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第9章 形容詞のはなし:その2

  1. 形容詞はどこにかかるか
  2. 形容詞節を作る連体形(日)と関係詞(英)
  3. <コラム>英語における非限定用法
  4. 形容詞句を作る連体語尾(日)と準動詞の形容詞的用法(英)
  5. 前置詞・後置詞が作る形容詞句
  6. <コラム>名詞修飾にまつわる日本語のあいまい文

形容詞は名詞とつながりを持っています。ですがいつも隣同士というわけにはいきません。少し離れていたり、大きな節がついていたりします。そして日本語には英語で習うような<関係代名詞>がありません。それではどうやって名詞を修飾しているのでしょうか?

形容詞はどこにかかるか

例文1;ギリシャの偉大な哲学者 a great Greek philosopher

例文2;偉大なギリシャ(出身)の哲学者 a philosopher of Greece, which was great

日本語での形容詞は右隣にある名詞にかかることになっていますが、ナ形容詞である「偉大な」はどこにかかるのでしょうか?例1は問題ないでしょう。ところが例2では、「ギリシャ」が名詞であり、「ギリシャ+ノ」が形容詞句であるために、これらと「偉大な」があいまいな修飾関係になってしまっています。「偉大なギリシャ」のことなのか?「偉大な哲学者」なのか?それとも両方なのか?

ちょっとした不注意から意味不明の文が生じるのはこのように形容詞修飾が連続して連なる場合に多いのです。例1の英語の場合ですと、名詞 Greece と形容詞 Greek の形が違うし、二つの名詞 philosopher と Greece は of によって分離可能なので誤解が生じる危険性はありません。

ここから得られる教訓は、形容詞句の「・・・ノ」を便利だからといって乱用しないということ。例2のように”出身”とか”生まれ”という言葉を追加すれば誤解は簡単に避けられるのです。でも「・・・ノ」が普通の形容詞と共通の名詞にかかる場合は、例1のようにその名詞から遠く、「形容詞」のほうはその名詞の近くにおく工夫が考えられます。(コラム”あいまい文”参照)

例文3;黒い雪 black snow

例文4;白い雪 snow, which is white

「黒い」も「白い」も共にイ形容詞ですが例3と例4は少し違う気がしませんか?普通雪は白いものだという一般的な通念がある上で「黒い」ということは、おなじみの<限定>の働きであって、明らかにほかの雪と区別しています。ところが「白い」とつけるということは、他もみんな白いためほかからの区別にはなっていません。

分かり切っているのにつけているのは強調だと考えられます。あるいは次に話を進めるために念のために確認したのかもしれません。いずれにせよ、<非限定>と考えたほうがよさそうです。日本語ではその場合の区別は特にありません。聞き手が「察する」のに任せてあります。

ところが英語では書き言葉の場合の時だけながら、そういう場合の表現方法は用意してあります。例4の snow のあとにはコンマが必要です。また形容詞の働きであることは関係代名詞 which と is でダメ押しをしてあります。強いて訳せば「雪というものは・・・そう・・・白いもんだが・・・」という感じでしょう。コンマのせいで white は snow を修飾していない。単に挿入的な説明を追加したに過ぎない、という気持ちを表しているのです。

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形容詞節を作る関係詞節(英)と連体修飾節(日)

英語における形容詞節のウォーミング・アップをすこしやってみましょう。

次の英文の中で下線部の部分の名詞が残りの部分に”修飾される”ように並べ替えてみましょう。

例;I saw the girl. → the girl (whom) I saw

(1) The flower is red → the flower that is red / the red flower

(2) I saw the man going upstairs →the man (whom) I saw going upstairs

(3) I heard the man express his opinion. → the opinion (which) I heard the man express

このように英語での関係代名詞による形容詞節を作るときのおおまかな原理は修飾される名詞を前に引き出すことです。関係代名詞の役割はその名詞が本来文の中のどこから出てきたかを示すためにあります。この原理は日本語でも一部共通しています。

例文1;彼女は私が昨日公園で出会った少女だ She is the girl whom I met in the park yesterday.

この文では「私が昨日公園で出会った」までの部分が「少女」を説明しています(連体修飾節)。日本語の場合、連体修飾節はふつうの文では必ず修飾される名詞の前です。英語ではこの働きは関係詞を先頭にした文であり、必ず修飾される名詞のうしろです。また、英語では被修飾の名詞を<先行詞>とよびますが、日本語では<底(てい>とよんでいます。<形容詞節>の名称はこれら連体修飾節と関係詞節の共通の働きを述べたものです。

「出会った。」と「出会った少女」では、「・・・タ」がどちらも同じに見えるが、実は前者は「出会う」の<(過去)終止形>、後者は<(過去)連体形>です。つまり現代日本語では終止形と連体形がまったく同じになってしまっています。ですから区別せずにまとめて<タ形><ル形>などといったりします。昔は形がいろいろあって「出会いたる少女」などといっていたのですが。

英語では形容詞は修飾される名詞の前におかれ(ただし少数の例外を除く)、形容詞句や形容詞節は修飾される名詞の必ずうしろと決まっていますので、関係詞さえ先頭についていれば節がいくら長くても平気です。一方、日本語では連体修飾節は必ず被修飾語の前に出ます。ですから修飾する部分が短ければいいけれども、10語以上になると非常に言いにくくなり、いったん別の文に切り離した方がわかりやすくなるようです。英語から日本語への翻訳でつらい部分はここなのです。誰かが日本語用の関係詞を発明してくれるといいのですが・・・

関係詞節では(1)主語や動詞をきちんとおける(2)時制や助動詞をおける(3)省略されている場合もあるが、関係詞があることで先行詞との関係が明確である、などが特徴的です。準動詞を使った形容詞句との使い分けは、主節と形容詞句・節の主語が共通であれば準動詞を、異なれば関係詞節を使うことです。また、時制などの情報量が多くなれば、関係詞節の方が有利です。

日本語では名詞修飾が行われている場合、準動詞というものがないし主語も頻繁に省略しますから、単語としての形容詞(連体詞を含む)以外はみな、連体修飾節と考えてかまいません。ですから英語で準動詞を使った文と関係詞を使った文の訳がほとんど同じということはよくあることです。

例文1(再);彼女は私が昨日公園で出会った少女だ She is the girl whom I met in the park yesterday. ← 私は昨日公園でその少女に出会った。I met the girl in the park yesterday.

例文2;昨日公園を散歩していた少女は私の妹です。A girl who was walking in the park yesterday is my sister. ←少女が公園を散歩していました。A girl was walking in the park yesterday.

関係詞節と連体修飾節の作り方には共通点があるのでしょうか?再び例1を見ますと、←で示されている、形容詞節を作るもとになった文のうち、名詞部分「少女」が抜き出されてそれぞれ<底>や<先行詞>になっているのがわかります。またこの「少女」はもとの文ではいずれも「出会った met 」の<目的語>です。

この点では例文2でも同じです。ただしもとになる文での「少女」は「散歩していた was walking 」の<主語>になっている点だけが違います。例1,2に関する限りは日本語と英語ではその作り方に類似点が見えます。

例文3;私が時計をみつけた(その持ち主の)男に電話をしてみた。I called the man whose watch I had found.←私はその男の時計をみつけた。I had found the man's watch.

しかし、例3では日本語では(カッコ)にあるような言葉を補わないと、「時計」と「男」の関係がすぐには見えてきません。場面を想像してみて、落ちていた時計を持ち主のところに連絡したのだな、ということがわかり、そこから「男の時計」という<所有関係>が浮かび上がります。実は例3の日本語文は不自然で実際には使わないのが普通でしょう。これは英語の文からの無理な翻訳なのです。たいていの場合、「私は時計を発見し、その持ち主の男に電話をした」とやるでしょう。

英語では「 the man's watch 」という文があらかじめあり、この man's を関係代名詞に置き換えたのが「 whose watch 」なのですから、必要なことは形容詞節が始まる前に実はすべて伝えてあります。ところが日本語における連体修飾節の中に自然な形で「持ち主」のような言葉を挿入することは困難で、結局のところ、情報が不足する文ができあがってしまいます。

例文4;私はいつもパンを切っているナイフをなくしてしまった。I have lost a knife with which I always cut bread.←私はいつもそのナイフでパンを切る。I always cut bread with the knife.

例文5;私たちは(その下で)よく腰を下ろす木の方へ歩いたものだった。We used to walk to the tree under which we often sat.←私たちはその木の下で腰を下ろした。We sat under the tree.

例4でも、例3ほど不明瞭ではありませんが、道具を表す「・・・デ (=with) 」を連体修飾節の中に入れることが困難です。このように前置詞の持つ意味が訳すほどでもないような場合は大丈夫です。しかし、例5の「・・・ノシタデ」のようなくわしい説明の必要な位置の場合は、いわないわけにはいきません。

そんな不自然な文を書くくらいなら連体修飾節などやめてしまって、「私たちは木の方に歩いていったものだ。その木の下ではよく腰を下ろした。」と文を分けてしまうでしょう。英語の場合、使われている前置詞 with under いずれも普通の文であろうと関係詞節であろうと常についているために位置関係はすぐわかります。

例文5;ここはあの女が生まれた場所です。This is the place in which / where that woman was born. ←あの女はその場所で生まれた。That woman was born in that place.

例文6;その地震は多くの人々が飢えで死にかけていた年に起きた。That earthquake occurred in the year when many people were dying of hunger.←その年には多くの人々が飢えで死にかけていた。Many people were dying of hunger in the year.

「その場所で in that place 」をそのまま関係代名詞におきかえれば例文3,4と同じ手法で in which となりますが、副詞1語で「そこ there 」と見なし、これを関係詞に転換すると where という<関係副詞>が生まれます。場所の関係副詞とよばれますが、同様に、時間の関係副詞 when や理由の関係副詞 why (=for which) があります。関係詞の生まれる過程が関係代名詞とは違っていても、最終的に先行詞を修飾するという点では同じです。

例文7;人間は生まれながらに平等であるという彼の考え his idea that men are born equal

しかし時間でも場所でも関連づけることのできない場合があります。「事実」「希望」「気持」「考え」などのような抽象的名詞です。これらは仕方なく、接続詞 that で連結することになります。that によって生じた文は、それらの名詞の”説明文”の役割を果たし、名詞と説明文との関係を<同格>とよんだりしますが、実は一種の形容詞節になっています。

同格という名前は<主格>でも<目的格>でもないことからきたのでしょうか。このようにうしろに that をつけることのできる名詞は40~50個ぐらいあります。言いかえれば、それ以外は勝手に that をつけることはできないわけです。

一方、日本語でもこれらの抽象的名詞はもっと数がたくさんありますが、単なる説明文として追加することができないため、例7にあるように、「・・・という」などというつなぎの言葉を用いて表現するのが普通です。これらによってできた節を通常<内容節>といっています。

例文8;他人を笑いのタネにしようという彼女の癖 her tendency to make fun of others

日本語における内容節がすべて that 節にできるわけではありません。「・・・という」というのがいかにも that になりそうな感じですが両国語があらかじめ関連しているはずもなく、中には that ではなく to不定詞で接続する英語の名詞もあるわけです。動詞の tend to不定詞や形容詞の able to不定詞などが名詞化すると、それぞれ tendency to不定詞や ability to不定詞の形が生まれてきます。

例文9;ただちに家にもどれという手紙 a letter that says / saying I should come home at once

さらに内容節の中には説明ではなく、<引用>>のためのものもあります。letter がいい例で、だれも手紙について定義するわけではなく、中に何が書いてあるかが問題になるわけですから、「・・・という」とあっても英語の場合これらを安易に that節でつなげるわけにもいきません。こういう場合英語では習慣上「述べる say 」が広く使われています。関係代名詞の主格の後にこの動詞をつけるか、Ving 形にして分詞の形容詞修飾にして使うかのどちらかです。

例文10;ビルが破壊される映画 a movie that depicts the destruction of a building

時として日本語は恐るべき省略をやってのけます。慣れてしまえばどうということもないわけですが、例10のような日本語が立派に通用しているわけです。ここで省略されているのは「・・・を描く、見せる depict, describe, show 」などの他動詞です。ここでは連体修飾節の基本となるルールを通り越して文が構成されています。こういうのは国際的に見て、特に西欧の言語ではあまり見られない現象なので、ルールをよく研究してどこでも通用する文づくりを心がけなければなりません。

例文11;牛乳を買ったお釣り the small change that you got when you bought milk

これも途方もない省略文です。「牛乳を買ったときに(私が)受け取ったお釣り」とすれば、どこの国の言葉にも翻訳可能です。もちろん主語も忘れずに。ひょっとして例10も11も日本語で連体形と終止形がまったく同じ形になってしまったため、安易に連体修飾が作れるようになった結果ではないでしょうか!

このように連体修飾節はどんな名詞でも<底>にできそうですが、文の長さと表現方法にかなり制限があるために、あまりに長い文はあきらめざるを得ない場合が多いということがわかります。一方、英語の関係詞節は関係代名詞、関係副詞というような文法的な道具を使える<先行詞>である限り、わかりやすく作ることができます。また同格節の前にくることのできる単語は無制限ではないですが、<先行詞+関係詞>を使ってはあらわしきれない表現の補完として役立っているのです。

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<コラム>英語における非限定用法

外見は形容詞節なのに、名詞を修飾していない!英語の非限定(非制限)用法についてもう少しくわしくみてみましょう。

例文1;私には大阪に住む兄がおります。他の兄弟たちはみな東京にいます。 I have a brother that lives in Osaka. All the others live in Tokyo.

英語では関係代名詞により、先行詞とよばれる名詞はうしろの節によって限定されます。「限定される」とは、例1の場合ですと、何人かの兄弟のうち大阪に住む兄だけを取り出して説明する場合をいいます。つまり全体の中の一部だけに限ることです。このような働きは who や which より that の方が強いといわれています。that はそのせいか前にコンマを打つことができません。

例文2;わたしには妻がいますが、彼女は旅行が嫌いなのですよ。 I have a wife, who doesn't like traveling. (比較;私には旅行が嫌いな妻がおります)

これに対して、自分の「妻」「夫」「父」「母」などは、一人しかいないことが前提になっているので、限定しても意味ありません。その点では”白い雪”に似ています。もし限定してしまうと、場合によっては、自分の「妻」が何人かおり各地に分散して住んでいて、そのうちの旅行嫌いである一人だけを取り出しているととられるかもしれません。

そのようなわけで例2では、関係代名詞がついていながら本来の限定の働きをしていないことがわかります。このような場合も<非制限用法>とよぶのです。ここでは自分の妻についての説明文をつけているのと同じになります。書き言葉ではコンマを打ち、話し言葉ではそこでいったん切ります。

例文3;今パリにいる。ここはずっと前から訪れたかった。 Now I am in Paris, which I have wanted to visit for a long time (比較;ずっと前から訪れたかったパリに今いる。)

このような現象は先行詞の性質によるものです。それしかなくて同じものが他に存在しない場合といえば、なんといっても<固有名詞>でしょう。それが例3に表されるような文章です。私が訪れることを望もうと望むまいと、パリは一つしかありません。

このような形は日本語には存在しません。というよりは最初から限定と非限定の意識がなかったといった方がよいのでしょうか。なんといってもそのような区別を生む土壌となる<関係詞>そのものがないのですから。日本語では、連体修飾がひとつの名詞と直結して密接なつながりを持つだけで、そのような区別をつけにくいのです。

このため例2も例3も非限定でありながら、翻訳から生じた日本語での表現方法が二つ生じています。ひとつはいったん文を切って、その後に追加説明を加える手法。これに対しもうひとつは従来の限定用法と同じ方法で表してしまう方法です。文脈により誤解が生じそうなら文を切り、その心配がなければ従来の方法を採るという判断が必要です。

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形容詞句を作る連体語尾(日)と準動詞の形容詞的用法(英)

すでに述べたように現代日本語の動詞連体形は(現在・過去)終止形と同じです。「雨がやんだ。→雨がやんだ朝」となります。中世日本語と比べて実に簡単そのものです。また、「・・・ノ」を用いても名詞修飾が可能です。「読むための本・読むはずの本・読むべき本」などが考えられます。「べき」だけは「ノ」を省略するのがふつうになっています。わざと「読むべきの本」などといと時代がかって聞こえることになります。

これらが英語で表現されるときは、連用語尾の代わりに<形容詞的用法の準動詞(to不定詞、現在分詞、過去分詞)>を用います。しかもこれらは副詞用法と同じ形式です。なぜ同じ形式で済むかといえば準動詞のおかれる”位置”と定められた構造によって、どちらになるか判定可能だからです。日本語の場合は、大部分が連体語尾(形容詞的用法)と連用語尾(副詞的用法)のかたちが違っているためにそれで判断がつき、かつ位置が比較的自由に選べます。

例文1;読むための本・読むべき本・読むはずの本 books to read

例文2;助けてくれる友だち a friend to help me

例文3;金をもうけたい欲望 a desire to make money

ここに英語の名詞修飾のうち、不定詞の形容詞的用法の例を紹介しましたが、作り方としては3通りあります。すでに述べた形容詞節と比較してみてください。かなり大胆な簡略化がおこなわれていることがわかるでしょう。

(1)「本を読むread books →読む本 books to read」;この場合は他動詞と目的語の関係から、前後を逆にして目的語を被修飾語にする方法。日本語の場合は連体語尾を、英語の場合は to をつけます。

(2)「友だちが(私を)助けてくれる A friend helps me.→助けてくれる友だち a friend to help me 」;この場合は主語と動詞との関係から、主語にあたるを被修飾語にする方法。同じく日本語の場合は連体語尾を、英語の場合は to をつけます。

(3)「(誰かが)金をもうける+欲望→金をもうけたい欲望 」;この場合は、動詞からみて主語でも目的語でもないまったく別な種類の名詞が被修飾語になっています。日本語の場合は、つながりをなめらかにするために、その名詞の性質にふさわしい連体語尾を、英語の場合はただ to をつけます。これは形容詞節のところで述べた「同格」に似ています。

いずれも作り方は英語でも日本語でも意外に共通しています。このうち(1)(2)は、文中に含まれている名詞に残りの部分が修飾するという方式がとられていますが、(3)だけは、お互いにまったく縁のない、ある名詞と文が結びつけられています。この場合の名詞とは「希望」「事実」などそれに関連した内容を受け入れるのに適した抽象度の高いものばかりです。

ただ日本語で示されたそのようなタイプの名詞がすべて英語で to不定詞による形に置き換わるわけでないので辞書による確認が必要です。また、言い方がそれぞれ異なっていても、共通しているのはいずれも現在のことではなく、「これからの予定(単なる未来ではない)」であることです。

次に現在分詞と過去分詞の例をあげてみます。こちらは「予定」ではなく、現在の動作や状態、場合によっては完了に重点が置かれています。

例文4; 少女は踊る。A girl dances.→ a girl who dances →踊り子(職業名) a dancing girl

例文5; 部屋で少女が踊っている。A girl is dancing in the room → a girl who is dancing →部屋で踊っている少女 a girl dancing in the room

例文6; 卵をゆでる。Eggs are boiled. → eggs which are boiled →ゆで卵(料理名) boiled eggs

例文7; 温泉で卵をゆでる。Eggs are boiled in the hot spring. →eggs which are boiled in the hot spring →温泉でゆでた卵 eggs boiled in the hot spring

いずれの場合でも英語では、主語を被修飾語として扱っており、目的語が使われていることはありません。日本語の場合は受動態がなじまず、「人」を表す主語を省略したときは能動態のままなので、例6,7では目的語が被修飾語になっています。

それぞれの例文で、前後をはさまれたまんなかの文は関係代名詞を用いて書いた文ですが、これは分詞による修飾にたどりつくための”途中経過”です。なお、「踊り子」「ゆで卵」にあるように<分詞+名詞>が中心となる決まり文句的表現の場合、分詞は名詞の前におかれ、「部屋で」「温泉で」などのような他の修飾語を加えて語数が増えると名詞のうしろにおきます。

現在分詞は<進行形>を示すとは限りません。「踊り子」の場合は毎日仕事として繰り返し踊っているので本来の時制は現在形ですが、「部屋で踊っている」場合はその場限りの行為なので現在進行形を使って区別しています。

このように日本語での連体修飾のうち、「予定」の要素を含まないもの、つまり「過去」や「現在」、「結果の状態」を示す場合は、英語では to不定詞ではなく<分詞>を利用します。現在分詞にするか過去分詞にするかは修飾されている名詞(ここでは girl や eggs )が主語である場合に受動態になるかならないかによって決定されます。

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前置詞(英)・後置詞(日)が作る形容詞句

日本語では「・・・ノ」というように名詞の後にこの助詞(=後置詞)をつけると形容詞句の働きをして名詞を修飾するようになります。英語をはじめとする西欧語では頭に前置詞が来てうしろに名詞が来るのはよく知られています。これらも形容詞句の働きをすることができます。このように見かけはまるで逆の構造になっているのに、意外に似たような機能を持っているのです。

例文1;山のきのこ the mushroom in the mountain 

例文2;山で遭難する get lost in the mountain

まず英語では形容詞句か副詞句かを調べるには隣り合わせになっている語句への修飾関係を調べてみるとわかります。前置詞 of は形容詞句を作るという点で最もよく用いられていますが、普通の前置詞も左どなりに名詞があれば修飾することができます。例1での名詞 mushroom もその位置にあります。

一方、例2のように左どなりに動詞でもあれば、そこにかかることによって副詞句となります。このように in the mountain という同じ形ながらそのおかれている位置によって機能が異なってくるのが英語の前置詞の特徴です。もっとも動詞の前にその目的語である名詞ががんばっていて、形容詞句なのか副詞句なのか判定に迷う場合もありますが。

例文3;妹からの手紙 a letter from my sister

これに対し、日本語では形容詞句のほとんどを「・・・ノ」が担っています。この「・・・ノ」は名詞につくばかりでなく、例3の「カラ+ノ」のように本来なら副詞句になるような他の助詞にもつくことがあります。このように「・・・ノ」は大活躍しますから、その使い分けをきちんと知っておかなければなりません。

例文4;大阪のアパート an apartment in Osaka

誰のものであるか、どこにあるのか、どの組織に属しているかなどを表す<所属>の「ノ」です。英語での所有格 my, your, his, her などもこれにあたり、of による多くの句も含まれます。例4で in になっているのは of にすると「大阪市所有」というような誤解をうけるおそれがあるからです。

例文5;10時の電車 the train at ten

人の性格や状態、種類、区別、数量を表すのに使う<性質>の「ノ」です。英語での前置詞は時間、場所、によって非常に種類があります。また、「病気の人 a sick person 」のように適切な形容詞をそのまま使った方がよい場合も少なくありません。

例文6;社長の山田さん Mr.Yamada, the president

人名とその人の地位、立場、親族関係を表すのに使われるのが<同格>の「ノ」です。英語では of を使うこともありますが、もともと同格表現は前置詞を使わず、二つの名詞と並べるだけです。

例文7;計画の実現 the realization of the plan ←計画を実現する realize the plan

もともと他動詞とその目的語の結びつきだったときに使われていた「ヲ」が、その他動詞が名詞化したために使えなくなり、その代わりに入れるのが<助詞ヲの代わり>としての「ノ」です。英語ではもっぱら<目的格>の of を使いますが、それぞれの動詞特有の前置詞を用いることもあります。

例文8;重量の増加 the gain in weight ←重量が増加する The weight gains

もともと主語とそのあとの動詞の結びつきだったときに使われていた「ガ」が、その動詞が名詞化したために使えなくなり、その代わりにいれるのが<助詞ガの代わり>としての「ノ」です。英語では主格の of や、それぞれの動詞に特有の前置詞(ここでは in )を使うこともあります。

こんなにたくさんある「ノ」の使い方をきちんと押さえておく必要がありますが、たとえば例6の「計画の実現」は「計画を実現すること」と言った方が誤解のおそれが少なくなります。あいまいな「ノ」はできるだけ避け、文の構造が一目でわかる表現を工夫した方がよさそうです。

ほかにも「ような・ように」「ための・ために」など、形容詞句と副詞句を分ける助詞がついた例はたくさんあります。これらの違いをもっと鋭く意識すれば、英文における形容詞句、副詞句の違いにももっと深い理解が得られるようになるかもしれません。

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<コラム>名詞修飾にまつわる日本語のあいまい文

「偉大なギリシャの哲学者」と同様、あいまいな表現は書き手がへたならどんな言語でも生じるはずです。日本語でもふだん、正確な表現について気をつけている人でなければうっかり言ってしまう場合があります。口で言うときは切りかたや強調で補正できても、書いた時にはそういきません。その中でとりわけ多いのが、「・・・ノ」による形容詞表現が名詞にかかる場合です。

例文1;細長い風呂のふた a slender lid of a bathtub / a lid of a slender bathtub

例1の「細長い」はれっきとした形容詞です。ところが「風呂の」は<名詞+ノ>によって形容詞の働き(所有の場合も含め)他の名詞にかかります。ところがこの「・・・ノ」の置き場所が悪いためにいったいどこにかかっているのかわからないのが今回のあいまい文です。「細長いふた」なのか「細長い風呂」なのか?

この例の問題点は<名詞+の+名詞>の組み合わせの外側に形容詞があるためにかかる先がわからないということにあります。日本語は比較的語順が自由だという特徴がここで裏目に出ているのです。「ノ」がとても便利な助詞でいろいろ使えるためについていねいな表現を面倒がって代わりに使ってしまう傾向が多い。

解決策としては「風呂の細長いふた」と「細長い風呂についているふた」ということになるでしょうか。修飾語と被修飾語を隣り合わせにすること、また「・・・ノ」にあまり依存せず、「・・・にいた」とか「・・・についている」というように適切な動詞を使った連体修飾の表現を使うことです。

英語の場合はどうでしょうか?よく of は「・・・ノ」に該当するといわれますが例1では形容詞 slender の位置を変えているだけで少しも問題が生じていません。それは形容詞がすぐ右隣の名詞にかかるという厳しい語順が確立しているからです。of を越えてよその名詞を修飾したりはしません。

例文2;よし子が好きな人は渡辺さんだ。→改良その1;よし子の好きな人は渡辺さんだ。The man Yoshiko likes is Mr.Watanabe. / 改良その2;よし子を好きな人は渡辺さんだ。The man who likes Yoshiko is Mr.Watanabe.

例2は「人」を修飾する連体修飾節(英語では関係詞節)がポイントですが、この場合では助詞「ガ」を使ったために、二通りの解釈ができてしまいました。英語になおすとはっきりわかるのは、”よし子”が”好き”の主語にもとれるし、”好き”の目的語にもとれてしまうことです。これは「ガ」が「ノ・ヲ」の代わりをすることができることから、どういう結果が生じるかを考えずに安易に使ってしまったからです。この問題は<(格)助詞>のところで再び取り上げます。

ここでは形容詞の不注意な表現方法による日本語の例をあげましたが、英語の場合のあいまいな文も多数あり、それらを研究するのも言語の特質を知る上で大いに役立つことでしょう。

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© 西田茂博 NISHIDA shigehiro

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