ナニワ金融道

青木雄二・著

ナニワ金融道

H O M E > Think for yourself > 文明時評 > ナニワ金融道

学校では経済の原則を学ぶ。経済にはさまざまな法律があり、それがきちんと機能して社会は円滑に進むことになっている。だが実際には騙されたり取られたり悲劇が絶えない。これは人々が学校で社会の現実を教わることなくきれい事だけでお茶を濁しているからである。

実際に社会に出て中小企業の社長になったり、何らかの取引をするとなればどうしても元手が必要になるが、そのために金融というものが存在している。だが、金貸しには絶えずトラブルがつきまとう。人々は何も学校時代にも仲間にも先輩にも金融についての肝心なことは何も教えてもらえないものだから、まったくの無防備なのだ。

きちんと社会の現実を教えてくれるものが欲しい。故・青木雄二氏の残してくれたこの漫画はきっと役立つ。大阪を舞台に、一部の金融業者たちのあくどい金儲けの仕方をきちんと学んで欲しい。そしてなによりも「無知」から脱して賢い社会人になって欲しいものだ。

あらすじー講談社漫画文庫(全10巻)より

1発目から5発目

若き灰原君は印刷会社に勤めていたが、社長が不渡りを出して倒産。金融業に入ろうとして、あるまともではない会社「帝国金融」に見習いとなる。さっそく目の前である中小の会社の社長が不渡りを出したところで全額回収する。さらに灰原君が電話を掛けてつり上げた社長も不渡りを出し、ほかの金融会社や社員の給料を取るために、娘で公務員の正子を脅してサラ金から次々と金を借りさせる。最後に灰原君は罪滅ぼしに、彼女のために破産宣告を手伝ってやるのだった。

用語;つまむ、折半する、直撃弾、月二分=年利24%、抵当順位

6発目から10発目

ある不動産屋から金を貸してくれと頼まれる。この男、登記所に行って人の更地の登記を密かに持ち出し、自分の名前を書き入れて金を2000万取り込むという相当のワルで、灰原君たちは社長にきつく叱られ、ようやく洲本の実家、そして神戸のこの男の潜んでいるマンションを探し当てる。親の山林を抵当に入れさせてやっと持ち逃げされた金を取り戻し、「迷惑料」もせしめた。

11発目から15発目

寝技で連帯保証人になったりすると大変な目に遭う。新しく家を買い、そのローンの支払いのために妻もパートに出ている一家だったが、かつての部下で今はスナック経営の女と寝た際、うっかり保証人になると言ってしまった。帝国金融で金を借りた女はすぐ姿を消し、保証人になったこのおじさんはアルバイトをして、かつかつの生活を送ることになる。タバコ代のために自分の勤めている役所の「危ない会社」情報を灰原君に漏らしてしまうところはもの哀しい。

16発目から23発目

灰原君がその情報に基づいて電話すると、現市会議員候補古井の家に行き当たった。対立候補が豊富な金で攻めてきているので、こちらもそれに対抗すべく、5000万円ほど用意しなければならないのだった。スナックを豪遊するなど派手な立ち回りのあと、結局古井は落選する。あとに残った膨大な負債のために、灰原君たちは何とか返済する方法を考えてやらねばならない。この古井が後押しした役所の局長も手形の裏書きをしたことで、共に支払う羽目になる。

用語;裏書き、丸投げ

24発目から28発目

古井は去り、古井の家は債権者でいっぱい。帝国の社長はその人たちの債権を安く買い取り、もう一つの金融屋には貸借権を認めて、何とか自分たちでおさめることに成功する。市役所勤めの二人も、はじめは手形を見ても支払いを拒否していたが、弁護士に相談してどうしようもないと知ると、地位を利用したカラ伝票で払いを始めようとする。灰原君は、彼らのことも管理していかなければならない。

用語;貸借権、善意の第三者、抵当権設定

29発目から39発目

灰原君はある運送会社に電話をかけた。新車を買いたいので金を借りたいらしい。だが、その社長は担保にできる不動産もない。元従業員で独立した青年に保証人になって貰うことになった。ところがその社長は姿をくらまし、その青年が連帯保証をすることになってしまった。さらに運の悪いことには怪我をしてその払いも滞り、青年の恋人がソープランドに勤めて毎月返すことになったのだった。

40発目から53発目

ある結婚式場でのこと。知り合いを装った男に、お祝儀をみんな奪われてしまった新郎の親友、泥沼は帝国に借金を申し込む。灰原君の助けで、不動産は何もないけれどもクレジットカードを使って回数券を買い、それを現金化することによって、何とか期限内に返すことができた。だが他人のクレジットカードを使ってものを買い、それを現金化することを思いついた泥沼は、そのあと犯罪者への道を堕ちてゆく。一方、泥沼のヒントから、灰原君はNTTのQ2を使って、債務者の金を回収することを思いつき実行するが、あえなく失敗。運送会社の社長は夜逃げをすることになる。

54発目から79発目

バブルに乗って地上げ屋が、全館風俗営業のビルを建てようとしていた。だが、奥さん達が反対運動をしている。そこに目をつけた灰原君が訪ねて行くと、案の定その「肉欲企画」の社長は金を貸してくれと言う。さまざまな条件のもとで貸し付けたが、一方では反対運動にテコ入れして、病院を作り風俗営業をできなくしてしまう。テナントたちの攻勢のもとに、社長は夜逃げ。灰原君はいったん拉致されたりもするが、がんばり通しこのビルを借金のかたに乗っ取ってしまった。しかもその10倍以上も貸し付けたノンバンクも振り切ってわずか1億円でそのビルを自社のものにしてしまったのだ。

80発目から104発目

帝国金融はビルのオーナーになった。灰原君は店子の誇大広告社のティッシュ配りを、勉学のために始め、そこの社長に気に入られただけでなく、従業員の朱美とも親しくなる。ある日かかってきた申し込みは、山川という農家のおっさんで、息子が交通事故を起こし、腹黒い被害者にどんどん巻き上げられているというのだった。同じ頃申し込んできたのは農地転用をきちんとしないまま運送会社の家屋を建ててしまった経営者、浦金。政治家への献金をするために500万円いるという。灰原君は一計を案じて山川に浦金に農地を買い取らせる。一方では政治家に働きかけて浦金を倒産させる。だがこれでその土地が帝国金融のモノになると思った矢先、山川に入れ知恵した不動産屋がうまく買い取ってしまった。してやられた灰原君。それでも朱美とはうまくゆき、全身に入れ墨をしていても彼女のが本当に好きになる。

105発目から133発目

先物取引に引き込まれた教頭先生、相手の巧みな誘導によって、何と1500万円も借金をこしらえる。奥様は教育長で夫は婿養子だったために毎月のお小遣いもままならずこのようなことになってしまった。ついには学校の修学旅行の積立金にまで手を伸ばし、奥さんから離婚を言い渡されて自殺を試みるが、灰原君らが手分けしてさがし何とか一命をとりとめる。文無しになった夫の代わりに、連帯保証をしていた妻がその借金を払うことになった。今回は一つの家庭を崩壊させてまで金利を搾り取るという、金融に携わる者にとっての一つの関門を彼はくぐり抜けなければならず、ずいぶん悩んだのだった。

134発目から155発目

かつて地上げ屋だった肉欲は、夜逃げして建築中のビルを帝国金融に取られてしまいいまは競馬のノミ屋の集金係だ。だが何としてもはい上がりたいと思い、儲けの口がないか必死で探す。灰原君もかつて彼を夜逃げに追いやったこともあって、個人的に金を貸してやった。やがて使い古しの映画の前売り券を配給会社に払い戻しして貰うアイディアを思いつくが、その数の多さに怪しまれてしまう。知らない土地である広島に行きそこで航空券の回数券を買ってそれをばら売りすることを思いつく。かつての社員、ワープロの打てる女房も手伝って、新会社はなかなかの成績を上げ始める。

156発目から191発目

店子に夜逃げされた大家はせっぱつまってトイチの高利貸しに借金を頼んでしまった。それからは取り立てに苦しみ、帝国金融からも借りどうにもこうにも首が回らなくなった。倒産した大家はトイチの入れ知恵で、公正証書を作り債権者会議を開く。灰原君らは、トイチの連中にみすみす大きな利益を持って行かれては腹が納まらない。債権を15%で買い取り、朱美を誘拐されまでしたがようやくトイチを追い込んだ。

192発目から217発目

刑事から借金の申し込みを受ける。この男浴田はタイヤ販売によるマルチ商法にのめり込んでいたのだ。その組織を調べるうちに、灰原君は枷木という、やり手の男と知り合う。灰原君の才能に気付いた枷木は何とかして自分の部下にしたいと思うのだが、思うようにいかない。浴田はセールスの才能はなく、署長に気付かれたりしてあぶない橋を渡っている。それを見て朱美までが乗り出してマルチで一儲けすると言い出した。枷木はタイヤ販売に飽き足りなくなって、日焼けマシンを使い新商売に乗り出す。灰原君も一肌脱ぐことになった。

218発目から236発目

帝国の社長は、刑事部長と同期で、キャリア組の新卒、都沢を3ヶ月間研修をさせる約束をしてしまった。灰原君が彼の面倒を見ることになった。折からクルーザーを転売するための資金を求めてビルの所有者が電話してきた。帝国では海の法律に詳しい人がいない。売り手と、新たな買い手はつるんでいて、灰原君は見事ヘタを打ってしまう。自身も大変な借金を背負い込むことになり、犯人を捕まえる方法を考える。

237発目から260発目

灰原君は都沢と共に犯人の実家へ行ったり、かつての妻やその弟まで追いかけたが、うまくいかなかった。そこで思い出したのが危うく来るまではねそうになった海事代理士、落振のことを思い出した。酒におぼれ今では橋の下の浮浪者になっていたが、大変海の方面の法律や人脈に詳しく、ついに手形を無効にする方法を考え出した。3人は裁判官の気質まで調べ上げたあげく、ついに犯人たちを一網打尽にしたのである。

その他の著書

作者の死後、デビュー前や、この世に出ることのなかった作品(主に短編)が残っており、このうちのいくつかが、廣済堂出版によって、「青木雄二漫画短編集<完全版>」二冊本としてでている。「金融道」のような派手さはないが、中にはしみじみと余韻を残す作品も収められており、ファンなら必読!!

H O M E >Think for yourself > 文明時評 > ナニワ金融道

© Champong

inserted by FC2 system