文明時評

きつね

ライフスタイルに関わる、偏見と独断に満ちた考察

お父さん、子供を
ハンバーガー・ショップに
連れてゆくのはやめよう

参考資料

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日曜日になると、お父さんたちが子供を連れて、家族サービスに出かける。当然のことながら、子供が最も喜ぶことを親たちは考えることだろう。そして昼飯どきが近づけば、子供たちの最もお気に入りの場所につれて行かれることになる。それはハンバーガーショップだ。

最もショッキングなことは、この現象が日本だけでなく、世界中に蔓延し、なんと中近東諸国のような伝統的な社会の勢力が強いところでさえも、この傾向が顕著だということである。この現象に、大喜びで入るのはいうまでもなくハンバーガーやピザを世界中にチェーン店として展開してきた、アメリカ型の資本である。

彼らの言い分は、自分たちの食文化が「普遍的」だからこそ、国境を越えて、これほど好まれるのだと主張する。しかしこれは味付けが普遍的であるからでない。現代文明の大きな要素、「手間が省ける」「口当たりがいい」「柔らかくて一生懸命噛む必要がない」という人間の「怠惰本能?」を引き起こすような食品を次々と作り出しているからなのだ。

このような状況では、これに抵抗できる子供はいない。いや、老人さえもそうだ。すべての忙しい現代人は、ファストフードを好む。かくしてお父さんたちはためらうことなく子供たちをそのような店へつれて行く。そこには疑いの気持ちはない。まずは低価格で、家計に悪影響を及ぼすことはないし、何よりも子供が喜び、店の中には自分の子供と同年齢の子供たちが大勢、入っているのだ。

だが、ここで考えてもらいたい。原料の牛肉を生産するには、広大な牧草地やトウモロコシ畑が必要であり、それにはすでに壊滅の危機にある森林をさらに伐採しなければ手に入らないということを。そして、大量に安く生産するためには、抗生物質やホルモン剤を大量に投入しなければならないということも。

だが何よりも恐ろしいのは、肉を食べるという「食習慣」だ。一回に食べる子供たちの量は僅かなものでも、小さいときに付いた肉の味への嗜好は一生消えることはない。この思い出が「呼び水」になって大人になっても肉を食べ続け、その習慣が、成人病へとつながってゆく。かくのごとく重大な結末を招くのが、小さい頃のハンバーガーショップ通いなのだ。

日本人には日本の風土に根付き、国民性にあった食物がある。これを単に安価であるとか、食べやすいという理由で「ジャンク・フード」に主力をおくと、それが一生続くから恐ろしいのだ。お父さん、あなたは自分の息子や娘を早く成人病にかからせたいですか?子供たちの早死にを望んでいますか?現に日本の農村では、90代の親が、60代の子供たちの葬式を出すことが珍しいことではなくなっている。

本当に自分の子供の健康を願うのなら、まずは健全な食生活を植え付けることが肝心である。それは小さいときだからこそ身に付くもの。それはお母さんの日常の食事にとどまらず、家族全体でバランスのとれた食事を目指すべきなのだ。

だが、一概にハンバーガーを批判することはできない。一つ、ちゃんとしたレストランで、「本物」のハンバーガーも食べてもらいたい。もちろん値段は最高の材料を用い、最高のコックが調理するならば、決して1000円を下ることはないだろう。

子供たちにも、そのような本物の味は教えておきたい。フランスのように、小学生の時から、学校の授業の一環として、1流レストランで食事をさせいい加減な食物を食べない教育をするべきなのだ。本物一つで、ニセモノ10個以上が買えるって?そんなクズを買うくらいなら、すぐに腹が減るサツマイモやソバガキでも食わせておくべきだ。

また日本の刑務所の食事は麦飯をはじめとして低カロリーの和食中心であり、本来はシャバより粗末な食事ということだったのに、皮肉にも受刑者たちはみな健康で長生きすることになった。この際世情が変わったのだから、受刑者たちには来る日も来る日もビッグ・・・とやらを与えたらどうか。そのうちこんなつらい食事なら罪を犯すのではなかったと後悔し始めるのではないか?

ある日、有名なバーガーチェーンの店の前を午後6時ごろ通った。ふだんなら多くの若者たちが詰めかける店に、初老の女性たちが数多くいる。彼女らはほとんど「孤食」で、どうやらパートの帰りらしい。子供たちは塾で帰ってくるのは遅いし、夫はもっと遅く帰ってくるだろう。自分のための食事を作るのもめんどくさい。となれば、手軽に空腹感をいやし、安い物といえば、やはりこれになるのだろうか。彼女らの多くは太っている。夕方の高カロリー食は確実に彼女らの体内に蓄積していくのだ。

このようにして、ハンバーガー一つをとっても、日本の伝統的な食文化の破壊は、次々と社会の深層に及び、目に見えないところで人々の生活はむしばまれてゆく。「ハンバーガーの日本社会に及ぼす影響」などという論文を出すような酔狂な社会学者はいないだろうから、大きな問題が表面化したときには取り返しがつかないことになっているだろう。

1999年11月初稿・2004年4月追加

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参考資料

@ファストフードが世界を食いつくす * 楡井浩一 * 草思社 * Fast Food Nation; Eric Schlosser 04/22/02

かつてから、ファストフードは、ジャンクフード(ゴミ食料)として、栄養的な面から様々に批判されてきた。カロリーばかりで脂肪や糖分の取りすぎは特に子供たちを成人病予備軍にすると。

この本は単に健康面だけではない。ハンバーグなら、その肉になる牛の飼育過程から、屠殺、精肉へと至る過程について、不潔きわまりない衛生管理にもふれ、牧場から販売に至るまで、ファストフードの会社に一手に握られている実態が述べられる。

従業員については、最低賃金さえ守られない搾取の実態、移民を利用して人件費を切りつめ、労働組合をつぶし、できるだけ訓練を必要としないいわゆる非熟練労働者の大量生産まで述べられている。

なぜファストフードは美味しいか。それは材料がいいのではなく、香料などの実に多種多様な添加物が実に巧みに使われているためだ。特に子供が喜び、その味をなるべく小さいときになじませておけば、成人してからもその食習慣が続いていつまでもお得意さんになってもらえる。

フランチャイズ方式によって、店舗をすべて本社からの強力な支配下に置き、どこでもまったく同じ味、メニューを維持することによって、食文化の画一化に拍車をかけている。アメリカのみならず、その料理の多様性を誇る中国でもどこの町にも同じ看板が建ち並ぶ日は近い。

結局ファストフードが実現したのは、アメリカの提唱したグローバリゼーションによる、世界全体への売り込み体制の完成である。そこにあるのは、実は自由市場とは名ばかりで、競走を極力減らすために次々と寡占化に取り組み、中小の業者が入り込む隙間はどこにもなくなってしまった。ファストフードの大企業の力が余りに強すぎて、価格も流通機構も、人々の嗜好も何もかも支配する時代になってしまったのだ。

それでも人々は、自分の好みで、自分の自由意志で、ハンバーガーやピザをパクついていると思いこんでいる。そして、その価格の安さのため、ますますそのような食事のファンになっている。自分たちが、大きな機構によって操作されていることに気づかないのだ。その気になれば、明日にでもすぐファストフードの店に行くのをやめることができるはずなのだが。

最後に大切なことだが、ハンバーガーが一個60円という安さは尋常ではない。これはなぜか。それはハンバーガーを作っている会社が、これによって生じる社会的コストを自分たちで引き受けていないからだ。

たとえば膨大なゴミ処理の費用、食べ過ぎによる肥満のためにかかる医療費、従業員のとてつもない低賃金、生産業者を脅して徹底的に買いたたいた材料費などだ。

このような膨大な金を自分たちで負担することなくほおかむりし、自らの利益に追求すれば、こんなばかげた低価格が実現する。消費者はそれを自分たちの利益になったと喜ぶ。

著者の論調はあくまで冷静で、客観的だ。店の店員が、内部の秘密をなかなか明かしてくれないことを知りながら、しつこくインタビューして、かなりの部分まで掘り下げている。381ページにわたる分厚い本だが、この産業のもたらす深刻な影響は、これでも書き足りないくらいだ。

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