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脂肪食時代

キャベツ

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競合する二軒のラーメン屋さんに行ってみた。一方は昼飯時になると行列ができる。もう一方は閑古鳥が鳴くというほどではないが、空席が目立つ。両方のネギラーメンを食べ比べてみた。両方ともダシの味はさほどではない。ともに中の上ぐらいだ。

では決定的違いは何か。人気のある方はコッテリ味、人気のない方はアッサリ味だったのである。コッテリ味の方は、ラーメンのつゆを作るときに、ラードとおぼしき缶から、ひしゃくで1杯、または2杯をラーメンの丼に入れている。その味はきわめて濃厚で、トラックの運転手はもちろんのこと、小中学生も休日には大勢やってきている。

さらにこれに脂ぎったチャーシューを入れたものも人気がある。これの大盛りとなれば、砂漠を1週間飲まず食わずにいたならともかく、普段からだを動かさないならば、確実に下腹にたまる種類のものだ。

人気のない方の店は、おそらくトリガラと昆布の伝統的な味付けだろう。多少油が浮かんでいるが、人気のある方とは比べるべくもない。この2軒の店の比較からいえることは、人々の好みは脂肪をたくさん含む方へと向かうということではないだろうか?

ラーメンブームは衰えていない。様々な店がしのぎを削って、より美味しい味を提供しようとしているが、客の主流である男性の若者から中年層をねらった味付けだ。そして大多数が脂っこい味付けになっている。

この傾向はラーメンだけではないようだ。ほかに思い当たるのは、ハンバーガーだ。もともと牛肉のパテには多量の脂が入っているが、さらにチーズ入り、そしてフレンチフライポテトを見てわかるように、どれ一つとして脂の含まれていないメニューはないのだ。

さらに宅配ピザの一般化。ピザの表面にはチーズのみならず、いまにも流れ出そうな脂がのっかっている。しかもサラミやその他の材料も多量の脂を含んでいる。そして持ち帰り弁当だが、弁当から揚げ物が姿を消したら誰も買わなくなるのではないか。特に鳥の唐揚げは子供たちの間に人気があるから、お母さんたちが弁当を作るときも必ずと言っていいほど入っている。

サラダもそうだ。サラダそのものはともかく、そのドレッシングは、酢よりも油の方が優勢である。生野菜は、農薬育ちが大部分だし、ぱさぱさして味気ないからよけい油分がほしくなるのだ。ドレッシングがなければ、マヨネーズだが、言うまでもなくその材料には油が含まれている。いまどき、レタスやトマトに醤油だけかける人などほとんどいないだろう。

植物性なら「油」、動物性なら「脂」だが、いずれにしても過去に比較してますます多くの油脂分が使用されるようになってきているのは明らかだ。いわば「脂肪時代」への突入である。魚と穀物中心だった農耕民族日本人の舌は、今この油脂の魅力にすっかり虜になっているのだ。

もちろんこの傾向は世界中で見られる。従来から肉食である西欧人も、今までの量では飽きたらずにさらに肥満者を増やしているし、黒人のソウル・フードは、臓物と脂ぎったソースの混合物だし、トルコの羊肉の串焼きも、オリーブ油やひまわり油を多量に使った料理もその例にもれない。

だが、すでに一般に知られているように、「脂肪食」は「死亡食」と紙一重である。こうやってみると、日本人の発明した味噌、醤油、豆腐などの大豆製品は、よけいに油分をとらないようにできていて、長寿並びに健康生活の基本になっていることがよくわかる。

一説によると、人類がこれほど油脂好きなのは、飢饉の生き残りだからだといわれる。過去に何度も世界各地で大勢の人々が飢えのために死んだ。ここで生き残れたのは、たまたま食料を手に入れられた運のいい人を別にすると、最小限のエネルギー消費で生きていける体質を備えた人々である。

今の日本人、特に北日本の人々は、天明、天保、などの数え切れない飢餓を生き延びた人々の子孫である。ということは飢え死にした人々よりも、効率的にエネルギーを使用したり、蓄える能力が大きいと思われる。(もっとも、このために血糖値が簡単に高まってしまい、糖尿病にかかりやすいという説もある)

江戸時代には有利に働いた素質だが、現代の飽食の時代にはかえって仇(アダ)になった。我々の体はいまだに今後も飢餓が続くと思いこんで、食べたものはできるだけ無駄にならぬように利用し、余ったものは将来の飢饉に備え、脂肪の形で体に蓄えようとする。らくだのコブと同じことなのだ。

かくして、肥満体が増え、インシュリンの分泌に異常が生じて、現代病の原因となった。我々の体内環境は、直ちに変化することができないのだ。肉食のヨーロッパ人の腸が短く、穀物食の人々の腸が長いように、長期間にわたる食生活の習慣によって生じた体機能の変化は、そう簡単には変えられない。

江戸時代の終わりからまだ、150年もたっていない。近い将来また飢饉があるかもしれない。インド、中国では、将来の食料不安がいつも影を落としている。当分我々の体には、まだ厳しい食生活が続いていると思いこませた方がよいようである。

そのためには、相当量の運動をおこない、粗食に耐え、よけいな脂肪を体内に取り入れないほうがよいだろう。脂肪は食べたデンプンが余れば、自然に体内で形成されるのだから、この食物の豊かな時代には、外から取り入れる必要のないものである。せいぜい味付けに少し取り入れるだけで十分なのだ。

なお、植物性脂肪が動物性脂肪より体に良いなどと、まことしやかに言いふらされたときもあったが、それも怪しくなっている。そもそも、トーストにこれまでバターを塗りすぎていたのが、植物性だからといって安心してむやみやたらにぬるというのも、賢明な方法とはいえないだろう。

脂肪は”越冬用”あるいは”重労働用”と考えておくべきだ。北極圏や南極圏では、逆にしっかりと脂肪をとらないと倒れてしまう。何しろあまり運動しなくても常に熱が奪われるため、体温を大量生産しなければならないからだ。そんな脂肪を、毎日机のパソコンに向かってジーッと座っている人にとって、どうして必要だろう。まずは自分のライフスタイルを考えてみるべきなのだ。

2002年8月初稿 2011年8月追加

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© 西田茂博 NISHIDA shigehiro

 
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