強く受けています。それも語彙の面のみならず、文法規則にも影響を受けていると思われます。 まわりで話されている言語にはアラビア語、ペルシャ語、その他数多くの民族の使用する言語があります。などがあります。 日本語や朝鮮語には見られない特徴としてぜひ挙げておきたいのは、動詞はもちろんのこと、名詞、述語のあとにもつく、「人称語尾変化」でしょう。大雑把な説明をすれば、「私はあなたにお会いしてうれしい」というところを、「私はあなたにお会いしてうれしい+私は」のように言い、この”私は”の部分が、“うれしい”のあとに語尾として付属している現象です。このようにすると、先頭の”私は”を省略することができます。
語尾を変えるだけの動詞変化 日本語でも「行きます」・・・「行きました」という具合に 「・・・た」をつければ過去や完了を表すようになってしまうように、トルコ語でもうしろを少しいじくれば、たちどころに様々な時制や状況表現が生まれます。ただ文法研究の歴史が違うために、それぞれの言語で別々の名前が付けられてしまっています。将来、統一的な研究を続ければ、朝鮮語、日本語、トルコ語の「共通文法用語」みたいなのができるのでしょうか? トルコ語は文字がアルファベットであるおかげで、発音がどう変わるかを、初学者でも視覚的に理解することができるのはありがたい。あとで述べる、母音調和や子音調和の規則ははじめのうち煩わしく感じられますが、繰り返し練習を積むと、日本語ではすでに捨て去られてしまった、トルコ人たちが長い年月の間に積み上げてきた、「発音しやすくする」ための知恵と豊かさに感心するようになるでしょう。 トルコ系元来の語に入り混じる外来語 語彙は、トルコが東西のぶつかり合う地点に位置するだけあって、実にさまざまな方面からの外来語が取り入れられています。その中でも目立つのは、「キターブ(=本)」に代表されるような、アラビア語からの借用語です。文字はアタチュルク Atatürk 大統領(1881ー1938)による大きな変革が行われるまで、アラビア文字が用いられていました。現代では英語はもちろんのこと、「 bilet (=切符)」「eşarp(=スカーフ)」に代表されるように、ラテン系統からの語彙もかなり使われています。 それでも、現代トルコのあるアナトリア半島本来の土着の言語が中心なのは言うまでもありません。ただし、これらはその響きがヨーロッパ的でもなく、アラビアやアジア諸国の語彙とも違うので、日本人にとっては「ゲネギョリュシェリム(=さようなら)」のように、とても覚えにくい音素の連なりでできています。ほかの言語ですと、日本語なら何らかの単語からの連想で覚えることがかなり多いのですが、この「さよなら」の場合、「下値・魚竜シェリム」などと、訳の分からない漢字の当て字をするなど、かなり苦労しなければなりません。
アルファベットと発音 トルコ初代大統領である、アタチュルクは1928年に、それまでのアラビア文字からアルファベットへの変更を断行しました。アラビア文字は、アラビア語でなくとも、いくつかの言語で利用されていますが、彼の考えは、トルコ文化の純粋性を保ち、中東の影響から一線を画すには、文字の点からも独立しなければならないと考えたようです。おかげでトルコ語学習者は、いくつかの特殊な記号をのぞいて英語と同じ文字で勉強することになりました(29個)。 発音は、アラビア語と比べて学習者にとって特に難しいものは見あたりません。8つの母音と、21の子音がありますが、日本人にとってはどれもうまく発音ができるでしょうから、特別な訓練は必要はありません。しかもアルファベットに移行してからまだ日が浅いので、不規則な綴りや、発音の特例がまだまだ少ないのです。
アルファベットでの、英語との主な相違点としては、 c, g, i, o, s, u に対してそれぞれ特別記号のつくものがあること。またこのうちで i に関しては、大文字の場合、H のすぐあとの「点なし」 I の方がトルコ語特有の母音を表し、そのあとのてっぺんに「点」がついている İ が普通の英語の I に相当します。小文字のほうも同じ順序です。また、上の表を見て気づいたと思いますが、Q と W がありません。 注意;辞書にも使われている上記の配列では、C Ç も G Ğ も O Ö も S Ş もそれぞれ、c g o s のほうが”特別文字”より先にでてくるが、 I İ の場合は”テン”のないほうが先に来る。 母音調和と子音調和 ただ、どうしても特記しておかなければならないのは、古代日本語にもあり、現代日本語にも残っている、口の形をなるべく変えないで楽に発音するためにできた習慣です。「酒屋」を sakeya と発音するよりも sakaya と発音する方が楽なのは、a-e-a と母音を切り替えるよりも a-a-a と同じままの方がはるかにスムーズに発音できるからです。これは<母音調和>と呼ばれます。 トルコ語ではまず、母音を口を大きく開けるタイプと、小さく開けるだけでよい二つのグループに分けます。さらに口の形に従って4つのグループにも分けます。母音が隣り合わせのときはそのグループ内に含まれる母音を使うという規則があるのです。(文法手帖参照)一方、<子音調和>もあります。「酒 sake 」を「深酒」にするとき huka-sake よりも huka-zake のほうが発音が楽ですね。無声音 s より有声音 z のほうが次に続きやすい現象がこれです。これがトルコ語にも見られます。 これらのやり方は規則化し、しっかりと文法規則の中に組み込まれるようになりました。そして日本語と違って、今でも忠実に守られています。気をつけるべきことは、トルコ人は明確な音、特に明確な母音を要求するということです。これはほかの言語ではあまり見ない現象です。 たとえば英語では e をさかさまにしたような発音記号で表す、アイマイ母音」というものが存在します。これは一応母音でありながら、「a i u e o 」のいずれの音であるかはっきりしません。しかも、これは英単語のアクセント位置にないので常に弱く発音され、誰もその存在を気にしないし、それによってコミュニーケーションが阻害されることもありません。 ロシア語でも、ヒンディー語でもそのようなあいまいな母音が存在します。多くの場合、その音がつづりの中に反映されていません。これは「子音中心主義」とでもいえる傾向で、子音さえきちんと聞こえればその意味がつかめるということです。 トルコに隣接するアラビア語使用国では、子音を中心にして、わずか3つの母音を<交替>させることにより、動詞の活用や、品詞の転換が行われています。トルコ語はその影響を受けたのでしょうか、たとえば2人称複数の接尾辞は子音の s-n-z の3つが含まれていますが、siniz/sınız/sunuz/sünüz のように母音調和に基づいて4種類に発音し分けなければなりません。これは学習者にとってはなかなか面倒なことです。 日本人は奈良時代の頃はこれに似たことを忠実にやっていたようですが、いつの間にかその大部分を捨て去ってしまいました。トルコではいまだにこの形式がきちんと守られているのです。しかし、この忙しい現代生活できちんとした訓練を受けたアナウンサーは別として、一般庶民がそのような区別をきちんと守っているかは微妙です。 上のsiniz/sınız/sunuz/sünüz にしても子音の s-n-z がきちんと聞こえさえすれば、用が足せるのではないかというふしもあります。これに対し、書き言葉は話し言葉のように、激しい変化はしませんから、昔の規則のままであることになります。やがては話し言葉の簡素化がひどくなって、書き言葉にも大きな変化が起こる日が来るかもしれません。 関係代名詞? トルコ語には、ki という単語があります。これはペルシャ語経由ではいってきたようなのですが、なんとなく関係代名詞まがいのものなのです。英語でいえば、which/who/that のような使い方があります。 日本語にも朝鮮語にも、英語のような関係代名詞はありません。ところが、「私が昨日出会った少女」を、トルコ語では「少女 ki 私が昨日出会った」というような使い方をするのです。これはまるで英語の a girl whom I met yesterday の語順と似ていませんか? 同様に、「明日は晴れると思う」をトルコ語では「私は思う ki 明日は晴れる」というふうにいえます。これも英語での I think that it will be fine tomorrow. における接続詞の that の用法に酷似しています。 このような使い方はまるで「インド・ヨーロッパ語族」であるかのようです。トルコ語話者の地域がシルクロード沿いにあったために大勢のヨーロッパやアラブ系の人々が行き来したおかげで、はるか離れたヨーロッパ言語、セム系言語の影響を受けてしまったのかもしれません。
学習書と辞書 体系的な文法基礎をやるならば、白水社の「ニュー・エクスプレス・トルコ語」が一番でしょう。全20課の中で、場面別の会話を中心にしながら大まかなところをものにすることができます。また日本語と似たところも所々指摘してあるので、比較しながら興味深く学ぶことができます。 辞書については、大学書林の「トルコ語辞典・ポケット版」があります。これはもっと大きな辞書の中から、重要なものだけを抜粋して小型化したものです。初心者には語彙は十分すぎるほどですし、アルファベット配列は英語とまったく同じなのでつづりさえ読めれば、とても使いやすいでしょう。 また、中級以上を目指す人はトルコ系言語の研究者として多くの著作を出している”飯沼英三”氏をあげることができます。ベスト社の「トルコ語基礎」が最も有名なようです。さらに、大学書林から出ている松谷浩尚著、「中級トルコ語詳解」があります。lonely planet という出版社から出ている海外旅行者用のフレーズブック。解説は英語ですが、ここに含まれているトルコ語の決まり文句やトルコ国内の旅行や生活に必要な単語はほとんど網羅されています。さらにバスや鉄道の利用の仕方、一般的な商習慣などの文化面についても詳細の解説が付いています。簡単な英土、土英辞書つき。トルコ語の基礎を一通り勉強した方なら、実に実用的価値の高い1冊だといえます。 Hoşçakalın (ホシュチャカルン=ごきげんよう) 2002年1月初稿・2021年7月改訂 © 西田茂博 NISHIDA shigehiro |