わたしの本箱

コメント集(21)

  1. 前ページ
  2. サマセット・モーム短編集(1)
  3. Why Marx Was Right
  4. 街ものがたり
  5. 馬車が買いたい!
  6. 国家の罠
  7. リベラルじゃダメですか?
  8. 弱者はもう救われないのか
  9. ひきこもりの国
  10. フランスー知の日常を歩く
  11. 貧困大国アメリカ
  12. 貧困大国アメリカⅡ
  13. 上等舶来・ふらんすモノ語り
  14. ジャン・バルジャン物語(上)
  15. ジャン・バルジャン物語(下)
  16. 夜更けにコラムを
  17. パン屋のお金とカジノのお金はどう違う?
  18. もう、邪悪な人に振り回されない!
  19. モーパッサン短編集(Ⅰ)
  20. 名前と人間
  21. 言語から見た民族と国家
  22. 次ページ

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サマセット・モーム短編集(1) * Kindle Fire * 2014/04/29

「Rain 雨」 南洋へ向かう船の中で、宣教師夫婦と医者夫婦が一緒になる。途中の港で伝染病発生のため足止めを食らうが、乗客の中に派手な若い女がいて、宣教師は風紀を乱すと、彼女を”改造”しようとする。何日も続く雨の中、宣教師の熱意は伝わりそうになるのだが…

「The Fall of Edward Barnard エドワード・バーナードの転落」 ボストンの良家出身のエドワードは父の破産により、一時的にハワイに仕事を探したが、現地のあくせくしない生き方がすっかり気に入り、ボストンに残してきたフィアンセも捨て、迎えに来た親友の忠告も受け付けず、アメリカに帰る気はまったくないのだ。

「Honolulu ホノルル」 ホノルルのある小型船の船長が地元のいい女に惚れこんだ。だが、部下の船員もこの女に熱を上げた。船長はこの部下を殴り倒したが、恨みを抱いた部下は、どうやら船長に呪いをかけたらしい。船長は日々やせ細り、女が地元の”医者(呪術師?)”に調べてもらうと、この部下を殺さなければ船長はいずれ確実に死ぬという…

「The Luncheon 昼食」 作家がまだ若いころ、自分のファンだと名乗る女をパリのレストランでご馳走したのはよかったが、何もいらないといいながら、次々と高いものを注文されて、その月の生活費がすっかりなくなった話

「The And and the Grasshopper アリとキリギリス」 自分の友人はまじめな弁護士で、あくせく働き、そろそろ定年を迎えるが、彼の弟は人はいいのだが、まるで怠け者で家族の鼻つまみ。そろそろ老年に近づき、どうせみじめな死に方をするだろうと思いきや、結婚した金持ちの女が死んで莫大な遺産を手に…

「Home 家庭」 かつて兄弟で求婚を争った老婦人の農場に、長いこと中国を放浪していた弟のほうがひょっこり帰ってくる。堅実で家庭を守った自分の夫である兄のほうと異なり、それなりに人生を楽しんだ弟に対し、老婦人は複雑な気持ちを抱く。

「The Pool 淵」 サモアに来ていたイギリス人が周りの反対にもかかわらず、現地の女エセルと結婚してしまう。彼女を連れて故国に帰るが、彼女は異国になじまず逃げ帰ってしまう。夫は後を追い、サモアに戻るが、今度は自分が再びなじむこともできず、酒におぼれ…

「Mackintosh マッキントッシュ」 イギリス植民地になっている南の島で、昔ながらのボス政治体制を使って原住民に君臨するのは、白人の老人**。この部下であるマッキントッシュは、実務家で几帳面であり、あらゆる面で**が嫌いだった。道路工事の件で、ある原住民リーダーが賃金の値上げを要求する。時代の変化などくそくらえの**は、即座に拒絶するが、結局のところ暗殺されてしまう。そしてマッキントッシュが次代のリーダーとして将来を嘱望されていたのだが…

「Appearance and Reality 表象と現実 」 政治家、実業家として君臨する年寄り男が19歳のモデルをかこったが、ある日彼女が若い男と一緒に寝ているのを発見。だが彼女は少しもあわてず若い男と結婚し、年寄り男は彼女の隠れた愛人となるという、いかにもフランス的な解決に落ち着いた。

「The Three Fat Women of Antibes 三人の太った女」 フランスのリゾートに遊ぶ、三人の中年過ぎの仲良しグループは、太らないために涙ぐましい努力をしているのに、招待した一人の未亡人が、食べまくっても少しも太らないのをみて、怒り心頭、ヤケ食いに走ってしまう。

「The Facts of Life 人生の真相」 いつもは陽気で人付き合いのいい親父が不機嫌なのは、モンテカルロのテニスの試合に自慢の息子をおくりだしたところ、父親の忠告を守らず、博打、貸し金、女に手を出したのに、すべてうまくことが進んで大金を持ち帰ったからだ。

「Gigolo and Gigolette ジゴロとジゴレット」 あるカジノの会場で、ステラという若い女が高いところから洗面器に飛び込むという余興があり、大いに人気を集めていた。その晩、かつて同じような曲芸を生活の糧にしていた老夫婦がステラの楽屋を訪れる。二人に出会ったステラは突然、自分の曲芸が怖くなり、夫にできなくなったと言い出す。だが、かつての貧しい暮らしを思い出し、ステラは不敵な笑みさえ浮かべて会場に向かう。

「The Happy Couple 」 リビエラの町で、私は近所づきあいを始めたいという知り合いの独身女性の頼みで、近所に住む相思相愛の中年夫婦を食事に招待する。たまたま友達の判事も一緒だった。ところがその夫婦は、かつてその判事が扱った毒殺事件の被告だったのだ。陪審員の判決は無罪だった。でも判事は彼らの犯行を確信している。翌日彼らはリビエラから姿をくらました。

「The Voice of the Turtle 」 若い新進作家の頼みを聞き入れて、私は夕食に知り合いのプリマドンナを招待した。この作家は彼女の人間性を絶賛し、それで小説まで書いた。だが私に言わせれば、あれほど傲慢、残酷、自己中心な女はほかに知らない。

「The Lion's Skin」 フォレスティエ大佐は、夫人がそのために結婚を決意するほど”英国紳士”的な男だったが、その度が過ぎて火事の中を夫人の飼い犬を助けに飛び込んで死んだ。

「The Unconquered 」 第2次大戦が始まって間もなく、ドイツに占領されたフランスの村で、娘があるドイツ兵によって強姦され子供を宿した。その男は娘と結婚しようと決心し、娘の両親にも取り入ったが、いざ臨月が来て彼女の取った行動とは…

「The Escape」 金持ちの男と結婚することを狙っている未亡人から逃れるために、次々と不動産めぐりをしては、気に入らないとの繰り返しの挙句、やっと別れることのできた男の話。

「The Judgement Seat」 最後の審判で、神様の前に立った者たちは自分の過去の話をして、確実に天国に行けると思い込んでいたのだが…

「Mr. Know-All」 私はどうも気に食わない男と、船の船室が相部屋となってしまった。だが、真珠の首飾りをめぐってのある夫婦とのやり取りを聞いていて、そんなに悪い男ではないと思うようになった。

「The Happy Man」 作家である私は、スペインの僻地で開業したいという医者に向かって、“金を必要以上に稼げなくても満足なら、行きなさい。いい人生になるよ”といった。のちにスペインでその男に偶然に再会したが、私の言ったとおりの幸福な人生を送っていた。

「The romantic young lady」 セビリア一の美女が、御者に恋をして結婚するといって、誰の忠告も聞かない。だが、御者の雇い主である伯爵夫人が、結婚したらやめてもらうと彼に言ったとたん、二人の話はないことになり、美女はほかの大金持ちと結婚した。

「The point of honor」 自分の屋敷を案内してくれたスペイン紳士は、その昔自分の妻の恋人を決闘で倒し、スペイン男子の意地を通した。

「The poet」 スペインを訪れた時、筆者の敬愛する年老いた詩人が、なんと自分を自宅に招待するという手紙をくれた。わくわくしながら行ってみると、いかにも詩人らしい威厳にあふれた人が家から出てきた、ところが実は隣の家を訪れてしまったのだ…

「The mother」 自分の息子を殴ったというので、愛人を刺殺した女が、出所してアパートに住み始めた。会いにやってきた息子を彼女は溺愛し、息子にできた恋人を嫉妬のあまり、またまた刺殺してしまう。

「A man from Glasgow」 スペインで出会ったグラスゴー出身の男は、オリーブ畑の真ん中で、20年前に死んだはずのキチガイ男の叫び声や笑い声が聞こえたという。しかもその土地を離れても満月になると、どこにいても聞こえるというのだ。

「Before the party」 夫人はパーティを前にして、夫がボルネオ駐在中に死去した自分の娘から、酒におぼれた夫とそれと戦った妻の、驚くべき結末を聞かされる。

「Louise」 ルイーズは、心臓が弱く、いつ死んでもおかしくない状態だったのに、やさしかった2人の夫はいずれもつぎつぎと早世し、ルイーズの娘は老後の母親の面倒を見るといって、自身の結婚に踏み切れないでいる。

「The promise」 レストランで一人で食事をすることになった私は、かつて男たちをなで斬りにした美女に出会う。年を取った彼女は、ついに年下の男に裏切られ、こんどは自分が捨てられると覚悟を決めていた。

「A string of beads」 食事中にローラが私に聞かせた話:若い家庭教師の女が、パーティーの席上で高価な真珠の首飾りをしていることが判明。ところが、それは宝石店のミスで安物と取り違えていたのだ。彼女は店から多大なお詫びの金をもらい、高級リゾートに遊びに行ったところ、そこで大金持ちをひっかけて、今ではパリで豪華な暮らしをしているとか。

「The yellow streak」 マラヤを行く二人のイギリス人。一方は母親が現地人で、自分の素性がばれないか、仕事の上での失敗を混血のせいにされないかと、いつも気にしている。二人の乗ったボートがボア(川津波)におそわれ、相手は救助されたが、相手の助けを呼ぶ声をききながら、自分が逃げたと自責におそわれる。

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Why Marx Was Right * Terry Eagleton * Kindle Fire * 2014/06/21

現在においてのマルクス理論はすっかり時代遅れになってしまったといわれている。だが本当にそうだろうか?長年の間に様々な誤解や思い込みが蓄積し、いつの間にかそれらが独り歩きを始めたために、マルクスのオリジナルな考えが伝わりにくなっているとも考えられる。

本書では、それらの誤解や思い込みをいくつかに分け、それぞれに対するマルクスの主張を数多くの主張の中から取り出して反駁する。21世紀の今、マルクス理論は不要になるどころか、失業の悪化と、資本主義の暴走(環境、雇用ともに)は、再び社会主義の必要性に気付かせている。・・・資料外部リンク

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街ものがたり * 吉永小百合 * 講談社 * 2014/07/19

女優の吉永小百合は、忙しい仕事の傍ら、できるだけ各国を見て歩くようにしている。どうしても自分で行けないときは友人の話を聞き、映画などのロケで出かけた時には、その合間に見て歩く。各国で出会ったものは、食べ物であれ、人々であれ、遺跡であれ、何でも一つも見逃さずに体当たりをしようとする。

せっかく外国に行きながら、現地で日本料理を食べたり、長い間現地に住んでいながら、その国の代表的な料理が口に合わないために食べたことがない、というような人々が多い中で、彼女の強い好奇心が、旅を楽しく思い出深いものにする。・・・資料外部リンク

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馬車が買いたい! * 鹿島茂 * 白水社 * 2014/08/06

副題に「19世紀パリ・イマジネール」とあるのは、フロベールやバルザックの小説の中の、野心あふれる地方出の19世紀に生きる青年たちが、パリにたどり着いてどのような手段を用いて上流社会に食い込んだか、あるいは挫折したかをたどったからである。

当時の交通機関、そして富や権力の象徴に使われていたのが、馬車だった。だから馬車のタイプ、種類、場面での使い方を知らないと、当時を描いた小説を十分に理解することができない。それぞれの主人公たちが、どのような馬車を用いて上京したのか、古い街並みの時代の巴里はどのような娯楽や人々の暮らしがあったのか、庶民や学生の通う食堂は、など様々な角度から当時の世相を読み解く。・・資料外部リンク

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国家の罠ー外務省のラスプーチンと呼ばれて * 佐藤優 * 新潮社 * 2014/08/11

国策捜査というものがあり、これは国家の方針が大きく転換するとき、それまでの方針を堅持する人間が邪魔なので、見せしめに冤罪に近い形で逮捕し刑罰を科すことを目的とするものをいう。2000年前後は、小泉首相の時代になり、(1)それまでの所得の再配分によって格差をなくす方向から、ぎりぎりの(自由)競争に駆り立て経済を回す方向への転換(2)太平洋戦争の教訓から発した国際的協調主義から、偏狭なナショナリズムへの転換という2つの大きな変動が起こった。

その変化の中で、運悪く言いがかりをつけられ逮捕、拘留、刑罰を受けたのが佐藤優である。しかし個人の力では、強大な国家権力に対処することもできない。一つ残されたことは、詳細な記録を作り、将来の歴史家に判断を仰ぐということだった。この本は佐藤優が、鈴木議員とともに、日ソ平和条約を締結すべく奔走したところから始まって、検察の網にかかってしまったが、拘置所での生活を送りつつ、自分が投獄された理由について詳しく述べられている。

この本が発行されたのが、2005年3月。2014年には、安倍晋三が首相であり、先の(1)(2)の路線がますます顕著になっていることは、恐怖感さえ覚える。(秘密保護法、集団自衛権、韓国や中国との対立、ヘイト・スピーチの蔓延、地方の衰退、ブラック企業の増加、低賃金長時間労働の普遍化)・・資料外部リンク

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リベラルじゃダメですか? * 香山リカ * 祥伝社新書 * 2014/10/30

著者本人がリベラルでありながら、日本におけるリベラル派の衰退が、新自由主義と国粋主義の台頭と相まって、日ごとにひどくなり、自分が活動する中でも違和感が深くなっているという。それはなぜなのかを分析する。

戦後の思想の中心的な役割を旗足したリベラリズムは、小泉政権、そして民主党敗退後の安倍政権の登場によって、急に時代とのずれを生じ、特に切実な戦争経験のない若い世代から嫌われるようになってきた。筆者によれば硬直した”正義感”が時代に柔軟に対応する能力を失ったからだという。

また、ひとつに若い世代に戦争体験がきちんと伝えられなかったからであり、ひとつに格差と競争の極端な拡大とともに人々の生活にゆとりがなくなり、ワイマール共和国時代と同じように人々の視野が極端に狭まって、排他的でひとたび攻撃の対象が見つかるとそこに突進するような精神構造ができてしまったからである。

この本は2014年の8月に出版されたが、早くも11月になろうという時点で、安倍政権はいくつかのスキャンダルから、落日を迎えようとしており、日本の社会的風潮も今後大きく変わる可能性がある。というのも日本人は熱しやすくてさめやすい国民のようで、来年あたりはワールドカップに異様な興奮を見せたことなど、すっかり忘れたようにふるまっているのではないかと思われる。ただし、国全体としての劣化(少子高齢化、内向きの風潮)は止めようがない。・・資料外部リンク

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弱者はもう救われないのか * 香山リカ * 幻冬舎新書344 *2014/11/01

戦後70年たち、憲法のもとに経済発展と時を同じくしてきた、日本の福祉政策がここにきて、急速に弱まり、新自由主義経済の台頭とともに、”自己責任”、”弱者切り捨て”の流れが急速にその勢いを強めている。

特に格差がますますひどくなっていく中で、サンデルの「これからの正義の話をしよう」など、格差とその是正についての考え方をいくつか紹介している。不平等は財産や才能だけでなく、努力をする体制が作られる育った環境にも及ぶ、”偶然”によって生み出される。それを放っておけば21世紀の格差は極端な方向に進んでいくのだ。

著者は明治時代には、弱者の存在すら意識されなかったことなど、過去にさかのぼってその流れをたどる一方で、なぜ人は弱者救済に赴くのかを、哲学、宗教の流れを追いながら、解明しようとする。しかし、その理由は分からず、最終的にはサイコパスでない限り、人は弱者に対して気にかかるという本能的なものがあるというところでこの本は終わっている。

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ひきこもりの国 Shutting Out the Sun * Michael Zielenziger * 河野純治・訳 * 光文社 * 2014/11/05

アメリカの特派員が、日本の若者の中に”ひきこもり”が広がっていることに注目し、これを調査するうち、日本の社会に内在する問題を明らかにしていく。引きこもりは本人が、社会に出ることに異常な恐怖感を抱くことが原因らしく、その多くは学校時代のいじめから始まるという。

陰湿ないじめ、同調を強調する風潮、変わったものを押さえつけ摘み取る傾向、あからさまな弾圧はなくて目に見えない形での抑圧が日常に忍び寄る世界。それは江戸時代から始まった鎖国、ムラの共同体、相互監視といった長い伝統が現在の社会でも生きている、と著者は見る。

日本経済はバブルがはじけた時を境にして、一途転落の道を歩き始めた。それは少子高齢化と合わさって、「変化を求めない、変化を恐れる」国民性が前面に出てしまって、悲観的で無気力な社会を作り出してしまっている。時はグローバル時代で、あらゆる変革や改革が絶えず必要とされているのに、それに立ち向かおうとしない臆病さが目につく。

日本と文化も歴史もよく似ている、隣の韓国では、金大中大統領の時代を境に大きな変化が起き、それまでの封建的で保守的な社会が大きく変わった。問題はまだまだ、国内に山積しているものの、変化に伴う活力が見られる。

アメリカは敗戦から70年、ずっと日本と相互依存関係にあった。そのため、これまた大きな変化を起こしにくい状態が続いている。アジアの情勢は大きく変わり、新たな関係を他の諸国と築いていかなければならないのに、日本はアメリカの経済と軍事力に縛られたままである。これまた日本が大きく変化するのを阻害する原因となっている。

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フランスー知の日常を歩く * 樋口陽一 * 平凡社 * 2014/11/23

比較憲法学者の著者が、フランスを70回以上往復した後、2008年時点でのフランスの進む方向について考察する。これまでは、個の尊重と一つの国家としてのまとまりとの両方を目指し、一見矛盾しあう両者のせめぎあいによって知的世界が形作られてきた。

しかし21世紀になって、グローバリゼーションの波は、新たな社会変動を引き起こし、これまでの対立図式が通用しなくなった。これまでの質の高い生活、高度な福祉制度など、維持することが困難になり、見直しが必要なのだ。ここに新たな方向への模索が始まっている。

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貧困大国アメリカ * 堤未果 * 岩波新書1112 * 2014/11/25

レーガン大統領の時代から、社会の流れが変わった。それまでの国民すべてに富がいきわたるような政策が、激しい競争によって生き残った企業にだけ富が集中するようになった。そうするほうが経済全体を活性化すると思われたからだ。

結果は、極端な貧富の差の出現だった。その国の社会的発展の度合いを代表する、いわゆる中間層が縮小し、超大金持ちと、明日の食事にも困る極端な貧者の両極端に別れることになった。その結果が、貧しい人の肥満、公共福祉の劣悪化、病院にかかることのできない人々、食い詰めたうえでやむなく戦場に送り込まれる若者たちを生んだ。

ワーキングプアは「貧困ビジネス」の商品となり、「自己責任」とか「強者・弱者」というような掛け声とともに、正当化され、富む者はますます富み、貧者はますます追いつめられる社会構造が出来上がった。日本はアメリカより10年遅れているというから、このような事態になるのも目の前だ。

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貧困大国アメリカⅡ * 堤未果 * 岩波新書1225 * 2014/12/01

前作の続編で、2008年のリーマンショック、オバマ大統領の当選以後を描いている。そこでの状況は、「チェンジ」を連呼したオバマの時代になってかえって悪化していた。新しく付け加えられたのは、学資ローン地獄、社会保障の崩壊、かえって悪くなっていく医療改革、そして刑務所での搾取だ。なお、「オバマ・ケア」の成立については、この本の時点ではまだ言及されていない。

貧困大国というより、個人の借金大国という名前がふさわしくなってきている。オバマ大統領に期待をかけるより、支持者はその選挙資金の出所をしっかりとみるべきだった。選挙で選ばれたものは、自分にたくさんの献金をくれた人や団体に忠誠を尽くすからだ。

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上等舶来・ふらんすモノ語り * 鹿島茂 * ネスコ/文藝春秋 * 2014/12/04

何気なく日常使っているものでも、それが舶来、特にフランスから来たものに絞ってみると、その背景に様々な由来や文化が潜んでいるものだ。お金を持っているから、ただブランド品を買いあさるのだけでは、単なる贅沢であって、夢も楽しさもない。

逆にへやーブラシ一つとってみても、日本では昔、櫛を使っていたのに対してなぜフランス人がブラシを使うようになったのか?それが入浴の習慣と大いに関係があることがわかってくる。

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ジャン・バルジャン物語(上) * ヴィクトル・ユーゴー * 豊島与志雄訳 * 岩波少年文庫 * 2014/12/07

「レ・ミゼラブル」の中心的部分だけを少年向けに作った物語。「レ・ミゼラブル」が長すぎて読む時間がない人で、内容を知りたい人に最適。

ジャン・バルジャンはほんのわずかな盗みのあと、牢獄に閉じ込められ、脱走を繰り返したために、出所できたときは19年もたっていた。しかし街に出ても、前科者として宿に泊めてもらうこともできず、危うく行き倒れになるところを親切な司祭のところで一夜を過ごす。

だが、司祭のところで、銀の食器や燭台を盗んだために警察に捕まるが、司祭は「この人にあげたのです」と言い、ジャンは放免され、深く感動したジャンは、この機会に真人間になろうとする。そして別の土地で人々から尊敬され、地場産業を盛んにして、ついに市長に任命される。だが、過去の罪を執拗に追うジャベルという刑事に常に付けねらわれていた。

男に逃げられた、貧しい女フォンテーヌは幼い娘コゼットを泊まった宿屋に預け、ジャンが市長をつとめる街で働き始める。だが、仕事をなくし体を壊し、ジャンに救われた後、コゼットのことを頼んで死んでしまう。自分の身代わりで捕まった男を救うため、ジャンは自分の過去の罪状を裁判で明らかにし、市長を辞めて世間から姿を消した。

ようやくコゼットを見つけたジャンは、パリに隠れ家を見つけるが、それもジャベルに発見されるに及んで、ある修道院に逃げ込んだ。そこの庭番は何と市長時代に命を助けてやったフォーシュルバン爺さんだった。彼の機転でジャンとコゼットは修道院で、それぞれ庭師と寄宿生として世間から隠れた生活を始めることになる。

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ジャン・バルジャン物語(下) * ヴィクトル・ユーゴー * 豊島与志雄訳 * 岩波少年文庫 * 2014/12/15

青年マリウスは、死んだ父のことで祖父と仲たがいし、パリの貧しい部屋で一人暮らしを始める。リュクサンブール公園を散歩していると、コゼットとジャンバルジャンの姿を見かけ、コゼットを深く愛するようになる。

一度は二人を見失ったが、革命の闘いの中でマリウスは銃撃で傷つき、ジャンバルジャンに救われ、下水道の中を運ばれて危うく命を取り留める。コゼットと結婚できたが、ジャンバルジャンはいつしか姿を見せなくなった。

昔、父親の命を救ったといわれる男から、マリウスはジャンバルジャンが自分の命を救ったこと、実はかつての市長だったこと、追跡する警視を殺さなかったこと、コゼットを救い出して育てたことを知る。一切が判明し、マリウスとコゼットはジャンの横たわるアパートに向かった…

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夜更けにコラムをー『経済大乱』見聞記 * 竹内正明 * 中央公論新社 * 2014/12/27

読売新聞論説委員が、日本のバブル崩壊前後の時期に、見聞きした日本経済界の病状について連載した記事を集めたもの。コラム記事の前半は、過去の小説や思想の一部を紹介し、それから当時の状況を説明するやり方。事件の深刻さに対して、穏やかな論調が目立つ。

初版は1999年であるが、15年後の今日でもあまり変わっていない、いやむしろ悪化している日本を取り巻く状況を、よりよく理解するのに役立つ書。毒舌和尚、今東光が、小学生の時に母親が自由に買い与えてくれる文房具を学校に持って行って旧友を相手に商売をしたとか、松下幸之助が客に頼まれた煙草を甲斐に行くとき、大量に買ってタバコ屋から一箱おまけをせしめ自分の稼ぎにしたというエピソードが面白い。

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パン屋のお金とカジノのお金はどう違う? * [監修]子安美知子[著者]廣田裕之 * オーエス出版社 * 2014/12/30

「ミヒャエル・エンデの夢見た経済・社会」というのがサブタイトルになっている。パン屋のお金とは、日常生活でモノやサービスと交換できるお金のこと。これに対し、カジノのお金とは、投資や貸付によって利潤を生むことを期待して使われるお金のこと。

現在のお金はこの両方の面を持ってい入るが、自由市場に任せた経済はすさまじい格差を引き起こし、金持ちはますます金持ちに、貧乏人はますます窮乏する事態に陥っている。つまり到底「持続可能」なシステムではない。

エンデは、その童話や論文を通じて、現代社会の経済体制が、長続きするものでないことを見抜いていた。現代の貨幣に代わるシステムはないのか?著者はエンデの思想をヒントにして、またフランスの連帯経済の考えも参考にして、「地域通貨」による新たな体制を考える。⇒資料外部リンク

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もう、邪悪な人に振り回されない! * 石原加受子(カズコ) * 大和書房・だいわ文庫 * 2015/01/10

世の中にはどうして、人のせいにしたり、支配しようとしたり、こちらの嫌がることをしたがる人々がいるのだろうか?こういう邪悪な人々は一体どうして生まれてしまったのか?

その理由の一つとして、”被害者”の側が自分のことを遠慮して、相手のことを考え過ぎるという、日本文化の特徴的な側面が考えられる。自分を大切にしない、自分を愛さない人々が、このような邪悪な人々の手玉に取られているのだ。

一方、邪悪な人々は、その相手を平気で傷つける言動のもとは、実は自分のみじめな環境や過去の生活が原因なのかもしれない。人をけなすとき、その言葉はまさに自分のことをあらわしていることがままあるからだ。

いじめの場合もそうだが、人は上からひどい目にあわされると、その”復讐”を自分より弱いものに向けるという。自分に自信がない人々はその餌食にされやすいのだ。たとえば老母が息子を”同情支配”するような場合である。

日本では人を「罪悪感」(別名:世間の目)で脅して自由を奪うというが、これは神のいない国だからだろうか。なにか根深い文化的なりひゅうがあるようだ。⇒資料外部リンク

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モーパッサン短編集(Ⅰ) * 青柳瑞穂訳 * 新潮文庫 * 2015/02/22

<田舎もの>

Toine トワーヌ 寒村に住む居酒屋の爺さんは太っていて大酒のみで、奥さんといつもケンカしているが、ついに卒中になり寝たきりになった。奥さんのアイディアは鶏の卵を抱かせて、ヒナを孵させることだった…

Le petit fut 酒樽 土地を持っているばあさんに、地元の男が死ぬまで月々お金を支給し、そのあとはその土地をもらう約束をするが、ばあさんはいつまでたっても死なない。男は一計を案じ、最高にうまい酒をばあさんにプレゼントする…

Histoire d'une fille de ferme 田舎娘のはなし ある農場に方向に来ている娘が男にだまされて子供を産んだ。男は逃げ、赤ん坊は里に預けたが、農場の主人と結婚することになった。だが一向に二人の間には子供ができない…

La bete a maitre Belhomme ベロムとっさんのけだもの ル・アーブル行きの乗合馬車に乗ったベロムの耳に何かがいて、大変痛がっている。親切な司祭をはじめ乗客たちが一生懸命、耳からその痛みのもとを追い出そうとした。ついに成功し耳から出てきたものは…

La ficelle 紐 市場で紐を拾った爺さんは、それをライバルに目撃されてしまったために、財布泥棒のあらぬ疑いをかけられる。いくら言い訳しても周りの人々は信じてくれず、爺さんは衰弱しきってしまった…

La mal d'Andre アンドレの災難 公証人の妻は夫が出張中に愛人を家の中に連れ込んだが、ことが及ぼうとするたびに乳幼児のアンドレが泣き出すので、愛人は強くつねって泣くのを止めた。夫が帰り、息子の体があざだらけなのに愕然、犯人は?

Une ruse 奇策 浮気相手がこともあろうに自分の部屋で死んでしまった女に、必死で頼み込まれた医者は、女の夫にも浮気相手の家族にも、この男が通りがかりで死んだとだますはめとなった。女は恐ろしい。

Reveil 目ざめ 退屈な生活を送る、工場長の妻が病気で実家に帰った時、ある男と熱烈なプラトニック・ラブに陥るが、再び夫の元に戻ると、それは単に夢の中でしか得られない幸福であったことに気付かされる。

Les sabots 木靴 田舎娘が金持ちの男の女中として奉公に出たが、男は体が欲しかっただけだった。娘の木靴が男の部屋の前に脱ぎ捨てられているうちに、娘は妊娠し、結婚する羽目となった。

Le retour 帰郷 遭難して行方不明になっていた漁師が故郷に戻ってきた。だが、そこにはかつての妻と再婚した男が暮らしていた。子供は?財産は?そして妻をどう”分割”したものか、みんな思案に暮れてしまった。

Idylle 牧歌 イタリアからフランスへ出稼ぎに向かう男と女が列車で一緒になった。乳母志望の女が乳房が張るというので、空腹の男は喜んでお相伴にあずかった。

En voyage 旅路 療養地へ列車で向かう胸を患ったロシア貴婦人が、車内で知り合った謎の美男子を無事、国境外に脱出させる。深く恩に着た彼は、最後まで遠くから彼女を見つめるだけだった。

Le pere Amable アマブルじいさん アマブルは息子の結婚に反対していたが、司祭の説得で式は挙げられ、嫁が一緒に住み始めた。ところが息子が急死して嫁は息子の父親にあたる男を家に連れ込む。それを見たアマブルは…

Miss Harriet 悲恋 駆け出しの画家が海岸地方を放浪してある宿にたどり着くと、そこに奇妙なイギリス人の老嬢がいた。ふとしたきっかけて自然の美しさに対する感覚が同じだと分かり、2人は親しくなるが、彼女の恋はあまりに遅すぎた…

Une veuve 未亡人 ある家系は異常に情熱的で、その家の12歳の男の子が、年上の娘に恋に狂った。娘がほかの男と結婚することを知ると、自らの命を絶ってしまい、その後娘は独身を通す。

Clochette クロシェート 彼女は若いころ、ある男に恋をしたが逢引の場を彼の上司に気付かれそうになったので、3階の窓から飛び降り、一生びっこになって結婚もできなかった。

Le bonheur 幸福 コルシカ島の貧しい家に、かつてフランス南部のナンシーから駆け落ちしてきた老夫婦が暮らしていた。貧しく世を捨てた生活にもかかわらず、彼らは幸せだった。

La rempailleuse 椅子なおしの女 親の仕事を引き継いだ椅子なおしの女は一人の男に恋い焦がれ、彼に貢ぐためにこの仕事をして一生金をため続けた。死後残されたその金は、男のもとにわたったのだが・・・

Mon oncle Jules ジュール叔父 少年のジュール叔父さんは一旗あげるといってアメリカにわたったのだが、家族旅行の最中にふと見かけた乞食同様の牡蠣売りが、帰国していたその伯父さんだったとは…

Le bapteme 洗礼 ある村でかわいい子供の洗礼式が執り行われた。その子供の父親の弟が司祭を務めたのだが、たまたま自分がそのかわいい子を抱いたときに、自分がこれから独身を通さなければならない職業の身で、子供を持てない悲しみにとらわれる。

En mer 海上悲話 トロール船を操る船長とその弟。ある嵐の日、弟の腕が事故で網に挟まれた。だが兄は網のほうを守りたかったらしく、弟の腕はちぎれて一生海で働けなくなってしまった。

Aux champs 田園悲話 金持ちが養子に欲しいと第1の貧困家族に頼んだが断られ、第2の貧困家族が了承した。20年後、養子になった若者は羽振りがいいが、第1の家族は相変わらず貧困で、養子になれなかった若者は家を出てしまった。

Pierrot ピエロ 泥棒に入られたために、ケチな後家さんが番犬としてピエロという名の犬を飼った。ところが税金を取られるということで、廃坑に捨ててきたのだが、かわいそうになってエサを与え続ける。それでもほかの犬がやってきたので…

Le vieux 老人 病気の老人はなかなか死なず、娘夫婦は葬式通知や葬式のご馳走を早く出し過ぎてしまった。それで村人たちは大喜び。

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来月更新に続く

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© 西田茂博 NISHIDA shigehiro

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