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今年見た映画(2005年)
風の中の牝鶏 1/7/2005 (再)2024/02/23 夫の不在中に生活苦から妻がおかしたあやまちを乗り越える夫婦の姿を描いた。だが少しも教訓的なにおいはせず、むしろ戦争直後の周りの人々の暖かく差し伸べられる援助を加えながら非常に人情味のある作品に仕上がっている。ヒロインとと親友との間は、後の作品「麦秋」を思わせる。 時子は息子の浩と二人、ガスタンクのある町に住んでいる。夫は戦後だいぶたつが復員しない。蓄えもなくなり、親友の秋子とたすけあい、持っている着物を売りに出したりしながら何とか暮らしを支えようとしていた。 買ってやったあんこ飴のせいか、浩は運悪く腸カタルになり、一時は死にかけるところだったが危機を脱した。だが時子は入院費用を出すことができない。見境もなく時子は売春の手引きをやっている織江に頼み込み、月島の宿で客を紹介してもらい、何とか払い終えることができた。 ようやく夫の修一が復員して来た。喜びにあふれる時子だったが、一切の隠しごとをできない性格からすべてを修一に話してしまう。ショックを受けた修一は苦しみ、悩む。月島まで出かけてゆき、客になって待つと、若い女が姿を現した。なぜこんな仕事に身を落としたのかと尋ねると、母親はおらず、父親はもう働けず、弟たちを養わねばならないのであった。 修一はその女のためにわざわざ事務の仕事を探してやり、妻が同じく追い詰められた結果こんなことをしたことを理解する。だがたった一度の過ちを頭でわかっていても心の中はどうしてもそれを受け入れられずにどうしても苦しみは去らない。同僚の佐竹も早く忘れることを勧める。 家に戻ると妻が喜んで迎えてくれた。それを邪険に払いのけようとした弾みに時子は階段を頭から転がり落ちた。幸い軽い怪我ですんだが、修一は妻の誠意を知り、過去の過ちは二人で忘れ二人で励ましあって生きることを誓い合うのだった。(1948年・モノクロ)・・・資料 監督 :. 小津安二郎 脚本 :.斎藤良輔 小津安二郎 配役:雨宮修一 :.佐野周二/ 時子 :.田中絹代 /井田秋子 :.村田知英子 /佐竹和一郎 :.笠智衆 /酒井彦三 :.坂本武 /つね :.高松栄子 /野間織江 :.水上令子 /小野田房子 :.文谷千代子 /時子の息子浩 :.中川秀人 東京の宿 1/9/2005 外国の小説からストーリーを取った人情話。失業した男が人に助けられ、また人を助けるために盗みまで犯すという人々の助け合いの連鎖が描かれる。このリアリスティックな映画を見れば太平洋戦争の始まる前には、21世紀の殺伐とした世知辛い世の中からは想像もつかない、ホームレスにならずに済む社会もあったのだとわかるだろう。 女房に逃げられた男、喜八は失業者。息子の善公、正公とともに工場地帯を歩き回り、工場の門番に仕事がないかたずねて回るが、一向に見つからない。夜は宿無しが集まる宿泊所に泊まるが、もうお金もほとんどそこをつきかけている。 子供たちが捕まえた野犬を警察に引き渡せば40銭が手に入るのだが、善公はほかの子どもが持っていた海軍の帽子を手に入れるためにそのお金を使ってしまう。さらに荷物を入れた風呂敷包みも、子供たちが運ぶ役目を相手に押し付けている間に誰かに持ち去られてしまう。 泊まる金もなくなった3人はまずは一杯飯屋で空腹を満たすが、野宿しようと店を出た矢先、折り悪く雨が降ってきた。そこでばったり会ったのが幼馴染の女、おつねであった。3人の窮状を聞いておつねは仕事を見つけてくれ、親子はやっとまともな家に暮らすことができるようになった。善公も学校へ行けるようになった。 ある夜、宿泊所で知り合った非常に美しい女おたかと幼い女の子君子と彼らは原っぱで再び出会う。子供たちはすぐに仲良くなり、喜八とおたかも少しずつ親しくなる。おたかも仕事がなくもちろん夫もいない。喜八はおたかのために仕事を見つけてやろうと奔走する。子供たちは毎日原っぱで楽しく遊んでいた。だが、ある日君子は遊びに来なかった。 同時におたかも急に姿を現さなくなったために喜八はがっかりしてしまう。だがやけ酒を飲んでいた飲み屋におたかが働きに出ていることで、幼い君子が疫痢にかかりその治療費を捻出するためにおたかがこうやって金を作ろうとしているのを知った。 喜八はおたかを励まし君子のそばに付き添っていてやるようにと言い残して金を工面しようとした。だが30円もの大金は盗むしか方法はない。喜八は何とか金を手に入れると息子たちにおたかの元に届けさせた。 すでに町には警官たちが出動していた。喜八はおつねに子供たちの世話をしばらくしてくれるように頼むと、自首するために近くの警察署へ向かうのだった。「ここに一つの魂が救われた・・・」(サイレント・1935年) 監督 :.小津安二郎 脚本:.池田忠雄 荒田正男 原作:.ウィンザアト・モネ 配役:喜八 :.坂本武 /善公 :.突貫小僧 /正公 :.末松孝行 /おたか:.岡田嘉子 /君子 :.小嶋和子 /おつね :.飯田蝶子 /警官 :.笠智衆 めまい Vertigo 1/11/2005 (再)2014/05/05 ヒッチコック特有のどんでん返しの映画。主人公の恐怖症が利用された見事な完全犯罪が起こるはずだったが・・・シャーロックホームズの「赤毛組合」を思わせる驚くべき計画がみもの。グレース・ケリーとは違った魅力を持つキム・ノバックが見事な演技を見せる。 ジョンはサンフランシスコの刑事だったが、高所恐怖症であった。あるとき屋根づたいに逃げる犯人を追ううち、ビルとビルの間を飛び越える際に足を滑らせそれを救出しようとしてくれた巡査を墜落死させてしまった。それ以後高所には上れなくなり、警察を辞めてしまった。 かつての婚約者ミッジのアトリエを出入りしたりしてぶらぶら過ごすうち、大学の同級生であったエルスターという男から自分の妻マデリンの尾行を頼まれた。彼女が奇怪な行動を採るというのでジョンはまず精神科医に相談するように薦めたのだが、エルスターはその前にぜひ行動の詳細を調査してほしいという。 仕方なく引き受けたジョンだったが、マデリンの美しさにびっくりし、さらに彼女の運転する車の後をつけて次々と不思議な目にあうのだった。彼女は19世紀に男に棄てられ身を投げて死んだ悲劇の美女の曾孫であったが、男の話によれば死霊が乗り移ったかのような行動をするのだった。 マデリンはその女の墓を詣り、美術館では彼女の肖像画をじっと見詰め、かつてその女が住んでいて今はホテルになっている建物を訪れ、ジョンはますますわけがわからなくなる。そしてついには金門橋の下の岸壁から身を投げる。あわてて後から飛び込んでマデリンを助けたジョンだったがそのときから人妻でありながら彼女への愛情が目覚める。 二人は次第に親しくなるのだが、マデリンの行動はまっすぐに墓場へ向かって吸い込まれていくようだった。一方マデリンもジョンを愛するようになった。こうしてサンフランシスコから160キロ離れた伝道所に向かったマデリンは憑かれたように教会の塔をいきなり上りだした。ジョンは必死で後を追いかけたが高所恐怖症特有のめまいのために立ち止まってしまった。 ぐずぐずしているうちに階段の窓からマデリンの体が落下してゆくのが見えた。ジョンの尾行もむなしくマデリンの自殺を止めることはできなかった。警察の取調べの後裁判にかけられたが、ジョンの警察での上司の証言や、恐怖症のこともあって無罪釈放となった。 だが悔恨の気持ちにさいなまされたジョンは重症のうつ病となり、一年間病院に入院することになった。退院後もマデリンの姿が頭からはなれずかつて彼女の姿を見た場所をさまよい、まるで気の抜けた人間のようになってしまった。 かつて尾行した時に入ったホテルで、マデリンそっくりの女を見かける。そして無理やりジュディというその女の部屋に入って、その面影が自分の死んだ女とそっくりだから付き合ってくれという始末だった。だがその女は不思議にも拒絶しなかった。 そのわけは・・・ ジョンはジュディにマデリンそっくりの服を着せ,髪型も同じにしてくれるように頼む。そしてあの身投げのあった伝道所に連れて行くとジョンは過去と決別するためだといって、勇気を奮いめまいに耐えながら塔の頂上まで上がっていったのだったが・・・(1958年)⇒資料 Directed by Alfred Hitchcock Writing credits Pierre Boileau (novel) and Thomas Narcejac (novel) Cast:James Stewart .... Det. John 'Scottie' Ferguson / Kim Novak .... Madeleine Elster/Judy Barton / Barbara Bel Geddes .... Marjorie 'Midge' Wood / Tom Helmore .... Gavin Elster リスニング;標準的アメリカ英語。聞き取りは楽。 男はつらいよ・寅次郎頑張れ! 2005/01/18 寅さんが見る夢はとらや一家がみな金持ちになり、自分が豪華なベッドに寝かされており、汚いカバンを捨てられてしまうところ。今回は恋の手助けをする一方、自分も恋をしてしまうという2重進行だ。 ある日、寅さんがとらやに帰ってくると見知らぬ若者がいる。良介といい博のいるアパートの近くに住んでいたが、新しい部屋が見つかるまでとらやの2階に仮住まいをしていたのだ。 例のごとく寅さんははじめは喧嘩腰だったがすぐに仲良くなり、良介が近所の定食屋の娘、幸子に恋をしていることを知る。幸子は秋田の出身で父親は死に、弟の学費の面倒を見るためにおじさんのやっている定食屋で働いていたのだった。 恋愛経験のない良介を見かねて寅さんはデートの仕方をいろいろと教授する。幸子の方も良介の方を好いているようだったが良介は彼女に向かって決定的なことばを言い出せないでいる。良介はそれを口にする機会を求めてもだえ苦しむ。 幸子の母親が胃潰瘍で倒れたという電話が食堂にかかってきた。そのとき「結婚してくれ!」と食堂に飛び込んできた良介はタイミング悪く幸子に追い返される。断られたと思いこみ絶望した良介は二階の部屋に目張りテープを貼り、ガス管の口をひねったが、最後の煙草の一服を吸うためにマッチをすった瞬間大爆発。 幸いやけどは大したことはなかったが二階はめちゃめちゃになり、良介は長崎県平戸へ帰ってしまった。心配した寅さんは良介の様子を見に平戸へ向かう。毎日釣りをしてぼんやり過ごしている良介を見てひとまず安心はしたものの、彼の姉で街でも船長からも神父からもあこがれの的、藤子に一目惚れ。彼らの家に泊まり込んだ寅さんは毎朝早起きして土産物屋を手伝い、教会にも一緒に出かけるのだった。 一方母親の病気がよくなったので戻ってきた幸子が良介のことを好いていることを知ったさくらは、さっそく平戸に電話する。これを聞いた良介はすぐに東京に向かう。藤子も同行することになり、寅さんは藤子と二人きりで過ごす夢は破れ、留守番をすることになる。 良介と幸子は誤解が解けてみんなの祝福を受ける。心配でいたたまれなくなった寅さんもとらやに戻ってきて、幸子のおじさんも加わりとらやでは祝賀パーティが開かれた。みんなの酔いが回った頃良介が藤子に平戸まで送っていくと言い出す寅さんは実は惚れているのだと告げ、姉に態度をはっきりさせるように迫る。階段の陰でそれを聞いていた寅さんは翌朝早く旅に出てしまうのだった。(1977年) 監督: 山田洋次 原作: 山田洋次 脚本: 山田洋次 朝間義隆 キャスト(役名) 渥美清(車寅次郎) 倍賞千恵子(さくら) 中村雅俊 (島田良介) 米倉斉加年(巡査)桜井センリ(神父) 石井均(連絡船の船長)マドンナ;藤村志保(島田藤子) 大竹しのぶ(福村幸子) Charly アルジャーノンに花束を 2005/01/22 (再)2014/12/17 SF の名作を映画化した作品。知能のおくれた主人公が特別な手術によって天才になり、自分の先生と恋もするが、未熟な治療法だったため再びもとの知能に戻ってゆく。まさに SF 的設定ながら、主人公が世間とのつきあいに悩み、恋を知り、再び別れなければならない過程が見事に人生を描き出す。 20代の青年、チャーリィはボストンに住む知的障害者で自分の名前の R を左右逆に書いたり(それがタイトル文字になっている)、school を何回注意されてもskool と書いてしまう。だがパン屋に雇われ、みんなからからかわれながらも給料をもらって小さなぼろ部屋に独りで住んでいる。さらに学習意欲が旺盛で夜学に通ってもう2年になるのだ。 夜学での先生はアリス・キニアンといいチャーリィを親切に面倒を見てくれる。キニアン先生は知り合いの心理学者リチャードとアンナ博士から実験に使える人間を相談される。今彼らが飼っている白ネズミ、アルジャーノンはリチャード博士から特殊な手術を受けて以来、知能がめざましく上昇したという。 ふたりの博士は人間でもその手術が効果があるのか確かめたかったのだ。試しに迷路を抜けて目的地に達するテストを受けてみると、チャーリィは何度やってもアルジャーノンに負けてしまう。ネズミに負けることですっかり腹が立ったチャーリィだが、仲間たちにだまされてからかわれることの連続に手術を受けることに同意する。 キニアン先生も励ましてくれ、手術後は一生懸命勉強に励んだ。不思議なことに、少しずつチャーリィの頭は明晰になってゆき、その知能は驚くべきスピードで進歩した。恐れをなしたパン屋からはクビを言い渡されてしまったが幸い、博士たちから研究室を貸与され給料をもらって勉強を続けることになった。 チャーリィは世間が自分を知能の低い人間であるときはからかい、バカにしていたことを知る。そして世の中のことが次第にわかるにつれて戦争やその他のばかげたことを人間たちがやっていることも知る。同時にいつも自分のそばにいて助けてくれるキニアン先生が次第に女として見えてきたのだった。 キニアン先生(アリス)には婚約者がいたが、チャーリィはそのことも気になりはじめ、彼女の体を無意識のうちに眺めていることもたびたびだった。情緒面担当のアンナ博士もその点が心配になってきた。チャーリィは確かに理性面ではめざましい進歩を遂げてはいるが、心の方はまるで子どもで、彼の描く絵には不安や混乱があふれていた。 プレゼントを持ってアリスの家を訪れたチャーリィは突然キスをする。それまでは私生活の話はしないようにしていたアリスは一変した。二人は恋人同士になったのだ。離れがたい仲になった。結婚のことを考えるほどだった。 いよいよ博士たちの発表の場である学会がやってきた。得意満面で自分たちの研究発表をした博士たちの後、チャーリィが壇上に立った。そして先週判明したばかりの恐ろしい将来のことを出席者の前でぶちまけた。アルジャーノンが普通のネズミに戻ってしまったのだ。原因はわからない。だが二度と再び天才ネズミになることはなかった。 自分を襲った運命にショックを受けたチャーリィは町中を歩き回ったが、思い直して博士の元に戻り、まだ知能の高いうちに人間の場合にも退行が起こりうるかについての研究の手助けをすると申し出る。だが結果はやはり退行が起こると出た。 そのころからチャーリィは今までのようにほとばしるように言葉が出なくなってきたのを感じる。一人でいるとアリスが部屋に入ってきた。彼女は結婚してくれと言う。チャーリィはきっぱり言った。この部屋から出ていってくれと。これが彼女への精一杯の愛情なのだ。それから数ヶ月後、チャーリィはかつてのように幼児たちに混じってブランコ遊びに興じていたのだった。(1968年) Directed by Ralph Nelson Writing credits Daniel Keyes (short story and novel Flowers for Algernon) Cast: Cliff Robertson .... Charly Gordon / Claire Bloom .... Alice Kinnian / Lilia Skala .... Dr. Anna Strauss / Leon Janney .... Dr. Richard Nemur リスニング;標準アメリカ英語(ボストン)チャーリィの言葉が片言の英語から、哲学や政治を論じるまでに変化するのが見事。 ************************ チャーリィはボストンに住む30過ぎの青年であるが、知的障害であり、養護学校のアリス先生の世話になりながら、パン屋の掃除係として働いていた。家具が何もない屋根裏部屋に一人住んでいる。 ある研究者夫婦が、ネズミにある手術を施したところ、急に賢くなり、迷路をすいすいと通り抜けるようになった。チャーリィはネズミのアルジャーノンと競争してもまるで負けてしまうのだった。チャーリィは自分を実験台にしてくれと志願する。 手術は無事済み、それからというものの、チャーリィは瞬く間に初等中等教育をマスターし、それどころか理論的な思考までできるようになってしまった。高まったのは知能だけではない。感情面でも変化が起き、それまではただの先生だったアリスに対して恋を感じるようになってしまった。 ある日、アリスに自分の想いを伝えると、アリスはそれを受け入れ二人は結ばれた。一方、この実験についての学会発表が近づいて、研究者たちは準備に忙しかったが、その直前アルジャーノンに異変が起きた。得意満面で聴衆にチャーリィが紹介されたのだが、彼自身の口からこの手術はごく短期間しか効果がなく、すぐに知能の退行が始まるという事実が告げられた。 それでも、チャーリィは研究者たちに協力して、知能の低下を防ぐ方法を探し求めるが、それはまだ不可能なことが判明した。自分の運命が避けられないと悟ったチャーリィは、自分と暮らしたいといってきたアリスを自分の部屋から出した。それから数か月後、チャーリィはまた前のように知的障碍者の生活に戻っていた。⇒資料 男はつらいよ・寅次郎わが道をゆく 2005/01/29 寅さんはUFOに乗って故郷の惑星に戻る夢を見る。とらやに戻ってみるとおっちゃんが体調を崩していた。世の中不景気だらけで隣の印刷工場はもちろんのこと、団子屋の経営もそして寅さんの商売もいっこうに好転しない。おっちゃんにもしものことがあったら寅さんがこの団子屋をついでくれるのだろうか。 寅さんがお見舞いにとお金を包んで渡すとおっちゃんは感激したのはよかったが、寅さんの語るとんでもないとらやの未来図にみんなうんざり。大喧嘩の末、寅さんはすぐに飛び出してしまう。行き先は熊本県の山奥だった。 ひなびた温泉に泊まった寅さんは一人、自分のことを振り返りとらやでの喧嘩のことを反省する。あくるひ川沿いに散歩をしていると大きな杉の木の根本に若い女にふられたばかりの青年がいた。留吉といい寅さんの教えにすっかり心酔し、もう女の子を追いかけずにまじめに農業をしようと決心する。 金が足りなくなった寅さんは、柴又に手紙を出し、心配したさくらがわざわざお金を届けに来て一緒に東京へ帰ることになる。すっかり反省したらしくとらやに戻ってからは店の手伝いをしたりして、みんなが感心するのだった。タコ社長が縁談を探しに行くくらいになったのだ。 ところが博の印刷会社での今年の親睦会が浅草のレビュー(いまはなき SKD-松竹歌劇団)見物ということになり、そこでさくらは幼なじみで中心的ダンサーである奈々子と再会した。ちょっととらやに顔を出した奈々子を見て寅さんが捨てておくはずがない。その日から寅さんのレビュー通いが始まる。 しかも寅さんを頼って留吉が上京してきた。東京見物はどこがいいかと聞けばなんと浅草のレビューを見に行きたいという。留吉は根っからのファンだったのだ。 すっかり寅さんと親しくなった奈々子はたびたびとらやを訪れた。彼女は今あぶらの乗り切った時期ではあるが、そろそろ年齢的にも仕事を続けるのは厳しくなってきた。 たいていの人が若い頃の夢がつぶれてそれなりの暮らしをする中で、小さい頃からから歌と踊りが大好きな奈々子は、希望通り自分の仕事を実現した。一方寅さんも小さい頃の夢である「テキヤ」が今実現していて、二人とも「我が道」をゆくことができて、みんなで大笑い。 奈々子には舞台係のなかに自分を好いてくれている男、隆がいる。奈々子はこのまま仕事を続けるべきか悩んでいる。それとも結婚すべきか。いったんは隆に手を切ると言っておきながら、さくらの前で決心が定まらずに泣く奈々子。 いったん恋人がいると知ってあきらめかけた寅さんだったが、仕事に専念すると聞いてさっそく奈々子を慰めにかかる。だが彼女の部屋の窓から雨の中に立ちつくす隆の姿が見えたとたんに奈々子は恋人のもとに駆け寄っていった。どんなに仕事が魅力的でも女は恋をするのだ。 その姿を見た寅さんはそろそろ旅支度だ。奈々子はその年の「夏の踊り」で引退披露をすることになった。奈々子が熱唱するとき、さくらは見に行ったが、寅さんも座席のずっと後ろの方でちらりとその姿を見ていたのだった。(1978年) 監督: 山田洋次 脚本: 山田洋次 朝間義隆 キャスト(役名)渥美清 (車寅次郎) 倍賞千恵子(さくら) 武田鉄矢(後藤留吉) 杉山とく子(留吉の母) 竜雷太(宮田隆) マドンナ;木の実ナナ(紅奈々子) 千年の恋・ひかる源氏物語 2005/01/30 今から千年前に作られた世界最大の小説を紫式部の私生活と実際の物語の一部とを織り交ぜながら作り上げた、源氏物語のための最適な入門映画。やや少女趣味なところもあるが、衣装のきらびやかさ、当世最前線の俳優をそろえ歌をまじえた構成は印象に強く残る。 紫式部は、藤原宣孝と結婚し娘を一人もうけるが、正妻を得て京にいる夫は遠のき、母娘で郷里の福井に住んでいた。夫が京で昇進したというので式部を迎えに福井にやってきた矢先、賊に襲われて殺されてしまう。 一人のこされた式部だったが、その文才を買われて御門の妻になるべく勉強中の彰子の家庭教師を頼まれる。一人で京に上った式部は、競争相手である清少納言を意識し、彰子の話を持ってきた藤原道長の求愛を受けつつ、書きかけの「源氏物語」をテキストに彰子に人生の勉強を開始する。 ひかる源氏は御門の親戚でありながら臣下として自由な生活を送り、その容貌により多くの女たちのあこがれの的だった。母が亡くなり、御門である自分の父親が藤壺という女と再婚するが、彼女に強くひかれたひかる源氏はその床に忍び込み、ただならぬ関係になってしまう。 やがて子供が産まれ、罪の意識にさいなまされた藤壺は仏門に入り、ひかる源氏は二度とその姿を見ることができなくなった。産まれた男の子は自分の息子なのか御門の子どもなのかわからない。 傷心の源氏は京都北山をさまよい歩き、竹藪の中で遊んでいた幼い美少女に出会う。自分好みの女に仕立てた源氏は後にこの紫の上を正妻として迎えることになる。 源氏はさまざまな女遍歴をする。若い女から「私は女のあがり」と称する年輩の女性に至るまでさまざまな女性と恋に落ちる。やがて源氏は藤壺のところに仕えていた女、朧月夜に恋いこがれる。だが彼女は父親亡きあとに御門になった兄の気に入った女だったのだ。 しかしさすがにこのことは大后の怒りを買い、流刑にされる前にいち早く自分から地方に出ていくことを考える。たどり着いたのが明石だった。明石の入道の娘、明石の君に一目惚れ。やがて彼女は子どもを身ごもるが、その時京へ戻ってもよいとの知らせが届いた。 明石の君を置いて、京に戻ると病弱で先がない兄の御門が源氏に次代御門の後見役を頼んできた。これは宮廷に新たな影響力を持つ絶好のチャンスだ。源氏は春夏秋冬の区画に分かれた豪邸を建て、その一つに紫の上を住まわせる。だが彼女には子どもができなかった。そのため明石の君の産んだ子供を連れて来て紫の上が育てることになった。 しかしその後も源氏の女遍歴はやまない。我慢に我慢を重ねていた紫の上だったが、何一つ不自由ない屋敷での暮らしながら、仏門にはいることも許されずとらわれ人のように日々病み衰え、ついに死んでしまった。残された源氏はふぬけのようになって、恋文を毎日焼きながら時を過ごしているのだった。 物語の筋を通して「好きと愛するとは男と女のように違う」事を教え、男社会の中での女の生きるすべを考えさせ、紫式部の教育が功を奏し、彰子は御門の気に入られるようになった。やがて彰子は御門の子を身ごもった。 式部はこれを一つの節目と考え、小説の続きを書くためにも娘の待つ郷里の福井へ戻る決心をする。道長はその思いを繰り返し寄せてきたのだが、どうしてもそれを受け入れることができなかった。ふるさとの海岸では道長の面影が浮かんでは消えていたのだが。(2001年) 監督: 堀川とんこう 音楽: 冨田勲 キャスト(役名) 吉永小百合 (紫式部) 天海祐希(光源氏) 常盤貴子(紫の上) 渡辺謙(藤原道長) 渡辺謙(藤原宣孝) 高島礼子(藤壺中宮) 高島礼子(桐壺更衣 ) かたせ梨乃(大后) 森光子(清少納言) 南野陽子(朧月夜) 細川ふみえ(明石の君 ) 中山忍(葵の上) 竹下景子(六条御息所 ) 松田聖子(揚げ羽の君 ) 竹中直人(明石の入道 ) 片岡鶴太郎 (絵師) 神山繁(藤原為時) 加藤武 (右大臣 ) 風間トオル(頭の中将 ) 前田亜季 マエダアキ (賢子) 水橋貴己 (彰子 ) 浅利香津代(倫子) 織本順吉 (覚全僧上 ) 岸田今日子 (源典侍) 風間杜夫 (十条帝) 山本太郎 (惟光) 本田博太郎 (桐壺帝) 段田安則 (藤原惟規 ) 男はつらいよ・噂の寅次郎 2005/02/05 葛飾柴又村に住むさくらたちを悪徳金貸しから救ってくれたのは寅次郎地蔵だった、という夢。お彼岸の日、寅さんはふと思いついて亡き父親の墓参りをする。ちょうど来ていたさくらたちと出会い、とらやに戻るが、せっかくのよい心がけもまた夕食の席で喧嘩になりすぐに旅に逆戻りしてしまう。 信州の田舎。通りがかりの虚無僧が「あなたは女難に遭う」と告げる。なるほどダムのふちに佇む女、瞳は男に逃げられて悲嘆にくれていた。寅さんが話を聞いてやりごちそうしてやると元気を取り戻し、バス停の前で別れた。 バスに乗ると、なんと後ろの席に座っていた男は博の父親、一郎だった。岡山から気楽な一人旅に出ていた。寅さんはスポンサーが付いたので芸者を呼んだり、タクシーで寺などを巡る。一郎は「今昔物語」の一つを話して聞かせ、寅さんは大いに感じいるのだった。 ある男が非常に美しい女を妻にしたが、わずか1年でその女は病でこの世を去り、残された男はどうしてもそのおもかげが忘れられない。我慢ができず墓を掘り、棺桶を開けてしまった。妻の腐った姿を見て男は無情を感じ、出家して残りの一生を仏に仕えて過ごしたのだという。 そのころとらやでは老夫婦の寄る年波に、手伝いを一人雇うことになった。職安から紹介されてきたのは早苗という若い女だった。あまりに早苗はきれいなのでもし寅さんが帰ってきたらまたひと騒動起こるのではないかとみんなは心配する。心配は現実になった。 早苗はこれまで夫と別居していたが離婚届に判を押して以来ふたりはすっかり親しくなる。一目惚れした寅さんは早苗につきまとい、とらやでの夕食で楽しい時を過ごした彼女は、久しぶりに心が温まる気持ちを感じたのだった。「私寅さん好きよ」とはっきり言うので、家族もみんなどっきりする。 早苗の引っ越しの手伝いに行った家で、寅さんは早苗のいとこにあたる高校教師をやっている男と出会う。やがてその男はとらやにやって来て今度郷里の小樽に転勤になったのだという。この男が早苗に惚れていることをすぐに感じ取った寅さんは、旅立ちが迫っていることを知った。(1978年) 監督: 山田洋次 原作: 山田洋次 脚本: 山田洋次 キャスト(役名) 渥美清(車寅次郎) 倍賞千恵子(さくら) 室田日出男(添田肇) 泉ピン子(小島瞳) 志村喬(諏訪一郎) 大滝秀治(旅の雲水) マドンナ:大原麗子(荒川早苗) La Leçon particulière 個人教授 2005/02/08 パリの高校生の年上の女への恋を描く。恋が終わったとき、彼は人生の何事かを学んだのかもしれない。パリの市街地と、スキー場が背景となって、印象深い画面が作られ、フランシス・レイの名曲が流れる。 オリビエはリセ(高校)の3年生だ。哲学の授業では主席をとるほどだ。家には両親とお手伝いの女の子がいる。自分の同級生であるジャン・ピエールとその女の子と寝させるなど、どこにでもいる高校生だ。ある日ランボルギーニを運転して一方通行の道で立ち往生している若い女と出会う。 フレデリックというその女は有名なカーレーサー、フォンタナと一緒に暮らしていたが、結婚はしていなかった。フレデリックのアパルトマンまで送っていったオリビエは彼女の美しさにひかれ、レース観戦のためのテレビを持っていったり英語の翻訳を頼むなどして次第に親しくなる。 たまたまオリビエの母親の経営するブティックで出会ったフレデリックはスキーへ行くという。たまたまオリビエ一家の別荘もそこにあったため、オリビエは彼女の来る日にちと合わせて一緒にスキーを楽しんだ。その夜、彼女の泊まっているホテルにシロクマのぬいぐるみを着て忍び込んだオリビエが彼女を抱こうとしたとき、フォンタナから電話が入る。 その電話が原因でちょっとした諍いを起こしてしまった二人だが互いが忘れられず、相次ぐレースで自分のもとに来てくれなくて寂しい思いをしていたフレデリックはたちまちオリビエのとりことなった。彼女のアパルトマンで二人は至福の時を過ごす。 だがそれも長続きしなかった。ある日オリビエが彼女の部屋を訪れると戸口にはフォンタナが立っていた。ものも言わずオリビエはきびすを返すと二度と彼女の前に姿を現そうとしなかった。 成績は下がるし、大学入試の日にちは近づき、両親とも喧嘩をして家を出てしまったオリビエはある日、ランボルギーニを運転するフォンタナに出会う。40歳を過ぎたフォンタナは、自分にはフレデリックを受け止める情熱はないと知って、オリビエにその若さで彼女を幸せにしてくれと言う。 彼女はアパルトマンを出て行方不明になっていた。オリビエはふと、自分たちがかつて泊まったことのあるノートルダム近くのホテルを思い出してそこを訪れてみた。果たして彼女はそこにいた。彼女は自分を愛していた。だが寝るだけで問題が解決しないことは二人には分かっていた。 だがオリビエは再び戻ると言いながら、フォンタナに電話した。そして彼女の居所を教える。いったんホテルを出て学生集会に向かったオリビエは、その日の夕方に再びフレデリックのもとへ行くことはないだろう。オリビエの心は決まっていたのだ。(1968年) Directed by Michel Boisrond Writing credits Michel Boisrond Claude Brulé Cast: Katia Christine .... Christine / Nathalie Delon .... Frederique / Nicole Desailly .... La concierge / Robert Hossein .... Fontana / Bernard Le Coq .... Jean-Pierre / Martine Sarcey .... The Mother / Renaud Verley ... Olivier リスニング;フランス語。 青春の夢いまいづこ 2005/02/10 たとえ小品であっても、必ずそこに人生が含まれているのが小津安二郎の作品である。最初は平凡な風景の描写から始まっていても、いつの間にか観客は、一つの世界に投げ入れられていることに気づく。それがまた全然教訓的でないのがいい。 ここは東京のとある大学。商学部であるが、どうも少しも勉強せず、あるいは勉強してもさっぱり成績の上がらない連中が混じっているようだ。その中での4人組は授業中に将棋は指すわ、試験ともなればカンニング用紙を出してきてお互いに配布し合うわ、どうも卒業もできるかもあやしい。 キャンパス内のベーカリーにはお繁ちゃんという可愛い女の子がいた。いつも朗らかで生き生きとしていてみんなのあこがれの的であった。時にこの中の堀野哲夫とは親しく、みんなの前でシャツの修繕をしてもらったりしていた。 堀野は「堀野商事」という会社を経営している父親がいる。副社長でもある叔父は哲夫を何とか結婚させようといろいろ話を持ってくるが、お繁ちゃんのことがあるのか、みんな話を断ってしまう。 やがて学期末試験が迫ってきたが、その当日父親が急死し、哲夫は突然若くして堀野商事の社長になることになった。大学を中退し、慣れぬ会社の仕事に毎日専念することになった。お繁ちゃんと会うこともなく毎日仕事に忙殺されるようになった。 それから3年ほどたって卒業シーズンが近づいてきた。大学で勉強を続けている残りの3人もそろそろ就職の場を見つけなければならないのだが、何せカンニング常連組であるし、不景気もひどいので普通の会社ではとても入れそうもない。3人は哲夫に泣きついてきた。 昔の学生生活をまだ懐かしく思っている哲夫は3人のためにカンニング用紙を用意までして、入社させてやった。しかもお見合いデートの最中に、ベーカリーが閉鎖されて引っ越しの最中だったお繁ちゃんと偶然出会い、彼女のためにも仕事の場を用意してやる。 哲夫はお繁ちゃんと一緒になる気になった。3人の前で彼女と結婚することを宣言する。3人はみな「異論ない」と言ってくれた。だが3年もの間会わないでいたことで、彼女はあきらめて3人の中の一人、斎木と結婚の約束をしていたのだ。ところがそのことを斎木は何も言わない。 哲夫は男らしくお繁ちゃんには、斎木と幸せになるようにと言って彼女の部屋を去る。自分が社長だからといって人の花嫁を奪う権利などないのだと言って。それにしても自分の許嫁をあっさり譲ってしまう斎木の態度のふがいなさはいったいなんだ! 哲夫は斎木の家に乗り付けると、3人を前にして、斎木を殴りつけた。そして3人とも仕事が欲しいがために自分の気持ちを曲げることまでする態度をなじった。はじめはびっくりしていた3人だが、ようやく哲夫の気持ちをわかってくれた。しばらくたって、会社の屋上には斎木とお繁ちゃんが新婚旅行に出かける列車を見送って手を振る3人の姿があった。(1932年・モノクロ・サイレント) 監督.......小津安二郎 脚本.......野田高梧 原作.......野田高梧 配役 堀野哲夫 .......江川宇礼雄/ベーカリーの娘お繁 .......田中絹代/斎木太一郎 .......斎藤達雄/哲夫の父謙蔵 .......武田春郎/叔父貢蔵 .......水島亮太郎/哲夫の友熊田 ......大山健二/島崎 .......笠智衆/大学の小使 ......坂本武/斎木の母おせん .......飯田蝶子/山村男爵夫人 ......葛城文子/令嬢 ......伊達里子/婆や .......二葉かほる/花嫁候補の令嬢 ......花岡菊子 出来ごころ 2005/02/13 下町の温かい人情を描いた作品のうちの一つ。このような人間関係を扱った小津の作品が戦前存在したことで、戦後の家族崩壊を描いた「東京物語」の意味がいっそう大きく浮き彫りにされてくる。観客は「東京物語」を見る前にこのような作品を見ておくとよい。 喜八は下町に住むやもめ男。小学3年生の息子、富夫と二人暮らし。別棟には喜八の弟分で独身男の次郎が住んでいる。二人はビール工場の工員だ。貧しい生活ではあるが、休みの時には三人で浅草の寄席などに行ったりしている。 ある夜のこと、寄席帰りにおとめさんのところで一杯やって帰ろうとしたところ、外に若い女が一人立ちつくしている。次郎はよくある引っかけ女だといってさっさと帰ろうとするが、その美しさにひかれた喜八は気になってしょうがない。聞くと千住の紡績工場をクビになって行くところもないと言う。 おとめさんに頼み込んで、女を泊めてもらった。女は春江といい、おとめさんによれば、とてもいい子だからうちの店で手伝ってもらうことにしたと言った。さあ、独り身の喜八は春江が気になって仕方がない。一張羅を売って簪(かんざし)を買い求め、春江にプレゼントをしたりするが、どうも春江は髭面の次郎の方にひかれているようだ。 おとめさんはぜひ春江を次郎と一緒にさせようと大乗り気なのだが、次郎ははじめからこんなタイプの女は嫌いだといって取り合わない。喜八の方はすっかり春江に参って、工場も休みがちになった。酒ばかり飲んでいるものだから、しっかり者の富夫に抗議された。まだ年端もいかない息子に叱られては喜八も立つ瀬がない。 翌朝から心を入れ直して、富夫には子どもにとっては大金のお小遣いを渡して学校へ送りだした。ところが富夫は今までこんな金をもらったことがないものだから、片っ端からお菓子や食べ物を買い込みいっぺんに食べてしまい、急性腸カタルを起こしてしまった。 一時は命も危ないほどだったが、春江、おとめさん、次郎の看病を受け、学校の先生がお見舞いに来てくれてようやく富夫は回復した。だが、そのあとの入院代が大きな負担となって喜八にのしかかった。宵越しの金を持たない生活をしてきただけにまったく払う金がないのだ。 春江が何とか金を作り出すと言い出す。それを聞いた次郎はそれがなにを意味するか知っているからそれをやめさせようとした。これがきっかけで二人の間のわだかまりは一気に解けた。 次郎は知り合いの理髪店のオヤジに頼みに行き、金を工面してもらった。借金の支払いは北海道で人夫として働きにいこうという気でいたのだ。それを聞いた喜八は猛然と反対し、逆に自分が行くと言い出す。事情を知った理髪店のオヤジはそれを聞いてそんな金ならあきらめても言いといいだした。 まわりの反対を押し切り喜八は富夫を近所の人に任せて船に乗り込んだものの、持参した富夫の習字を見たとたん家に帰りたくなり、船はまだ東京湾の運河づたいを走っていたので、海に飛び込み岸に泳ぎ着いてしまった。(1933年・モノクロ・サイレント) 監督 ......小津安二郎 原案 ......ジェームス・槇 配役 喜八 ......坂本武/春江 ....../伏見信子/次郎 ......大日方伝/おとめ ......飯田蝶子/富夫 ......突貫小僧/床屋 ......谷麗光 浮草物語 2005/02/15 (再)2024/01/30 役者たちはまさに浮草である。でも舞台に立つというのは底知れぬ魅力があり、どんなにつらくてもこの仕事から離れることはできない。平凡で安泰な生活にあこがれてはいるが、再び放浪の旅に出て行くのである。もしかしたらこれは「寅さん」シリーズの根幹とも通じるところがあるかもしれない。 これは後に戦後、「浮草物語」としてリメイクされる。舞台の場所を変え、名前も変えてあるが、基本的には同じストーリーだ。ただ、内縁の女、おたか(八雲理恵子)がすみ子(京マチ子)となり、二人の女優の性格には大きな開きがある。同じ監督のリメイクということで実に興味深い。 テレビの普及する前の日本では、田舎町に一座がやってきて人々に娯楽を提供していた。ここは木曽の旅籠宿で有名な中央本線、奈良井(ならい)駅。周りは木曽の山々に囲まれている小さな町だ。喜八の率いる旅回りの芝居一座が鈍行列車に乗ってやってきた。さっそくチンドン屋が狭い街並みを練り歩き、旗がひるがえって町は活気を帯びた。地元の子どもたちが役者につきまとう。 だが、内縁のおたかは、何でこんな小さな町に立ち寄るのか喜八の真意がわからない。客が来てもたかがしれているし、雨でも降ったらほとんど入りがないだろう。だが、喜八には他の目的があった。昔からのご贔屓の客に挨拶に行くと言って、昔の女、かあやんと自分の実の息子信吉に会いに来たのだ。 喜八とかあやんはずっと昔に別れ、かあやんは今小料理屋をやっているが、まだ学生で実直な信吉には、喜八をおじさんということで父親であることをあかしていない。かあやんは喜八がもう歳だからこんな浮草稼業から足を洗い自分たちといっしょに落ち着いた暮らしをしてもらいたいと心の底では思っている。 だが喜八は、今のままでいいと思っているし、信吉をハヤ釣りに誘い出したりして息子とのわずかな時間を過ごすのだった。だが、これをおたかが気づかないはずがなかった。自分と知り合う前にできた子供とはいえ、こうやって会いに来ている喜八に腹が立ち何とか復讐してやろうと考える。 おたかは、かあやんや信吉と喜八がいるところに押しかけていったりしたが、逆に喜八から殴られ、罵られる。豪雨の中、それぞれが街の長屋のひさしに雨宿りしながら相手がはっきり見えないほどの豪雨越しに怒鳴り合う場面は見事。おたかは喜八に捨てられては行くところもない弱みがあり、他の作戦を考える。 そこで目を付けたのは一座での妹格のおときだった。その美しさで信吉に接近し、色仕掛けで誘惑させようと考えたのだ。これはあっけなく成功してしまった。これまでまじめ一筋だった信吉が、おときにすっかり入れ込んでしまい、おときの方も好きになってしまったが、こんな仕事をしているからには信吉との間に未来がないこともわかっていた。 二人の仲が発覚し、喜八は激怒し、おときをそそのかしたおたかとは縁を切ると宣言する。だが、悪いことは重なるもので、この町での興行成績が良くなく豪雨にたたられたため、経営が行き詰まり一座はたちまち解散に追い込まれた。 最後の晩、みんなで別れの酒を酌み交わす一座の人たち。長年ここで働いてきた役者たちにとっては青天の霹靂だった。喜八が最後の別れを告げにかあやんの店へ行ってみると、信吉とおときは駆け落ちしたらしいことがわかる。二人はその晩店に戻ってきたけれども、信吉は喜八が急に今更父親と名乗り出ても、もはや喜八を受け入れる態度を示さなかった。 一座の解散でどん底に落ちた喜八は、実の息子にも背を向けられ、やはり自分は浮き草稼業しかないと思い、かあやんが引き留めるのも聞かず駅へ向かう。このあたりの場面は寅さんの映画で妹のさくらとの間で何度も繰り返された原型である。上諏訪あたりにでも行って一旗揚げようかと思っていた喜八だったが、待合室にはちょうどおたかが座っていた・・・(1934年・モノクロ・サイレント) 監督:小津安二郎 原作 : ジェームス・槇 配役 喜八 :.坂本武/かあやん(おつね) :飯田蝶子/信吉 :三井秀男 /おたか :八雲理恵子/おとき :坪内美子/富坊 :突貫小僧 男はつらいよ・翔んでる寅次郎 2005/02/24 便秘を治す薬を研究している学者になった夢から寅さんが目覚める。寅さんは旅の移動のついでに柴又に寄ることにした。最近は結婚ブーム。今日もタコ社長の職工のひとりの結婚式があったばかり。寅はいつになったら結婚するのか・・・みんながため息をついているときに寅さんが店先に姿を現す。 だがその夜、学校で三重マルをもらった満男の作文を寅さんがみんなの前で読み上げたときから雲行きが怪しくなる。寅さんが恋愛と失恋を繰り返すことが生々しく書いてあり、学校の先生はこれを大変よくできましたという評価をくれたのだ。 例によって大喧嘩となり、とらやを飛び出した寅さんは北海道南部の海岸に向かう。遠くの海を見つめながらぼやっとしていると、一人で車を運転していた若い女性が近づいてくる。同乗を申し出をいったん断ったのだが、数日後に彼女が若い男に危うく暴行されそうになるところを助けて、旅の道連れとなる。 女は入り江ひとみといい、東京の田園調布のお金持ちのお嬢さんだった。結婚が間近に迫っていながら、相手の男の態度がつかめないまま結婚話が周囲によってどんどん進められてしまい、自分の幸せがどうも実感できなくて一人旅に出たのだという。 寅さんは、病気の父親の治療代を出すために大嫌いな名主の息子と無理矢理結婚した薄幸の女の話をして聞かせて、ひとみの悩みがいかに贅沢なものかに気づかせる。寅さんの話を聞いたひとみはいったんは東京へ戻ることにする。 それからしばらくして、ひとみがとらやを訪れるのではないかと気になってしょうがない寅さんは再び柴又に舞い戻ってきた。思った通りひとみはとらやにやって来たが、なんと純白のウェディング・ドレスを着たままタクシーに乗って結婚式場から逃げ出してきたというのだ。 迎えに来た母親の説得にも応じないので、落ち着くまでとらやではひとみを預かることにした。寅さんは大いに喜び、ひとみのためになんやかやと世話を焼く。しばらくしてあらわれたの新郎になるはずだった邦夫だ。 気が優しくて何となく頼りない邦夫は会社社長の息子で、今度の結婚でも自分の意志表示をきちんとしなかった。だが今回の花嫁逃走事件で邦夫はひとみに恋してしまったのだった。自分父親の会社を辞め、勘当されて自活を始めた。だがひとみははじめのうち邦夫をどうしても受け入れる様子を示さない。 だが、とらやの人々の生活に次第に感化されてゆく。タコ社長などは、お見合いの写真の相手と結婚式場の現れた女が違うので仲人に問い正すと、妹を連れてきたのだそうだ。しかも抗議をしようにも仲人に借金をしていたのでできなかったとか。 とらやの人々のささやかながら幸せそうな暮らしに、ひとみは今までは自分の幸せだけを考えていたのだと気づく。自分の幸せはまずまわりの人を幸せにすることによって生まれるのだと知ったのだ。 ひとみは邦夫のぼろアパートを訪れ、愛を誓う。当てが外れた寅さんだが、旅に逃げ出すところをさくらに引き留められ二人の新たな結婚式の仲人をつとめる羽目になった。ささやかな結婚式だったが、金をかけた豪勢な結婚式よりもはるかにすてきだった。(1979年) 監督: 山田洋次 原作: 山田洋次 脚本: 山田洋次 朝間義隆 キャスト(役名)渥美清(車寅次郎)倍賞千恵子(さくら) 布施明(小柳邦夫) 湯原昌幸(旅館の若旦那) 木暮実千代(ひとみの母親)マドンナ; 桃井かおり (入江ひとみ) 戸田家の兄妹 2005/03/07 後の「東京物語」の原型になった作品ではないだろうか。兄弟姉妹たちの不人情によって父親の死後、母親と末娘が居場所をなくすという、いわゆる日本の家族関係の崩壊がすでにこの昭和16年の作品に芽生えているのだ。 由緒ある家柄の戸田家の父、進太郎は69歳の誕生日を祝ったがその夜、5人の子供たちの祝福を受けた後狭心症で急死する。裕福な家柄だったのだが、弁護士によると、多くの借金の肩代わりを引き受けていて財産を整理した後はいくらも残らなかった。 骨董品は売り払われ、母親と三女の節子はそれまで住んでいた屋敷を追われ、長男進一郎の家に居候をすることになる。ところが嫁の和子がこの二人が自分の家に入ってきたことの気に入らない。友達が自宅にやってくるから二人にその間外出していてほしいという。夜になれば人はばかることなくピアノの練習をする。 いやがらせにいたたまれなくなった二人は長女千鶴の家に移るが、これも同じだった。それどころか千鶴の息子が不登校なのを知ってすぐに報告しなかったということで母親が逆に責められてしまう。 節子は親友の時子が、勤め先を見つけ母親と二人暮しをしているのをみて自分も仕事を見つけようとするが、世間体を気にする千鶴に止められてしまう。思い余った二人は、もうぼろぼろになってしまって訪れる人もいない鵠沼の別荘(神奈川県藤沢市)に移り住むことを決心する。 こうして女中のきよも一緒に住んで久しぶりに二人は平和な時をすごすのだった。そのうちに進太郎の一周忌がやってきた。父の死後、奮起して中国の天津に仕事の場を求めた次男昌二郎が、1年ぶりに帰国した。昌二郎は法事の後の宴席で母親と節子が長男と長女の間をたらいまわしにされ、挙句の果てあばら家の別荘に追いやられたことで兄弟姉妹たちを激しく責めるのだった。 昌二郎は母親と節子に向かって、自分と一緒に天津にやってきて住むことを勧める。自分が二人の面倒を見るという。そこでは日本の古臭い偏見や見栄とは無縁で、のびのびと暮らすことができるというのだ。これを聞いて、母も娘もその気になる。 節子は自分の親友である時子を昌二郎が嫁にもらってくれることを望んでいた。一方昌二郎も天津に行ったら自分の同僚の中から一番いい男を紹介すると節子に約束する。すぐその後、鵠沼に咲子が訪ねてきた。照れ屋の昌二郎は砂浜に逃げ出したが、新しい未来は確実に始まっていたのだ。(モノクロ・1941年) 監督・・・小津安二郎 脚本・・・池田忠雄 小津安二郎 配役 戸田進太郎・・・藤野秀夫/母・・・葛城文子/長女千鶴・・・吉川満子/長男進一郎・・・斎藤達雄/妻和子・・・三宅邦子/二男昌二郎・・・佐分利信/二女綾子・・・坪内美子 /夫雨宮・・・近衛敏明/三女節子・・・高峰三枝子/友人時子・・・桑野通子/鈴木・・・河村黎吉/女中きよ・・・飯田蝶子/友人・・・笠智衆/骨董屋・・・坂本武 断崖 Suspicion 2005/03/08 ジョニーは稀代の色男だった。だが、列車のコンパートメントで一人の若い娘リナとであったときに大きく変わる。彼女は裕福な家庭の箱入り娘で、婚期を逃してからは独身生活のほうに傾いていた。列車の中で「児童心理学」を勉強するまじめ一方の女だった。 そこに素敵な男性が現れたからたまらない。ジョニーの型破りな当意即妙の受け答えに、彼女のほうも一気にこの男に惹かれてしまった。パーティで再び会うまもなくれなは両親に置き手紙をして家出、そして二人は結婚。ヨーロッパを旅行した後、戻ってきたときの新居にはお手伝いとコックがついた豪勢な生活が待っていた。 だが、ジョニーは文無しだった。賭け事が何よりも好きで、借金に借金を重ねる生活を続けていると彼女が知ったのは新婚生活に腰を落ち着けてからだった。定職についたこともなく、ひとたび仕事を得ても、会社の金の使い込みのためにクビになったのだという。 ジョニーはリナの両親からの結婚プレゼントである古い椅子を勝手にに売り飛ばしてしまうのだが、そのあとで豪華なプレゼントを添えて返してくれた。これは競馬の大穴に買ったのだというのだが、実はこれは会社の使い込み金を当てたものだった。リナはひやひや、はらはらしどうしだった。 彼は親友ビーキーと断崖の続く海岸にリゾートホテルを建てる計画を考えるが、いつの間にか立ち消えになる。ビーキーはいったん現金化した証券を元に戻すための手続きのためパリに行くが、そこで原因不明の死を遂げる。警官が調べに来たところから、リナはジョニーが金ほしさのためビーキーを殺したのではないかと疑う。 ある日、保険金会社から手紙が来た。保険金を担保に金を借りることは、妻が死なない限り不可能だという文面だった。リナは今度は自分がジョニーに殺されるのではないかと疑い始める。探偵作家の家で夫が毒殺の方法を聞きだしていることから自分の飲み物にその毒が盛られているのではないかという疑いがますます彼女を追い詰める。 次から次へと生まれる疑惑についに耐え切れず実家に戻ろうとすると、ジョニーは断崖沿いの道路を送っていくという。自分を断崖から突き落とそうとするのではないか。ジョニーの運転する車は猛スピードで急カーブを曲がって行く。リナは恐怖のどん底に突き落とされた・・・(1941年) 監督: Alfred Hitchcock 原作: Francis Iles キャスト(役名) Cary Grant (Johnnie_Aysgarth) / Joan Fontaine(Lina) / Sir Cedric Hardwicke(General_McLaidlaw) / Nigel Bruce(Beaky_Thwaite)リスニング;Cary Grant 以外はみなイギリス英語。しかし決して難解ではない。 男はつらいよ・寅次郎春の夢 2005/03/13 サンフランシスコをさまよう寅が、場末の酒場で妹さくらを発見、船長博の助けによって無事日本に帰国する夢から覚めた。秋も押し迫る頃、ブドウを土産にとらやに戻ったのはいいが、二階にはもらいもののブドウが山のように置かれ、台所に降りてみるとタコ社長のお裾分けというわけでまたブドウをもらってしまう。 博が寅さんが持ってきたものとは知らずにこれは酸っぱくてまずいといったものだから、さあ大変、寅さんは再び旅へ出てしまう。行った先は紀州だが、行商仲間の一人が女房に逃げられ、小学生の息子が寂しく弁当を書き込んでいるのを見て、寅さんは無性に柴又に戻りたくなる。 一方柴又では御前様のお寺に迷い込んだアメリカ人、マイケルがその夜の泊まる宿もなく困り果てていた。御前様がマイケルを連れてとらやに行くと、ちょうど満男の英会話の先生、めぐみの母親である圭子がいたものだから、親切なとらやの家族はマイケルと寅さんがいつも使っている二階に当分下宿させてやることにした。 マイケルは日本人の歓待に感激し、しばらくここを根拠地にして、ビタミン剤のセールスをすることにした。ところがそこへ運悪く寅さんが帰ってきてしまった。アメリカが嫌いだという寅さんはさくらたちの止めるのもきかず、何とかマイケルを追い出す計画を立てるが、ちょうど圭子が店にやってきて対決は免れた。 圭子は3年前、アメリカで夫を交通事故でなくし、今柴又に戻って英会話講師の娘と共に二人暮らしをしていたのだ。すっかり圭子が気に入った寅さんは、彼女らの家の増築が遅れているのを見て、昔なじみの大工の棟梁と掛け合う。その結果すっかり入り浸りになってしまった。 恵みと圭子はとらやのディナーに招待される。話題はもっぱら日本人とアメリカ人との愛情表現の違いだった。アメリカでは何でも自分の思っていることははっきりと主張しなければ、なにも進まない。めぐみはかつてボーイフレンドに求愛を受けたときに、「だめよ( That's impossible. )」と言ったこともある。 これに対して日本人は博も死んだ圭子の夫も無口で何も言わないが、それは愛情がないというのではなく、お互いの心を察するのに長けているということなのだ。別に I love you. と声を大にして言わなくてもお互いに分かっている。 一方マイケルは一生懸命セールスをするが、日本語も下手で営業に向かない優しい男だったから、少しも売り上げが伸びず毎日疲れ果ててとらやに戻っていた。そして優しくいたわってくれるさくらにひかれるようになってしまった。一度は京都まで遠征してみたが、やはりうまくいかず町中で見た旅回り一座による「蝶々夫人」の劇を見て、又さくらのことを思い出してしまう。 大雨の中柴又に戻ってきたマイケルはなにやかやと面倒を見てくれるさくらに I love you といってしまう。困ったさくらはめぐみの言った言葉をとっさに思い出して impossible と返事をした。マイケルは落胆する。 いつものように寅さんが圭子の家に遊びに来ていたとき、タンカーの船長がやってきた。ふと感じる胸騒ぎ。思った通り、彼は再婚相手だったのだ。長居をしすぎたと感じた寅さんはとらやに戻って旅支度。 マイケルに言われた言葉をさくらが話すのを聞いて、寅さん曰く、「アメリカ人は何でも口にしなければ通じない。俺たち日本人のように相手の心を察することができないんだから、許してやれ」。マイケルと寅さんは仲良くとらやを出る。マイケルはアメリカに戻ってもさくらの写真を持ち歩くのだ。(1979年) 監督: 山田洋次 原作: 山田洋次 脚本: 山田洋次 レナード・シュレイダー 朝間義隆 栗山富夫 キャスト(役名) 渥美清(車寅次郎) 林寛子(高井めぐみ)ハーブ・エデルマン(マイケル・ジョーダン) マドンナ;香川京子(高井圭子) Les Dimanche de ville d'Avray シベールの日曜日 2005/03/15 シベール Cybele という名はカトリックの学校ではキリスト教らしくないからと代わりにフランソワーズと呼ばれている。彼女は母親が駆け落ちし、祖母は面倒を見たがらないし、父親は新しい女ができたらしく、パリ近郊の Avray の町にある学校にまだ12才の娘を置いて姿を消してしまった。 駅で青年jピェールはふとフランソワーズと目が合う。後をつけて行くと、父親が寄宿学校に娘を預けてから駅に急ぐところだった。父親が置き去りにしたカバンを預かったピェールは次の日曜に父兄面会の時間に父親のふりをしてフランソワーズにカバンを渡す。 ピェールは戦闘機乗りだった。だが大きな事故に遭い、そのショックで記憶喪失となり戦闘の最中に少女を撃ったことが今でもめまいの原因になっているのだった。病院で知り合ったマドレーヌという若い女の献身的な世話で二人で暮らしているが、どうしてもかこのことや自分が何者であるか思い出せないでいる。 フランソワーズはその純真さがピェールの心に深く触れた。二人は大きな森の中や湖の畔を散歩して親しさを増していくのだった。フランソワーズにとってもほとんど孤児と言っていい状態で、こうやって日曜日に連れ出してもらえることが日常生活の唯一の楽しみになった。 ある日曜日、ピェールは友人の結婚式にマドレーヌと招かれて出かけて行くが、帰りに寄った遊園地でフランソワーズの姿を見かけると急に暴れ出し、殴り合いの喧嘩を始めて、友人たちのひんしゅくを買った。また近所の人たちの間に、ピエールとフランソワーズの散歩する姿が噂になっていた。 心配したマドレーヌは、何かとピェールの面倒を見て制作の手伝いをさせてくれているカルロスに相談に行く。カルロスは、心配ないと言い、マドレーヌに母親のようにがみがみ言ったり質問責めにしないようにと忠告する。ある日曜日マドレーヌは散歩している二人のあとを森の中につけて、二人がまったく楽しそうに振る舞っているのを見て安心する。 やがてクリスマスが近づいてきた。フランソワーズを喜ばせるため、ピェールはカルロスの家に無断で入ってクリスマス・ツリーを森の中に運び出した。そしてミサが行われている頃、教会の屋根に上がって風見鶏をとってきた。風見鶏をもらえたらフランソワーズは自分の本名を明かすと言ったのだ。 クリスマス・ツリーがなくなったのを知って仰天したマドレーヌは友人のベルナールに電話して一緒にピェールの行方を探すためきてもらうよう頼む。だがベルナールは来る途中で警察に通報していたのだった・・・(1962年・モノクロ)⇒資料 風と共に去りぬ Gone with the Wind 2005/03/20 生きる、そして愛する情熱にあふれた女性というのはそんなに多くない。ヒロインはその数少ない女性の中の一人である。たぶんに自己中心で、平気で人の恋人を奪い、外見を気にし、お金がすべてであり、あまり賢くはないのだが、前向きに生きる力にあふれ住む土地に根を張ってくじけることのない姿が描かれる。200分を越える大作であるが、やはり詳細は原作を読まねばならないだろう。 ここはアメリカ南部ジョージア州。州都のアトランタから南へ下がった田園の中にオハラ家の経営するタラの農場があった。夫婦には女の子ばかり3人の娘がおり、その長女がスカーレットだった。肥沃な土地には大勢の黒人奴隷がおり、人々は豊かな暮らしを楽しんでいた。 近くの大きな屋敷で催される舞踏会には大勢の人々が集ったが、スカーレットは持ち前の美貌と積極性で男のたちのあこがれの的だった。近所の人々が噂にするほど彼女は男の子たちの中心になり、若い女たちはみな自分の恋人をとられやしないかと心配する有様だった。 だが、スカーレットは以前からアシュレーを慕っていた。ところが噂によれば自分ではなく、地味で目立たないメラニーという女と結婚するのだという。自分に最高の自信を持っていた彼女は激しいショックを受ける。そしてアシュレーに迫るがすげなく断られてしまう。 絶望したスカーレットは腹いせにメラニーの弟と結婚する。だが南北戦争が始まってまもなく彼は麻疹に肺炎を併発し、スカーレットはあっけなく後家となった。そしてまだ喪も明けないうちにアトランタの戦争の募金バザーに乗り込み性懲りもなくすでにメラニーと結婚したアッシュレーに近づこうとする。 バザーの会場にはタラの舞踏会でも姿を見せていたバトラーが来ていた。士官学校を追い出され、戦争にも志願せず、そのニヒルな態度をスカーレットは嫌い、避けようとするがバトラーはそんなことにめげる男ではない。 やがて戦局は南軍に不利になってきた。クリスマスの休暇に帰ってきたアシュレーは体が弱く妊娠しているメラニーの面倒を見てくれることをスカーレットに頼んで再び戦場に戻っていった。 アトランタ市は敗退する南軍兵士でいっぱいになった。広場に死傷者が並べられメラニーもスカーレットも負傷者の看護にかり出された。その合間を縫ってバトラーが彼女の前に姿を何度か現して助けてくれた。だがスカーレットは依然として彼を拒否し続けるのだった。 撤退する南軍兵士が火をつけた弾薬庫が爆発炎上する中、メラニーは子供を出産し、バトラーが見つけてくれた馬車で死体のころがる街道をひたすらタラへ向かう。バトラーは自分は最後の戦いのために志願すると言い出した。スカーレットは自分で馬車を操り、一行は何とかタラにたどり着いた。 だが村は占領していた北軍が去ったあとであり、近所の家は焼け落ち、自分の生家では母親がチフスにかかって死んだばかりだった。父親は相次ぐ苦労で廃人のようになり、畑には大根しか食べるものもない。これから先メラニー親子も抱えてどうやって生きていったらいいのか?だがスカーレットは闘志を燃やした。<前半> 敗戦と同時に村に次々と男たちが戻ってきた。北軍の脱走兵が家に侵入するとスカーレットはその男を撃ち殺した。アシュレーも少し遅れて戦場から戻ってきた。荒廃した農場や畑をこれから元に戻さなければならない。メラニーたちと共に農作業に精を出した。しかも占領軍である北軍はタラの農場にも300ドルという重税を課してきた。 一文無しのスカーレットたちにはそんな金はない。だが借金のかたに農場を他人に取られては仕方がない。バトラーに頼みに行ったが、彼は牢屋に入れられていてどうしようもない。妹スエレンの婚約者はアトランタの町で製材所を経営してどんどん儲かっていた。一計を案じたスカーレットはその男を誘惑して妹から奪い自分が結婚してしまう。 製材所の経営者におさまったスカーレットは商才を発揮してどんどん事業を拡張した。ある日森の中の伐採現場に見回りに行くとき、そこにいた男たちに危うく乱暴されるところだった。その夜、夫やアシュレーは決着をつけるためにその森を襲ったが、夫はは頭を打ち抜かれて即死、アシュレーはバトラーによって危ういところを救出された。 2回目の後家になったスカーレットだが、あまりに強引なバトラーの求婚につい承諾をしてしまった。二人はニューオリンズに新婚旅行をして、豪勢な屋敷を構えた。女の子が産まれ、ポークと名付けれられた。バトラーは娘に溺愛したが、そのころから夫婦の仲はしだいに冷たいものになっていった。一つにはいつまでたってもスカーレットがアシュレーへの思いを捨てきれなかったことがある。 二人目の子どもを身ごもったとき言い争いの最中にスカーレットは階段から転げ落ちて流産した。その傷がまだ癒えないうちに乗馬に夢中のポークが祖父の場合と同じように落馬して死んだ。ポークの亡骸から離れようとしないバトラーは優しくメラニーに説得されてようやく葬式を出す決心をしたのだが、そのころ二人目の子供を身ごもっていたメラニーは体調を崩し、スカーレットにアシュレーと息子の世話を頼んで死んでゆく。 失うべきなにものもなくなったバトラーとスカーレット。バトラーはメラニーの死でようやくアシュレーが手にはいるだろうと言い残してタラを去って行く。後に残されたスカーレットはタラの故郷に根を張って生きていくことを決意する。「明日考えよう」とつぶやきながら。(1939年) Directed by Victor Fleming Writing credits Margaret Mitchell (novel) Sidney Howard (screenplay) Cast Clark Gable .... Rhett Butler / Vivien Leigh .... Scarlett O'Hara / Leslie Howard .... Ashley Wilkes / Olivia de Havilland .... Melanie Hamilton / Thomas Mitchell .... Gerald O'Hara / Barbara O'Neil .... Ellen O'Hara (as Barbara O'Neill) / Evelyn Keyes .... Suellen O'Hara / Ann Rutherford .... Carreen O'Hara / George Reeves .... Stuart Tarleton / Fred Crane .... Brent Tarleton / Hattie McDaniel .... Mammy / Oscar Polk .... Pork / Butterfly McQueen .... Prissy / Victor Jory .... Jonas Wilkerson (the overseer) / Everett Brown .... Big Sam 長屋紳士録 2005/03/21 (再)2024/02/21 時は終戦間もなく。上野公園には浮浪少年がたくさんいて、食糧難で世の中が混乱している中、子供たちは引き取り手もなく餓死したり病死したりする世の中だった。東京の下町は数多くの人々が長屋住まいをしていた。鼻をつき合わせて暮らしているからみんなで集まったり食料の配給などでお互いに助け合っていた。 ところは東京九段の近辺。よくある長屋に後家のおたねさんが住んでいる。一人暮らしが慣れたのか、近所ともつきあいがよく、気楽に暮らしている。ある日のこと、向かいに住む田代が九段の坂の上で宿なし少年,幸平を拾ってきた。長屋に同居している為吉は早く追い出せという。だが路上に放り投げるわけにもいかない。最初の夜は無理矢理おたねさんの家に泊めることにした。 だが最初の夜から幸吉は馬のような寝小便をしておたねさんはカンカン。幸吉は悪い子ではないがどうも強情である。シラミがいるらしくいつも背中をむずむずさせている。父親と茅ヶ崎に住んでいたが東京に来たときにはぐれたらしい。いったい誰が面倒を見るかみんなで役目を押しつけあった。 みんなの計略でおたねさんがくじに当たり、幸吉を連れて茅ヶ崎まで出向くことになる。八王子で焼け出されたという大工の父親は行方知れず。幸吉は捨てられたのではないか。江ノ島が遠望される茅ヶ崎の砂浜でおたねさんは何とかして幸吉を置いていこうとするが、どうしても離れない。仕方なく地元の安い芋を買って満員列車で東京に戻ってくる。 おたねさんは膨れ面だ。だが幸吉には何となく憎めないところがある。煙草の吸い殻や釘を父親のためを思って道ばたで拾って集めている。叱りすぎを友達に言われたことも手伝って、おたねさんは幸吉に何となく親しみを持ち始める。動物園に連れていったり、制服を買って写真館で写真を撮ってもらったりする。 すっかり可愛くなって、肩を叩いてもらっている矢先、幸吉の父親が入り口に現れた。父親はまじめな人で、東京をうろうろしているうち息子を見失ったそうだ。おたねさんに丁寧に礼を言い、芋の入った大きな包みまでよこした。幸吉はおたねさんの買ってやった服を着て父親と一緒に帰っていった。 田代たちがやってきて、おたねさんは言う。私たちは自分勝手でありすぎた。もっとあの子に優しくしてやればよかった。もしあの子を放り出したりしていたとしたら、父親はどう思うことだろう。なんか一人子供を貰いたくなったよ・・・上野公園の西郷像の前には浮浪児がいっぱいいるのだ。(1947年モノクロ)・・・資料 監督 小津安二郎 脚本 池田忠雄 小津安二郎 配役 おたね・・・飯田蝶子/幸平・・・青木放屁 /父親・・・小沢栄太郎 /きく女・・・吉川満子 /為吉・・・河村黎吉 /ゆき子・・・三村秀子 /田代・・・笠智衆 /喜八・・・坂本武 /とめ・・・高松栄子 /しげ子・・・長船フジヨ /平ちゃん・・・河賀祐一 /おかみさん・・・谷よしの /写真師・・・殿山泰司 /柏屋・・・西村青児 H O M E > 体験編 > 映画の世界 > コメント集(28) © 西田茂博 NISHIDA shigehiro |