ミラー級ヨット自作記

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ミラー級ヨット

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長ったらしいまえがき

現代が、ほしいものがあれば金さえ出せば何でも手に入る時代だとは言いつくされたこと。 いや、そのほしいものでさえ、どこかからコントロールされて、「必要でないものをほしくなる」ように仕向けられている時代となった。

こんな時代に自分の我を通すことは非常に難しい。せいぜい餃子を”自作”するぐらいが関の山。時代があまりに極端に進みすぎて、気がついたら”介護 AI” の腕に抱かれてすやすや眠っていたという事態も、間もなくだ。

だからその時代のやってくるのを止められない身の、最後の悪あがきとして、ヨットの自作を試みることにした。ヨットは風で走る。燃料がいらない。風任せだから、はっきりした目的地を目指すことができないかもしれない。道路がないから、誰かの航路を横切ったりしない限りどこへ行こうと自由だ。

19世紀アメリカに「スローカム船長」という男がいて、貨物船での乗り組みを定年退職した後、自分が本当の主人公になるため、せっせと木を切って、持ち前の器用さでがっしりしたヨットを作り上げ港を出た。それが Sailing Alone Around the World という彼の航海記に書かれている。彼によって、<冒険ヨット+自作>というイメージが作られた。

ミラー級の原型自転車の自作、自動車の自作、飛行機の自作、自宅の自作、いずれも多くのしろうとがが手掛けている。ヨットに関していえば、今は強化プラスチックの技術が非常に進歩したために、途方もなく丈夫な船の完成品が比較的安価に手に入る。

ボート並みの大きさから全長20メートルを超える「クルーザー」に至るまで、各種の船がそろっているが、大きくなればなるほど、富裕層の独占物であって、普通の人が手にできるのは、せいぜい5,6メートルどまりである。この最小サイズで、屋根を持たないのがディンギー・タイプだ。

ビートルズが活躍を始めた20世紀半ばの英国で、ジャック・ホルトという人が、Daily Mirror という新聞社の後援を受けて、だれでも手軽に作れ、乗れ、しかも場合によっては沿岸部の航海に出ることもできる、タフなディンギーを設計した。

ドーバー海峡を渡った、その最初のモデルが、ロンドンのグリニッジ地区にある海事博物館に展示されている。2015年6月に、わざわざそこまで行って撮影したのが左の写真。

Mirror 級の誕生である。それまでは船大工の専門的な技術がなければ、ボートでさえきちんとしたものを作ることができなかった。ところが彼の実用化した画期的な工法によって、ずぶの素人でも注意深く作れば、海に浮かぶものを作ることができることになったのだ。日本にもクラブ外部リンクがある。

イギリスは、世界でもっとも有名な海洋国家だ。帝国主義を連想する人も多いが、一方で一般庶民の間で、海や川での活動に対する関心は非常に強い。さすがその国で生まれただけあって、多くの支持を得て、一般の海好きの間に普及した。大金持ちはデラックスなクルーザーに乗るが、普通の人はディンギーを使ってもっぱらレースに熱中する。だが、島から島へ、そして沿岸伝いに”巡航”するのが大好きな人がいる。海の嫌いな日本ではとても考えられない、Dinghy Cruising Association外部リンク なるものが存在するのだ。

コンピュータを駆使し、最新鋭の設計によるヨットが中心の現代でさえ、依然としてその人気は衰えず、Mirror 級の舟艇数は世界第7位を誇っている。そしてイギリス、アメリカ、オーストラリアなどにこの船を自作外部リンクする人々が大勢いる(ようだ)。イギリスには「ミニ」という伝説的な国民車が存在するが、今なおこれが愛されており、誕生の時期がほとんど同じだというのは偶然ではない。

自作の手順
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2014年12月、英国のミラー級ディンギー・キットを販売する会社外部リンクから、大きな箱が自宅に到着した。本体の値段、運送費のほか、”関税”もしっかりとられている。長さ2メートルちょっとの段ボール箱は大変な重さで、配達員が玄関前に置いた後、一人で動かすことができず、とりあえず箱を開けて、何回にも分けて作業スペースに運ぶことにした。
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段ボール箱の中身は、この船を作るのに必要な一切の部品が入っている。ただし、ドリル、研磨機、万力などの工具は自前だ。特に大きな部分を占めるのが、それぞれの形に切り抜いてあるべニア板である。上の写真は、船の先頭部分と、それに結合する木材が、テープで一体になっている。この船の作り方は、”洋裁”に似ている。つまり型紙を切り抜いてそれを縫い合わせていくのだ。
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後ろ側の大きな板は、センターボード、つまりヨットが横流れしないように、船底から下に突き出す板。手前はラダー、つまり舵だ。
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これは船尾材。強度を確保するために、べニア板の上に、焦げ茶色の部厚い木材を張り付けることになる。
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箱に含まれていた、べニア板を、これから組み立てるのに容易なように草の上に並べてみる。手前が船尾で、向こう側が頭になる。真ん中の大きな2枚の板が、船底となり、それを左右に挟む細長い板が、側板ということになる。これらはすべて裸の板だから、これに海水がつくとたちまち腐ってしまう。木材は加工しやすいという利点があるが、海水に対してはまるっきり弱いのだ。だから仕事にかかる前に、一枚一枚裏も表も念入りに、「ポリエステル樹脂」塗料を塗っていく。
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まずは船底の板を置き、そこに長さ5センチほどの木製ブロックを張り付ける。写真では12個が見えるが、これらはそこに別の板を立てるための”定位置”を決めるためのポストとなる。長い4本の木材は船底の強化のために張る。
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いよいよ船底の板と側板とを結合する段階に突入。
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まずはそれぞれの板のへりに沿って、大体2センチ間隔でドリルで穴を開ける。穴はお互いに対応していなければならない。
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次にその穴に銅線を通し、ねじって止める。
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 洋裁では布と布を意図で縫い合わせるわけだが、わが船では代わりに銅線を使って縫い合わせるのだ。
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 直線部分はたいして難しいことはないが、舳(ヘサキ)は、微妙なカーブになっているので、元に戻ろうとするべニア板を説き伏せて、つまり写真のようにロープとかでお互いを引っ張って寄せておいて、銅線を素早く留めていく。ここでやり方がまずいと船体にゆがみが出るから、左右のバランスに気をつけながら縫い付けていく。
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 船尾に関しては、重たい船尾材を接着しておかなければならない。なお、木材同士の結合は木ねじや銅釘がこれまで使われてきたが、最近の接着剤の進歩により、強度は飛躍的に向上した。
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 船尾材が無事付いたところ。両派時の楕円形の穴は、べニア板にも穴を開けて、ここから手を入れて船を持ち上げたり、荒波で入り込んだ海水を逃がしてやる排水口となる。
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 船底と側板の結合部分を外からのぞいたところ。縦に見える継ぎ目は、この船の中央より前よりにあり、二枚の板をつなぎ合わせて作る。
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 船尾のほうを眺める。ようやくボートらしい外形を見せてきた。手前に見える船底の細長く黒い穴はセンターボードを差し込む穴。ここの加工が下手だと、将来ここから水漏れを起こすことになる。ここがヨットと普通のボートと違う厄介なところだ。
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 舳のほうを見る。先頭の逆三角形に、4枚の板が集まっている。普通の船だと、舳はとんがっているのだが、この船のデザインは、この三角形で切り落とされているようになっているのだ。手前の白っぽい2枚の板は、船底の板、側板をそれぞれつなぎ合わせている部分で、強度を確保するためにこれらの白い板で補強して結合してある。
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 船尾部分を近くで見ると、留めた銅線がたくさん並んでいるのが見える。
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 お椀状のものができたら、次の段階は、中に”隔壁板”を入れることだ。これによってボート自体の重みでゆがみがひどくなるのを防止できる。
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 とはいっても隔壁板が中で勝手に動いては困るので、まずはブロックを選定に固定し、それに沿って板を張り付けていく。特にこの部分は、マスト(帆柱)の真下にあたり、マストの荷重が直接かかってくるので、いい加減なつくりは許されない。
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 合計3枚の隔壁板を入れることになる。これは万一船がひっくり返った時に、沈没しないための浮力タンクも兼ねているので、確かな水密構造が要求される。焼酎のペットボトルが並んでいるが、これは接着剤をつけた部分の重し。
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 船体とは別に、マストの重量を支えるための工作物がこれである。これを船底の上に置き、上にデッキを張った後、その上にマストを乗せるのである。マストの重量そのものは大したことはないが、強風によってセールにかかる力が、マストに集まり、そしてこの部分に大変な力がかかるのである。この一見華奢な板切れだが、縦方向にかかる力にはしっかり耐えてもらわなければならない。
ここまでは、船体の組み立て。次のページでは、水を漏らさぬ器を作るための製作に取りかかる。 
 

2017年1月初稿

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