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豆を煮る

大豆

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豆類は、そのタンパク質の豊富さと、肉にはない持ち味のために、世界中で珍重される。地中では根粒菌のおかげでタンパク質をたくさんため込むことができるのだ。

ところが、その堅さは並大抵ではない。しっかりと乾燥させれば長期保存もできるのだが、いったん食用に供するとなると、ひ弱な人間の歯や胃袋では何らかの方策を立てないと受け入れることができない。従ってさまざまな調理法が工夫された。

黒豆納豆のように菌によってアミノ酸に分解して吸収をよくするもの。醤油や味噌のように調味料としてしまうもの。豆腐のように、完全にすりつぶしてカード状にしてしまうもの。

この中で、煮豆は、最も原始的な調理方法である。乾物屋に行くと実にさまざまな豆が売られているが、それぞれが固有の香りと大きさ、味を持ち、実に多様な品種があることがわかる。

肉の場合、豚肉、牛肉、羊、鶏とそれぞれ独特の味があるように、豆にもそれぞれ個性のある味がある。最近では豚と牛の区別もつかない若者が増えているそうだが、実に悲しいことだ。豆は大きく分けて、「黒豆」「小豆」「緑豆」の系統がある。黒豆はお正月に出てくるが、その煮汁はそれこそ最高の味だ。真夏に冷やして飲むとどんな清涼飲料水よりもうまい。

小豆はご存じの通りあんこの原料だ。あの「あんこくささ」は砂糖とは最も相性がいい。他の豆と比べると幾分粉っぽく芋の食感に似ている。緑豆は葉緑素が入っているために緑色をしているわけだが、大豆のまだ幼いうちに食べてしまういわゆる「枝豆」に近い。そこには緑の香りが含まれている。これは他の豆にないことだ。

豆ばっかり食っていると飽きると心配する向きは、魚も肉もそうだが、毎日種類を変えてみればよい。これがなかなか多様な味の変化が楽しめるのである。味付けの点で塩辛さ、甘さと変化をつけるのもいいが、それぞれを何種類かを少しずつ買ってみるとよい。

今回は最もポピュラーで、お正月の定番「黒豆」を扱うことにした。田舎の駅の地元直産物コーナーで買った黒豆は、直系6ミリほどの実に硬い球である。これを夕方ボールに入れて、一晩つける。

そうすると翌朝にはなんと大きさが1.5倍に膨れ上がり中には水を吸いすぎて皮が破れてしまっているものもあった。水は黒い皮の色素が溶けだして赤茶色に濁っている。

これをざるに空け、さっと水洗いをする。そのあと鍋に入れて、水は豆の深さの2倍ほど入れて、強火で煮る。だが、ある程度水分が蒸発したら、中火から弱火にしてことことと煮なければならない。さもないと激しい沸騰で皮がみな破れてしまうだろう。

最近「パスタ鍋」がよく使われるようになっている。スパゲティはもちろんのこと、うどんもそばもこれで茹でるとうまくゆく。そしてなんと豆もこの種の鍋がとても調子いいのだ。かごに入っている豆は鍋の底に接触しない。沸騰する中でうまく踊ってくれるので、まんべんなく茹で上がる。しかも底にこびりついて焦げ付いたり、薄皮がへばりついたりする心配もない。煮る作業の最後のあたりで水分が不足してきたときは、かごから鍋の中にあける。もちろんそのときは弱火になっているから、焦げつかすことはない。「煮る」のではなく「蒸す」というのも面白い。

時々スプーンで豆を2,3個取り出して柔らかさを点検しよう。歯で噛んでみて、納豆ぐらいの柔らかさになったら、もう完成は近い。早速砂糖を入れて甘みをつける。砂糖としては、純白糖は避け、三温糖のような不純物の多い方が、複雑な香りが混じるだろう。豆の堅さは煮る時間ではなく、水につける時間に関係するようだ。一晩より一昼夜、腐敗する心配がなければもっと長くつける。

アズキ汁はそんなに煮詰めることはない。なぜなら黒豆の場合、その汁の清涼さは、ピカイチだからだ。水面が豆よりもやや高い状態で、柔らかさに満足がいけば、完成。これで火を止めて、ゆっくり冷やし豆に糖分をどんどん吸収させる。できたらタオルを巻くなどして、とにかく温度の低下速度を緩やかにすることだ。

*ある意見によると、くろまめは煮始めてからできあがるまで、決してふたを開けてはいけないとのこと。まだ比較実験はしていないが、豆の香りと関係があるかもしれない。

常温まで温度が下がったら、器に移し冷蔵庫で冷やす。冷やされた黒豆とその汁は、甘すぎない限り、実にさわやかな飲み物ともいえる。料理の箸休めと言うよりは、エネルギー補給のための、おやつに最適だ。非常に体力が必要で、最後の詰めが大切な活動の直前に黒豆を口に放り込むのだ。

なお、ガキの弁当の手間を省くためにスーパーで売っているビニール袋入りの煮豆は、実にひどい代物だ。あまりに柔らかく、舌を使ってもつぶれるくらいだ。実は、納豆の固さでも行き過ぎだと思う。少々固いほうが日持ちがするし、「歯ごたえ」も楽しめる。

しかし、なんといっても豆はたんぱく質の宝庫。人間のみならずあらゆる生物が狙っている。いったん煮豆を作っても、冷蔵庫で1週間保管できるかどうか。4日目ぐらいになると、ほのかな酸敗臭がしてくる。

これをとめるには寒天で固めてしまうのが一番。腐敗や分解は汁の中を細菌が自由に動き回れるので起こるのだ。やや硬めになるぐらいに煮溶かした寒天を加えておけば、夏の1週間でもほとんど変化がない。しかもそのタイプのお菓子が売られているように、舌触りがよく、なかなか美味なのだ。

また、豆の中にはあまり美味でないものも結構ある。豆専門店に行くと、特価品と称して、去年の豆や、地味な豆も多い。これらをおいしく食べるには、全体量の20%ぐらいにアズキを混ぜるとよい。これによって風味が増し、アズキ主導の味が出来上がる。この方法で、さまざまな種類の豆に挑戦してみるのも面白い。日本にも実に多様な種類の豆が栽培されていることがわかる。

2001年10月初稿・2008年10月補足

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© 西田茂博 NISHIDA shigehiro

 
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