フランス映画その4 H O M E > 体験編 > 映画の世界 > フランス映画 > その4 |
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その名に恥じぬ完全犯罪映画。イタリア、特にヨットとナポリ周辺の海の美しさは格別。ローマの町で、チンピラのトムはサンフランシスコの裕福な両親にいつも大金をもらって遊び暮らしているグリーンリーフと知り合いになる。 トムは小さい頃から貧しい暮らしをしていたが、頭が切れ、最近ではそれを悪事に使うことが実に巧みになっていた。グリーンリーフに近づいたのはそのせいだ。女の子を引っかけたりして親しくなった二人だったが、トムは何とか金を手に入れる方法を考えていた。 グリーンリーフにはナポリの近くの小さな港町に住むマージュという婚約者がいた。その港につないであるグリーンリーフのヨットに乗って、歓楽地である島まで3人で出かけるつもりだったのだ。 だが、航海の途中グリーンリーフとマージュはつまらぬ諍いを起こし、途中の港で怒ったマージュは船を下りてしまった。海の真ん中で二人だけになったとたんトムはわざとグリーンリーフの目の前で自分の計画を話してみせる。そして思いっきりグリーンリーフの胸にナイフを突き立てた。 その後海は荒れ、トムは必死になって死体を大きな布に包みワイヤでぐるぐる巻きにして海中に投げ捨てた。やがて嵐は収まりマージュの住む港町に戻ってきた。心配しているマージュにはグリーンリーフがローマに行ってしまったと告げた。 自分もローマに戻り、計画を実行し始めた。グリーンリーフになりすますため、パスポートの写真を貼り替え、彼の署名の筆体を一生懸命練習した。グリーンリーフ名義のホテルの部屋に落ち着いた矢先、アメリカから旅行のついでに寄ったグリーンリーフの両親に危うく見つかるところだった。 それで居場所を換えたのだが、グリーンリーフの友人であるフレディに見つけられ、正体がばれてしまったので頭を石像で殴って殺す。夜中に死体を棄てに行ったのはいいが、翌朝早速警察の追求を受けることになる。こんどは本物のトムとしてわざと捜査官のもとに電話をかけまったく事件に関係ないように見せかける。 銀行でグリーンリーフの預金をみなおろし、マージュの住む港町の彼のアパートにその金をマージュに残すと書いた遺言状を置いて失踪したか自殺したように見せかけた。警察はこの事件に振り回され、ある刑事はトムがくさいとは思いながらも決定的な証拠を挙げることができないでいた。 グリーンリーフが「自殺」してからマージュは家に閉じこもったきりだった。何とか彼女の部屋に入り込んだトムはマージュを慰め、彼女はトムを頼りにし始めた。彼女と暮らせればあの金は自分のものになったのも同然だ。トムは砂浜で思いっきり日光浴を楽しむ。「太陽がいっぱいだ・・・」そのころヨットは売却のために点検するため陸にウィンチで引き上げられつつあった・・・(1960年) Directed by René Clément Writing credits René Clément / Paul Gégauff Cast: Alain Delon .... Tom Ripley/Philippe Greenleaf / Maurice Ronet .... Philippe Greenleaf / Marie Laforét .... Marge Duval / Erno Crisa .... Riccordi / Elvire Popesco .... Mrs. Popova / Frank Latimore .... O'Brien / Billy Kearns .... Freddy Miles リスニング;会話の主体はフランス語。イタリア語も混じる。 La Leçon particulière 個人教授 パリの高校生の年上の女への恋を描く。恋が終わったとき、彼は人生の何事かを学んだのかもしれない。パリの市街地と、スキー場が背景となって、印象深い画面が作られ、フランシス・レイの名曲が流れる。 オリビエはリセ(高校)の3年生だ。哲学の授業では主席をとるほどだ。家には両親とお手伝いの女の子がいる。自分の同級生であるジャン・ピエールとその女の子と寝させるなど、どこにでもいる高校生だ。ある日ランボルギーニを運転して一方通行の道で立ち往生している若い女と出会う。 フレデリックというその女は有名なカーレーサー、フォンタナと一緒に暮らしていたが、結婚はしていなかった。フレデリックのアパルトマンまで送っていったオリビエは彼女の美しさにひかれ、レース観戦のためのテレビを持っていったり英語の翻訳を頼むなどして次第に親しくなる。 たまたまオリビエの母親の経営するブティックで出会ったフレデリックはスキーへ行くという。たまたまオリビエ一家の別荘もそこにあったため、オリビエは彼女の来る日にちと合わせて一緒にスキーを楽しんだ。その夜、彼女の泊まっているホテルにシロクマのぬいぐるみを着て忍び込んだオリビエが彼女を抱こうとしたとき、フォンタナから電話が入る。 その電話が原因でちょっとした諍いを起こしてしまった二人だが互いが忘れられず、相次ぐレースで自分のもとに来てくれなくて寂しい思いをしていたフレデリックはたちまちオリビエのとりことなった。彼女のアパルトマンで二人は至福の時を過ごす。 だがそれも長続きしなかった。ある日オリビエが彼女の部屋を訪れると戸口にはフォンタナが立っていた。ものも言わずオリビエはきびすを返すと二度と彼女の前に姿を現そうとしなかった。 成績は下がるし、大学入試の日にちは近づき、両親とも喧嘩をして家を出てしまったオリビエはある日、ランボルギーニを運転するフォンタナに出会う。40歳を過ぎたフォンタナは、自分にはフレデリックを受け止める情熱はないと知って、オリビエにその若さで彼女を幸せにしてくれと言う。 彼女はアパルトマンを出て行方不明になっていた。オリビエはふと、自分たちがかつて泊まったことのあるノートルダム近くのホテルを思い出してそこを訪れてみた。果たして彼女はそこにいた。彼女は自分を愛していた。だが寝るだけで問題が解決しないことは二人には分かっていた。 だがオリビエは再び戻ると言いながら、フォンタナに電話した。そして彼女の居所を教える。いったんホテルを出て学生集会に向かったオリビエは、その日の夕方に再びフレデリックのもとへ行くことはないだろう。オリビエの心は決まっていたのだ。(1968年) Directed by Michel Boisrond Writing credits Michel Boisrond Claude Brulé Cast: Katia Christine .... Christine / Nathalie Delon .... Frederique / Nicole Desailly .... La concierge / Robert Hossein .... Fontana / Bernard Le Coq .... Jean-Pierre / Martine Sarcey .... The Mother / Renaud Verley ... Olivier リスニング;フランス語。 Les Dimanche de ville d'Avray シベールの日曜日 シベール Cybele という名はカトリックの学校ではキリスト教らしくないからと代わりにフランソワーズと呼ばれている。彼女は母親が駆け落ちし、祖母は面倒を見たがらないし、父親は新しい女ができたらしく、パリ近郊の Avray の町にある学校にまだ12才の娘を置いて姿を消してしまった。 駅で青年jピェールはふとフランソワーズと目が合う。後をつけて行くと、父親が寄宿学校に娘を預けてから駅に急ぐところだった。父親が置き去りにしたカバンを預かったピェールは次の日曜に父兄面会の時間に父親のふりをしてフランソワーズにカバンを渡す。 ピェールは戦闘機乗りだった。だが大きな事故に遭い、そのショックで記憶喪失となり戦闘の最中に少女を撃ったことが今でもめまいの原因になっているのだった。病院で知り合ったマドレーヌという若い女の献身的な世話で二人で暮らしているが、どうしてもかこのことや自分が何者であるか思い出せないでいる。 フランソワーズはその純真さがピェールの心に深く触れた。二人は大きな森の中や湖の畔を散歩して親しさを増していくのだった。フランソワーズにとってもほとんど孤児と言っていい状態で、こうやって日曜日に連れ出してもらえることが日常生活の唯一の楽しみになった。 ある日曜日、ピェールは友人の結婚式にマドレーヌと招かれて出かけて行くが、帰りに寄った遊園地でフランソワーズの姿を見かけると急に暴れ出し、殴り合いの喧嘩を始めて、友人たちのひんしゅくを買った。また近所の人たちの間に、ピエールとフランソワーズの散歩する姿が噂になっていた。 心配したマドレーヌは、何かとピェールの面倒を見て制作の手伝いをさせてくれているカルロスに相談に行く。カルロスは、心配ないと言い、マドレーヌに母親のようにがみがみ言ったり質問責めにしないようにと忠告する。ある日曜日マドレーヌは散歩している二人のあとを森の中につけて、二人がまったく楽しそうに振る舞っているのを見て安心する。 やがてクリスマスが近づいてきた。フランソワーズを喜ばせるため、ピェールはカルロスの家に無断で入ってクリスマス・ツリーを森の中に運び出した。そしてミサが行われている頃、教会の屋根に上がって風見鶏をとってきた。風見鶏をもらえたらフランソワーズは自分の本名を明かすと言ったのだ。 クリスマス・ツリーがなくなったのを知って仰天したマドレーヌは友人のベルナールに電話して一緒にピェールの行方を探すためきてもらうよう頼む。だがベルナールは来る途中で警察に通報していたのだった・・・(1962年・モノクロ) Le dernier métro 終電車 2005/04/02 演劇の世界の内幕を扱った作品としては、「コーラスライン」「スター誕生」など、数多い。この映画はドイツ占領下のパリで稽古に励む演劇グループを描いたもの。当時はドイツ軍による厳しい夜間外出禁止令があったために、人々は終電車に乗り遅れることは決して許されなかった。 パリ市民たちは毎夜劇場や映画館に殺到した。おかげで演劇会は盛況をきわめていたが、モンマルトル劇場の演出家、ルーカス・シュタイナーはユダヤ人であったため、ドイツの収容所にいつ送られるかもしれず、劇場の地下に隠れて海外へ逃亡する機会を狙っていた。 表向きはルーカスがすでに国外に出てしまったとしながらも、シュタイナー夫人、マリオンが毎日夫の居室に通って身の回りの世話をしていた。そして彼女が女優をやるかたわら、演出家、衣裳道具係、門番だけの小さな一座の座長としての仕事も引き受けていたのだ。彼女は美貌でありながら謎を秘めた女だった。 今、彼らはルーカスが姿を消す前に準備した「消えた女」というやや難解な北欧風の劇を始めようとしていた。それでマリオンの相手役としてベルナール、その他の役者を雇い入れる。毎日練習が始まった。ベルナールは見かける女は誰にでも手を出すような男だが、役者としてのすばらしい素質を秘めていた。 占領下にはさまざまな事件が起こる。闇市の品物を届けてきた女が実はドイツ軍人の愛人だったり、一座の者たちの財布の金がみな抜き取られたりする。ユダヤ人嫌いで上演された作品に痛烈な文章を書く批評家、ダクシアもいた。又、開演の際にはドイツ軍将校たちのためにいちばんいい座席は確保しておかなければならない。 俳優たちの中にはほかの劇場や映画をかけもちして多忙を極めているものもいたし、衣装係はレスビアンだった。一座が借りている場所の管理人の息子は、まだ幼い少年ながらセリフを見事覚えたので、この作品に参加することになった。 地下室からどこにも行けないためにうんざりしていたルーカスは、壁にあいている穴を利用して、階上の舞台で行っている練習風景を聴くことができるようになった。おかげでマリオンを通していろいろな指示を送ることができるようになった。 マリオンは夫が見つからないように、何とか海外へ逃亡できるようにと神経をすり減らす。だが自分は夫のはじめたこの作品をなんとしても完成させ、成功させなければならない。 いよいよ初演の日がやってきた。みんなが緊張する中、マリオンもベルナールも熱演し、観客から喝采を浴びた。お祝いのキスを唇に受けたベルナールはすっかりマリオンのとりこになってしまう。だがまたもや辛らつな批評を書いたダクシアを殴るという事件を起こし、逆に彼女からは一切口をきいてもらえなくなってしまった。 ある日、ゲシュタボが劇場にやってきて地下室を見せろと言う。マリオンの機転とベルナールの協力で、危うくルーカスは捕まるところだった。ルーカスは別れ際にベルナールに向かって自分の妻が彼を愛しているのだと告げる。だが、仲間が連行されるのを見たベルナールは演劇をやめ、レジスタンスに加わることを決心した。 それから数年後、ノルマンジー上陸作戦の後、ドイツ軍はパリから撤退を初めた。ようやく平和が戻ってくる兆しが見え、ルーカスも思い切って外に出た。戻ってきたベルナールと共に、3人は新しいモンマルトル劇場の幕開けを迎えたのだった。(1980年) Directed by François Truffaut Writing credits François Truffaut (scenario) & Suzanne Schiffman (scenario) Cast: Catherine Deneuve .... Marion Steiner / Gérard Depardieu .... Bernard Granger / Jean Poiret .... Jean-Loup Cottins / Andréa Ferréol .... Arlette Guillaume / Paulette Dubost .... Germaine Fabre / Jean-Louis Richard .... Daxiat / Maurice Risch .... Raymond Boursier / Sabine Haudepin .... Nadine Marsac / Heinz Bennent .... Lucas Steiner / Christian Baltauss .... Bernard's Replacement / Pierre Belot .... Desk Clerk / René Dupré .... Valentin Chanson; Mon amour de Saint-Jean par Lucienne Delyleリスニング;フランス語 フランス映画には、あまりセリフを使わず、パントマイム的な喜劇進行で旅道中を描くジャンルがあるようだ。いわゆる「起承転結」の原則に沿った造りではなく、最後まで川の流れのように話が進んでいくのである。ハリウッド映画に毒されている人にとっては退屈に感じるかもしれない。だが、こういう映画の利用法もあるのだ。 その代表的なものとして、「素晴らしい風船旅行」がある。これは自由自在に旅ができる気球を発明した科学者とその孫の空中旅行だが、その大部分がフランスを上空から見た眺めを堪能させてくれる。 同様にこの映画では高速道路が舞台である。トラフィックの名の通り、至るところ車だらけだ。交通事故は頻発するしエンコした車を人々は押して歩く。時代はちょうどアポロ宇宙船が人間を月に送った年のこと。高速道路は車でいっぱい。 パリにある自動車メーカーでは、みんなが忙しく働いている。今度の新作キャンピングカーはユロ博士(監督自身が演じる)の手になるもので、非常に評判がいい。さっきアムステルダムから電話があって見本市に出品したいから至急車を運んできてくれとの依頼があった。 そこで広報係のマリアは自分の黄色い車に愛犬を乗せて出発。幌をはったトラックにはキャンピングカーを積んで出発。順調にいけば高速道路をとばしてその日のうちに着くはずだった。 ところがすぐにトラックはパンク。自動車の行き交う側道でのパンク修理は実に危険だ。やっと直ったと思ったらいくらも行かないのにガス欠。畑を横切ってどこかの村のガソリンスタンドまでタンクを持っていく羽目に。どうもそのあとクラッチの調子が良くない。仕方なく修理工場に入れて応急修理をして貰った。 やっとの事でオランダとの国境までたどり着いたのだが、書類の不備で警察に出頭する羽目になってしまった。工夫を凝らしたキャンピングカーを見た警官たちは興味津々。テントを張ったり、バーベキュー装置を見たり、シャワーを出したり、ベッドを出してみたり。 おかげですっかり遅くなってしまった。見本市会場では会社の幹部が今か今かとやきもきして待っている。見本市は始まってしまい大勢の客がやってきたのだが、この会社のスペースだけは主がいないままだ。 ようやく警察から解放されたものの、田舎道で多重衝突事故に巻き込まれる。トラックに積んでいたキャンピングカーは衝撃で前部にへこみを作ってしまった。おまけにけが人をユロ博士が家まで送る羽目に。 夜が迫ってきた。オランダの運河のほとりにある修理工場に飛び込んで、明日の朝一番でへこみをなおして貰うことにする。マリアは犬とボートに眠り、男たちはガレージに寝た。翌朝修理人は一生懸命尚してくれるのだが、部品が特別だし、車体の色に合うペンキがないのでマリアが街まで買い出しに行くことになる。 やっと修理完了。アムステルダムに向けて一路トラックは走って行く。田園地帯から再び大都市圏に入って、渋滞がひどい。前の車とわずか30センチの間隔をあけたままでのろのろ進む。ようやく見本市会場に到着してみるともう閉会したあとで、後かたづけさえもだいぶ終わっていた。 だが、建物の外でキャンピングカーをおいていると人々が集まってきてこの車は大人気。見本市に出品しなくても注文が殺到したのだ。大役を果たしたユロ博士はマリアに付き添われて会場をあとにする。そこに大雨が降って、もうまわりの車は身動きがとれない・・・(1971年) Directed by Jacques Tati Writing credits Jacques Tati and Jacques Lagrange Cast: Jacques Tati .... Monsieur Hulot (as Mr. Hulot) / Tony Knepper .... Mechanic / Franco Ressel Mario Zanuelli / Maria Kimberly .... Maria リスニング;フランス語、オランダ語、英語のチャンポン。だが別に聞き取れなくてもよい。映像を見ているだけで十分楽しい。 Monsieur Ibrahim et les fleurs du Coran イブラヒムおじさんとコーランの花たち パリに住んでいるのは白人だけではない。アフリカから、中近東から大勢の人々がこの街に住み着いている。一昔前(まだレコードで音楽を聴いていた頃)の裏町に暮らしていた少年と、食料品の店主の交流を描く。そして今も昔も変わらぬ街の息づかいが聞こえてくる。 ユダヤ人であるモモは、パリの裏町、ブルー通りに住む少年だ。母親はまだモモが小さいときに兄を連れて家を出て、今はアパルトマンに父親と二人暮らしである。16歳の誕生日を迎えた今日、モモは貯金箱を壊していつもブルー通りにたむろしている売春婦たちのひとり、シルビーに男にして貰った。 いつも暗い顔をしている父親は忙しくてモモが夕飯の支度をすることになっている。買い物は近くのイブラヒムおじさんのやっている食料品店に行くのだ。モモが買い物のたびに商品をくすねているのを知っているが、それで怒ることはない。むしろコーランの教えをそれとなく伝えてモモもその生き方を少しずつ変えて行く。 イブラヒムおじさんはトルコの黄金の三角地帯(ペルシャ近く)からやって来たのだという。モモにコーランを渡し、小銭の整理をさせたり、日曜日には散歩に行くなど次第に親しくなって、モモもすっかりおじさんを信頼するようになっていた。 ある日父親が仕事をクビになった。ますます暗い顔をして落ち込んでいたが、突然モモを残して姿を消してしまった。わずかな有り金と、書棚一杯の書物をおいて行方不明となってしまったのだ。だが、父親は母は親と去った兄の方をかわいがっていた。数日後、警察がやってきて父親が自殺したことを告げる。 母親が訪ねてきたが、モモは塗装工のふりをして自分が息子であることを明かさなかった。今さら一緒に暮らしたいとは思わない。天涯孤独になってしまったモモは、イブラヒムおじさんの店へ駆け込んで、養子にしてくれるように頼んだ。おじさんは喜んで頼みを聞き入れてくれた。 故郷にいる妻に養子ができたことを知らせに行くためにおじさんは車を買い、大急ぎで免許を取って、モモと共に出発する。スイス、アルバニア、ギリシャ、そしていよいよトルコに入って奇妙な形をした岩が続く山や、平原を故郷の村へと向かった。 あの山の向こうが故郷だと言うとき、おじさんは車を止めてモモに下りろと言う。いぶかしく思ったが、何か予感がしたのだろう。夕暮れ、村からオートバイに乗った男がやってきて知らない言葉でイブラヒムの名を叫ぶので、モモはうしろに乗せて貰って村に急行した。おじさんの車は岩山の途中で車体がひっくり返り煙が上がっていた。 村に着くと、おじさんは農家の部屋に寝かされ虫の息だった。彼の妻も昔にこの世を去り、モモにコーランの教えを守るように言い聞かせると息を引き取った。モモは、パリに帰るとおじさんの店を受け継いだ。今日も商品をくすねようとする近所の子供たちに目を光らせながら店番をしている。(2003年) Directed by François Dupeyron Writing credits François Dupeyron / Eric-Emmanuel Schmitt (novel) Cast : Omar Sharif .... Monsieur Ibrahim / Pierre Boulanger .... Momo / Gilbert Melki .... Momo's Father / Isabelle Renauld .... Momo's Mother / Lola Naymark .... Myriam / Anne Suarez .... Sylvie / Mata Gabin .... Fatou / Céline Samie .... Eva / Isabelle Adjani .... The Star リスニング;フランス語 Vivre sa vie: Film en douze tableaux 女と男のいる舗道 原題は「自分の人生を生きる」。日本でのタイトルが男より女の方が先になったのは、売春婦の一生を描いたからであろう。副題にあるように、展覧会で12枚の絵を順に見るような手法が取られている。つまりそれぞれがお互いに連続していながらも短い独立したストーリーを持つのだ。 カフェのスタンドで、向こうを向いたままの男女が短い会話を重ねている。どうやら女は夫や子供、夫の両親も捨てて、舞台女優になる夢を持っている。夫はそれを引き留めようとするが、あまり積極的でない。 この女はナナといい、自分の将来に不安を抱いていて、どうも勇ましく独立するようではないらしいことが、出てくる言葉の端々に現れている。夫は最後にめんどりの皮をむくと中に魂が見えたという、小学生の作文をナナに聞かせる。 女は知り合いの写真家に自分の体を写して貰おうとするが、全裸を見せることにとまどいを感じている。ある日、女友達のもとを久しぶりに訪れると、彼女も男と別れ、生計を立てるために舗道に立ち始めたようだ。その場にいたその女のポン引きに当たる男が、ナナにも目をつけて近づいてくるがヤクザの抗争に巻き込まれてあたりは爆発音や銃声に包まれる。 ナナの女優志願はなかなか実現しなかった。暮らしていくために借金漬けだ。知り合いのもとに、メイドの仕事を申し込む手紙を書いているときに、先の銃声事件の時にいた男が現れて、夜の仕事の世話をしてやるという。フランスでは売春は非合法ではない。警察に届け、医師の診察をきちんと受けてルールを守れば、それなりの収入が約束される。 ナナも次第にこの仕事に慣れ、大勢の客を取り普通の職業のように休みの日には息抜きをしたりするようになった。まだ23歳の若さであったが、カフェで知り合った老作家に人生についての哲学があり、彼女もそれに少しずつ興味を持ち始める。 ある日突然、仕事の世話をしていた男がナナをほかの男たちも大勢乗っている乗用車にむりやり乗せて、郊外の方へ向かった。あるうらぶれた建物の所に来ると、その男は黒服の男たちから金を受け取った。ナナは別のグループに売られたのだ。ナナが客のえり好みをしたせいらしい。 だがその金は約束の金額より少なかった。男が文句を言うと、彼らはいきなりピストルを撃ってきた。男はナナを盾にして車に飛び乗ると逃走した。路上には男たちに撃たれたナナの死体が転がっていた。短い売春婦の一生であった。(1962) Directed byJean-Luc Godard Writing credits Marcel Sacotte (book) Jean-Luc Godard (story) Cast Anna Karina .... Nana Kleinfrankenheim / Sady Rebbot .... Raoul (as Saddy Rebbot) / André S. Labarthe .... Paul / Guylaine Schlumberger .... Yvette (as G. Schlumberger) / Gérard Hoffman .... Le chef / Monique Messine .... Elisabeth リスニング;フランス語 Histoire d'Adèle H., L アデルの恋の物語 大詩人の次女が心に傷を負って、関心を失ってしまった恋人にすべてを捧げようと苦悶の中に狂ってしまった数奇な生涯。 カナダの東端、ノバスコシア半島の町、ハリファックスの港にイギリスからの船が到着した。その乗客の中に、単身フランスから渡ってきた若い娘アデルがいた。彼女はピンソンという若い男に惚れられ、結婚の約束までしてもらっていたのだが、その後男の心は変わりしかも借金漬けでイギリス軍に入ってハリファックスに駐屯していたのだ。 アデルは一途な女ではるばる大西洋を渡ってピンソンに会いに来た。父親はフランスの国民的英雄、ビクトル・ユーゴーであった。その親の名前の重さもさることながら、姉は19歳でその連れ合いと共に溺死し、それがいつまでもアデルの心から離れることがなかった。 父親に似て文章を書くことが大好きなアデルは、ハリファックスの町に下宿してからも、メモ用紙を買い込みあらゆることを日記風に書き留めていた。ピンソンに再会はできたが、まったくつれなくされ結婚の意思がないことを告げられた。だがアデルはどうしても思い切れない。次第に彼女の行動は常軌を逸し始めた。 父親に自分がすでに結婚したと報告してピンソン夫人と名乗ったり、ピンソンが親しくしている女に近づいたり、売春婦に金を払ってピンソンの住む部屋へ行かせたり、男装してピンソンのいるパーティに出かけたりした。最後には下宿を出て浮浪者の収容所へ入れられた。 ピンソンはアデルから逃げ回っていたが、西インド諸島の東端、バルバドス島への移動命令が下った。ところがアデルも父親からもらったフランスへ帰る金を持ってバルバドスに移ったのだった。だが町中で倒れ、親切な黒人の女の世話を受けたが、ピンソンが目の前に現れてももはや認識することができないのだった。 その黒人女はアデルがユーゴーの娘であるという事情を知り、わざわざフランスまで送り届けてくれた。母親は死に、父親は亡命生活を送っていたがナポレオン3世が去ったあとパリに戻り、アデルも精神病院に入れられて85歳まで生きた。(1975年) Directed by François Truffaut Writing credits Jan Dawson (English adaptation) Jean Gruault Cast: Isabelle Adjani .... Adèle Hugo a.k.a. Adèle Lewry / Bruce Robinson .... Lt Albert Pinson / Sylvia Marriott .... Mrs. Saunders / Joseph Blatchley .... The Bookseller / Ivry Gitlis .... Hypnotist / Louise Bourdet .... Victor Hugo's servant / Cecil De Sausmarez .... Mr. Lenoir / Ruben Dorey .... Mr. Saunders / Clive Gillingham .... Keaton / Roger Martin .... Doctor Murdock / M. White .... Colonel White (as Mr White) / Madame Louise .... Madame Baa / Jean-Pierre Leursse .... Black penpusher リスニング;英語とフランス語。カナダの東端であるから、この地域では2言語生活である。 時は1789年の6月。パリから離れた片田舎に、愛馬ヴォルテールにまたがった「黒いチューリップ」という盗賊が出没して、貴族の金品を奪い、貧しい人々にわけるということで、庶民の人気を集め、一方では貴族や憲兵隊は何とかして彼を捕らえようとしていた。 一方では、ギヨーム侯爵という男が、黒いマスクをかぶっているのだという噂もあり、憲兵隊の隊長は何とかしてその事を実証しようとしていた。そしてそのチャンスが訪れたのだ。いつものように黒いチューリップが馬車を襲ったとき、隊長は激しい剣の撃ち合いで、捕まえることはできなかったが黒いチューリップの左の頬に切り傷を付けてやったのだ。 あとで、仕返しに隊長の左頬に傷を付けてやったが、黒いチューリップはもはやギヨーム侯爵に戻ることができない。それでパリに住む弟のジュリアンに来て貰うことにした。ジュリアンはギヨームとそっくりで(一人二役)で、革命派でありフランスを自由な国にすべく燃えていた。 ジュリアンはギヨームになりすまし、貴族たちの集会に出席した。途中で落馬してしまい、看護してくれたカロリーンと恋仲になる。集会に潜り込んだジュリアンは、革命派を押さえ込むためにマルセイユからパリに向かって軍隊が進軍していることを耳にする。 急いで兄のもとに帰ったジュリアンは、橋を爆破してこの進軍を止めるべきだと提案するが、兄は政治にはまったく関心がないと言って関わりを断る。そこでジュリアンは、カロリーンやその父親プランタン、地元の革命派を集めてサボタージュを計画するのだった。 橋の爆破はうまくいかなかったが、指揮官を捕まえて軍隊をマルセイユに戻す命令書に署名させた。軍隊は回れ右をして南へ戻っていった。だが、材木置き場には憲兵隊が、待ち伏せていたのだ。カロリーンが援軍を求めに行っている間、ジュリアンとプランタンは捕まり、絞首刑になることになった。 これを聞いた兄のギヨームは放っておけない。深夜にジュリアンが幽閉されている城壁によじ登り無事脱出させたのだが、今度は自分が見張りに撃たれてしまい、代わりに捕まってしまった。翌日ギヨームは絞首刑となる。 だが、人々の前に弟のジュリアンが黒いチューリップのマスクをつけて姿を現す。貴族たちは狼狽し、憲兵隊は彼を捕まえようとする。だが、パリではすでにバスチーユ牢獄が攻撃され、革命は始まっていた。この町でも革命派が勝利を収めたのだ。(1964) Directed by Christian-Jaque Writing credits Alexandre Dumas p醇Qre (novel) and Marcello Ciorciolini (additional story) .Cast: Alain Delon .... Julien de Saint Preux/Guillaume de Saint Preux / Virna Lisi .... Caroline Plantin / Adolfo Marsillach .... La Mouche / Dawn Addams .... Catherine de Vigogne / Akim Tamiroff .... Marquis de Vigogne / Laura Valenzuela .... Lisette / Georges Rigaud .... Intendant General/Chief of Police / Francis Blanche .... Plantin リスニング;フランス語。早口で大量のセリフが流れる。 13歳のシャルロットは田舎町のさえない少女。母親は生まれてすぐに死んで寂しい少女だった。特にこのところ何もやる気がせず、バカンスが近づいても、友だちにパーティに誘われても断ってばかり。夏休み前の水泳の授業でもプールでの飛び込みができないためにみんなから冷やかされる。 ふと帰るときに耳にした、自分と同じ年の天才少女クララのピアノ。その見事な演奏にシャルロットは何か心惹かれる。家には、兄と父親との三人暮らし。身の回りの世話はメイドのレオーネがやってくれる。だが、反抗期なのか家族とは諍(いさか)いが絶えない。「こんな汚い家はいや!」と叫ぶシャルロットに、父親もレオーネも困り果てている。 近所の看護士の幼い娘ルルは、母親が夜勤の時には必ず泊まりに来る。病弱でまだ年端もいかないが、シャルロットにすっかりなついてしまって夜中でも一緒に寝ると言ってきかない。 翌日父親の言いつけで旋盤工場へ出かけるところで、その途中偶然にもクララの乗った乗用車が前を通り、ピアノの椅子を修理してもらいにそこへ行くから案内してくれと頼まれる。クララは愛想のよい娘で、二人は顔見知りとなり、住んでいるのも近所の湖の近くだということもわかる。 旋盤工場に新しく入った若者はジャンといった。シャルロットはこの青年になんとなく興味を持ち、ピアノの椅子の修理ができることを見計らって工場へ出かけて行く。クララに会いにゆくための口実に過ぎなかったのだが、これがかえってジャンの気持ちをそそってしまう。彼は船乗りで臨時に手伝いに来ていたがまもなく再び航海に出るということだった。 ピアノの椅子を届けにプールつきの広大なクララの屋敷に入り込んだシャルロットは、気のいいマネージャーに熱烈なファンだと思われて、ちょうどモーターボート遊びから帰ってきたクララに会わせてもらい、彼女の衣裳を借りてその晩のパーティに招待される。 ふと、クララが付き人にならないかと言ったのを真に受けたシャルロットは有頂天になる。家に帰ってもそのことが気になって仕方がない。レオーネやルルにも吹聴してすっかり自分がこんな汚く狭苦しい家を出て世界を股にかけるつもりになっている。 気が高ぶっているせいか、ジャンの誘いにも応じた。若者が集まるバーで一緒に話をし、映画を見たりゲームをしたりした。最後に彼の泊まっているホテルの部屋に入っていって危うく手込めにされるところを脱出したりする。 レオーネは若い娘の戯言(ざれごと)だとして相手にしないが、ルルは本当にシャルロットがいなくなってしまうと思ったらしい。日曜日のクララのコンサートに3人で出かけたのはいいが、クララの演奏を聴いているうちに、ルルが「シャルロットを連れて行くな!」と大声を出して、会場から追い出されてしまう。 公演が終わったところで、運よくマネージャに出会ったシャルロットは、付き人になりたいという気持ちを取り次いでもらうが、家に帰るとそんな気持ちも消え失せてしまっていた。この騒ぎも自分が今の状況から自由になりたいという気持ちから出たのだと気づいたのだ。(1985年) Directed by Claude Miller Writing credits Claude Miller & Luc Béraud Cast: Charlotte Gainsbourg .... Charlotte Castang / Clothilde Baudon .... Clara Bauman / Julie Glenn .... Lulu / Bernadette Lafont .... Léone / Jean-Claude Brialy .... Sam / Jean-Philippe Écoffey .... Jean / Raoul Billerey .... Antoine Castang / Richard Guerry .... Regard sombre / Simon de La Brosse .... Jacky Castang (as Simon de la Brosse) / Cédric Liddell .... Pierre-Alain Gallabert / Chantal Banlier .... Serveuse perroquet / Philippe Baronnet .... Professeur de gymnastique / Louisa Shafa .... Femme vestiaire リスニング;フランス語・テーマソングはイタリア語。メンデルスゾーンやベートーベン、モーツァルトの曲があふれる。 Tirez sur le pianiste ピアニストを撃て サローヤン家の4兄弟のひとり、チコは二人組の悪漢に追われて危うくひき殺される所を女房自慢の男に助けてもらい、下から2番目の弟、チャーリーの部屋に駆け込んだ。チャーリーは迷惑顔だ。場末の居酒屋でピアノ弾きをやっているチャーリーは、兄たちの素行が子供の頃から芳しくなく、とばっちりを受けそうだったからだ。 迫る二人組をなんとかまいてチコを逃がしたやったのだが、今度はチャーリーと、末のまだ学生の弟、フィドがつけねらわれる番となる。チャーリーは隣の娼婦が寝に来てくれることはあるが、元来臆病な性格で恋人ができなかった。だが酒場の女レナは自分に気があるらしいと同僚から聞かされる。 レナはチャーリーの過去に気付いていたのだ。かつて世界的なピアニストで、本名はエドアルドと言い、通っていたカフェの女テレーズと結婚した。才能のおかげで仕事は大成功だったが、テレーズはマネージャーと過ちを犯し、それを苦にして投身自殺してしまった。以後、彼はチャーリーと名を変え、名声を一切捨てて酒場のピアノ弾きとして生計を得ていたのだ。 チャーリーにすっかり惚れ込んだレナは、彼を再び檜舞台に立たせようと元気づける。だが、二人組は彼らに迫っていた。レナが機転を効かせて何とか一度目は逃げおせる。運が悪いことにレナのことを知らせた同僚がチャーリーに嫉妬して喧嘩を仕掛けてきたのだ。 相手が首を絞めてきたので思わずチャーリーは手元のナイフで刺して殺してしまう。正当防衛だったが、警察を納得させるのは容易ではなさそうだった。レナは車を調達してチャーリーを兄弟たちの住む、雪にうずもれた隠れ家に連れて行く。その間に末の弟フィドは二人組にさらわれてしまう。 隠れ家で一晩を過ごしたチャーリーたちの所に二人組がやってきた。激しい撃ち合いで、レナは命を落とした。音楽会復帰の夢は断たれ、再びチャーリーは黙々と酒場のピアノの前に座るのだった。(1960) Directed by François Truffaut Writing credits David Goodis (novel) François Truffaut (adaptation) Cast: Charles Aznavour .... Charlie Kohler/Edouard Saroyan / Marie Dubois .... Lèna / Nicole Berger .... Thérèse Saroyan / Michéle Mercier .... Clarisse / Serge Davri .... Plyne / Claude Mansard .... Momo / Richard Kanayan .... Fido Saroyan (as Le jeune Richard Kanayan) / Albert Rémy .... Chico Saroyan / Jean-Jacques Aslanian .... Richard Saroyan / Daniel Boulanger .... Ernest / Claude Heymann .... Lars Schmeel / Alex Joffé .... Passerby / Boby Lapointe .... Le chanteur / Catherine Lutz .... Mammy リスニング;フランス語。すさまじい早口。 ストーリーは最後まで見て始めて全体がわかる。現在進行している場面の中に過去の想い出がセピア色の画面で突然現れる。登場人物の心理がそこで表されているのだ。例えば離婚調停に向かう夫婦がタクシーに乗っているところに、突然ベッドのマットを投げつけて喧嘩しているかこの場面が出てくる。 一人の青年が現在に至るまで、3人の女たちが絡めてコメディタッチで描かれる。しかも自分の少年時代や母親の想い出も混じる。あちこちでさまざまな登場人物がかかわっていて見ている最中にはきわめて筋を追うのが難しいのだが、最後に内容がまとまる構成だ。 アントワーヌはパリの印刷屋に働く作家青年。少年時代には、アナキストの母親をもち、父の死後彼女には恋人ができて絶縁状態になる。青年時代になった頃近所の女の子、コレットに恋をしてその家に入り浸ってみたりするが、結局振られてしまい、バイオリン教師のクリスティーヌと結婚をする。 だが、その結婚も長続きせず、男の子を一人もうけたが、裁判所で離婚調停中だ。裁判所の庭で、弁護士となったコレットがアントワーヌを見かける。コレットはバーネリアス書店の店主、ザビエルに惚れているのだが、あまり相手にしてもらえない。 コレットがちょうどこれから手がけようとしている息子を殺した父親の事件の参考のためにと思って手に取った本が、たまたまアントワーヌの書いた「恋のでたらめ」という本だった。そこには自分の女性遍歴が克明に書いてある。もちろんコレットのことも詳しく書いてあり、彼女は夢中になって読んだ。 夕方息子をリヨン駅に送っていった際、アントワーヌはホームの向かいの特急列車にコレットが乗っているのを発見。切符も買わずにその列車に飛び乗り、かつての恋心を復活させようとするが、本を読んでしまったコレットには所詮無理な相談。 別れ際にアントワーヌがうっかり落としていった女の写真を拾い上げると、それは何と自分の恋するザビエルの妹、サビーヌだった。バラバラにちぎれた破片を丹念にセロテープで張り合わせたその写真は、電話ボックスで大声を上げていた男がちぎって捨てたものだった。 恋の始まりでこんなロマンチックな話はない。この写真にアントワーヌが恋をしてパリ中を探し回り、ついにレコード店に勤務する彼女を見つけたのだ。一時仲違いをした二人だが、アントワーヌがこの話をうち明けると、二人は再び熱い仲になったのだった。(1979年) Directed by François Truffaut Writing credits François Truffaut (scenario) & Marie-France Pisier (scenario) Cast: Jean-Pierre Léaud .... Antoine Doinel / Marie-France Pisier .... Colette Tazzi / Claude Jade .... Christine Doinel / Dani .... Liliane / Dorothée .... Sabine Barnerias / Daniel Mesguich .... Xavier Barnerias, le libraire / Julien Bertheau .... Monsieur Lucien リスニング;大変な早口フランス語 若きドワネルはかわいい嫁さんクリスティーヌをもらう。近くには彼女の両親が住んでいて、二人をしばしば食事に招待してくれる。クリスティーヌは家でバイオリンのレッスンをしている。 一方、ドワネルはまだ身を入れる仕事が見つからないでいる。今のところはアパルトマンの中庭で、花を赤や青に染める実験に夢中になっているが、これでお金儲けができそうもない。 クリスティーヌは妊娠した。どんどんおなかが大きくなり、男の子が産まれた。ドワネルは妻の反対をよそに、息子にアルフォンスという名前を勝手に役所に届けてしまう。 このままでは収入が足りないと、求人欄で見たアメリカ系の会社に応募して、社長から庭にある港の模型の管理を任せられる。リモコンで動く船をあちこち池の中を走らせてお客に自慢してみせるのが社長の趣味なのだ。 ある日日本人の一団が会社を見学にやってきた。そのなかのキョーコという女にドワネルは惹かれる。おそらくわざとであろう。キョーコは池の中に腕輪を落として帰る。届けに行ったドワネルはその夜から急にキョーコと親しくなる。 キョーコはチューリップの中に愛の言付けを入れて、それが部屋の中で花びらを開き、クリスティーヌが読んでしまったから大変。ドワネルはホテル住まいをする羽目になる。このころからドワネルは自分の少年時代や青春、そして自分の身近な体験を文章にし始める。だが、キョーコとの愛は長続きしなかった。話すことのなくなったためにいたたまれなくなったドワネルはレストランの電話ボックスから何度もクリスティーヌに電話する。ようやく受け入れてくれたクリスティーのもとにドワネルは戻ることができた。二人は元のさやに収まる。(1970年) Directed by François Truffaut Writing credits François Truffaut (scenario and dialogue) and Claude de Givray (scenario and dialogue) Cast Jean-Pierre L醇Paud .... Antoine Doinel / Claude Jade .... Christine Darbon Doinel / Hiroko Berghauer .... Kyoko (as Mademoiselle Hiroko) / Barbara Laage .... Monique / Dani醇Qle Girard .... Ginette リスニング;フランス語 haut de page駆け落ちした男女の逃避行。だが、女は殺され男は自爆する。全編が、男の独白によってつながっている。最初の部分を除いて、男と女の会話だけで成り立つ。 パリに住むフェルディナンドは雑誌社をクビになったばかり。元々詩作や散文の才能があるのだが、認めてもらえない。嫌々ながら妻につきあってパーティに出かけるが、途中で退屈しきってひとりで出てきてしまう。家に戻ると、娘の子守をしてくれているマリアンヌがいた。 マリアンヌは昔惚れた相手だったが、その後別れ今こうして偶然にフェルディナンドの前に現れたのだった。意気投合した二人は、何もかも忘れてパリを脱出する。南へ、そしてイタリアへ向かうのだ。 だが二人には金がない。ガソリンスタンドでは料金を踏み倒し、語りやパントマイムの大道芸をやってかねを稼ぐ。警察から逃れるために、自分たちの乗っていた車に火を付けて事故死したように見せかける。やがてどこかの車を盗んでひたすら地中海の見えるところまでまっしぐらに進む。 フェルディナンドは実はマリアンヌのことを詳しくは知らない、というよりは彼女の過去のことは何も知らないのだ。マリアンヌはフェルディナンドのことを何回言い直されてもピエロと呼び続け、本名を呼ばない。 海岸にたどり着いた二人は、車を海に沈め、人知れぬ場所で、魚を捕ったり野菜を作ったりして自給自足的な生活をはじめる。ときに人々の前で二人は芸をしてみせ、稼いだ金は、ピエロの読む本を買うのに使った。 だがマリアンヌは次第にその生活にたまらなくなってきた。冒険を求めて外に出るようになった。どうやら彼女の兄が金を持っていて、その分け前をもらえるらしい。だが、彼女のまわりには悪漢どもが取り巻いていた。 彼女が入っていったアパートの中で一人の男が殺される。助けに行ったピエロは危ういところで見知らぬ男たちに殺されるところだった。同時にマリアンヌは突然姿を消してしまう。 再びピエロがマリアンヌに会えたのは、どこかの港町だった。武器の密輸に関わる集団に巻き込まれ、マリアンヌは島の中で拳銃に撃たれてピエロの目の前で死ぬ。ピエロは自分の身体にダイナマイトを巻き付けて火を付けた。しまったと思い直して急いで導火線の火を消そうとしたが、間に合わず・・・(1965年) Directed by Jean-Luc Godard Writing credits Jean-Luc Godard Cast:Jean-Paul Belmondo .... Ferdinand Griffon, 'Pierrot' (as Jean Paul Belmondo) / Anna Karina .... Marianne Renoir / Graziella Galvani .... La femme de Ferdinand リスニング;フランス語 戦前パリのシャンソンのはなやかなりし頃、マルティノー夫妻は、妻のジェニーの魅力的な歌、夫モーリスのピアノ伴奏が人気をよんで、劇場は大入り満員だった。だが最近、モーリスはふさぎこんでいる。妻が有名になるにつれ、多くの男たちとの付き合いやパーティへの出席が増え、もとから恋多き女として知られていた彼女の素行に疑いを抱き始めていたのだった。 ジェニーはモーリスを深く愛していたが、その行き過ぎた嫉妬の感情に辟易(へきえき)していた。その頃、映画会社からジェニー出演の話があり、社長やブローカーとの話し合いが頻繁におこなわれていた。ある夜、モーリスが家に帰ってくると、ジェニーがいない。彼女が連絡もせず行方不明になったために、怒り狂ったモーリスは、あるホテルの住所のかかれた紙切れを発見する。 そこは仲間の運営する劇場の近くだった。拳銃を持っていったのは、妻の不実の相手を殺すためである。劇場に何食わぬ顔で出かけ、出し物を見ているふりをしながら、裏口からそっと出てそのホテルに向かったモーリスは、ホテルの一室で、ブローカーの一人が死んでいるのを発見する。頭にはワインのビンで殴られたあとがあった。大慌てで外に出ると、自分の車が動き出している。自動車泥棒にやられたのだ。 妻がやったのだろうか?だが、ジェニーは家に帰ると、友人で写真家のドラに自分がビンで殴ったために相手を殺したらしいと告げる。そのときに自分のスカーフを現場においてきてしまったのだ。ドラは現場に向かい、スカーフを処分し、指紋のついていそうなものをきれいにして戻ってきた。 被害者はワインで殴られただけでなく、ピストルで撃たれ金も奪われていた。警察が動き出した。ベテラン刑事のアントワーヌは、殺人現場に3人もの人間が出入りしたために、初動捜査を混乱させられる。ジェニー、ドラ、モーリスのいずれにも嫌疑がかかったが、拳銃を所持し、劇場での行動でうそをついたモーリスが最も疑われた。 留置場で絶望的になったモーリスは手首を切って自殺を図る。だが、最終的には4人目の人間が現場にいたのだ。こうやって事件は解決を見て、マルティノー夫妻はやっと平和な生活を取り戻すことができるようになった。見事なシャンソンが披露され、こんなすばらしい作品が埋もれているなんて実にもったいないことだ!(1947年) Director:Henri-Georges Clouzot Writers:Henri-Georges Clouzot (dialogue) Henri-Georges Clouzot (screenplay) Cast Suzy Delair ... Marguerite Chauffournier Martineau, aka Jenny Lamour / Bernard Blier ... Maurice Martineau / Louis Jouvet ... L'inspecteur adjoint Antoine / Simone Renant ... Dora Monier 言語;フランス語 Balzac et la petite tailleuse chinoise ( Xiao cai feng ) 中国の小さなお針子 かつての青春テレビドラマ、「俺達の旅」のように、一人の娘に2人の青年が恋をしてしまうラブストーリー。中国が舞台で、俳優も中国人であるが、フランス映画である。ひそかに禁じられた本をまわし読むするシーンは「華氏458度」をほうふつとさせる。 中国での文化大革命の最中、ルオとマーという二人の青年が都会から、今は三峡ダムの底に沈んでいる村へ農作業の労働(下放)を従事しに来た。ルオは歯医者の息子で、自分も少しは治療の心得がある。マーはバイオリンを少し弾くことができた。二人の共通点は、外国の小説、特にフランスの文豪の作品に興味があるということだった。 知的階級に属しているということで、この時代”反革命分子”のレッテルを貼られた二人は、その考えを”矯正”するためにこの村にやってきたのだが、村長以下険しい谷間に住む住民たちは完全に都会の文化から取り残され、無知でほとんどが字を読むことさえできなかった。 2人は田舎の仕事はまるでダメで、肥え桶を担がせればこぼしてしまうし、村内にある銅山での運搬作業でもへまをやってばかりいた。しかし彼らは村民にとって新しい文明をもたらしたのだ。モーツアルトのソナタは「毛(モー)にささげる曲」ということで、堂々とマーによって演奏された。 二人の持ってきた目覚まし時計は、村の仕事の開始や終了を告げるペースメーカーの役割を果たすことになったし、娯楽に飢えていた村民たちに、二人は町へ行って見てきた映画をまるで目の前に映像が見えるかのように巧みに話して聞かせたものだから、彼らは熱中し、夜は広場に集まって彼らが話してくれるようにせがんだ。 その村民の中に、少し遠く離れた山の奥に、仕立て師の祖父と暮らしているかわいいお針子がいた。ルオもマーもすっかり彼女に夢中になってしまい、何とかこの無知の環境から引き出して新しい世界に目を向けることができるようにと考え始めた。 そのころ、下放から開放されて都会へ帰るメガネの青年が本をたくさん隠し持っていることを知り、二人はまんまとその本を盗み出してしまう。その中には当時の中国では禁書となっていたたくさんの外国の小説が含まれていたのだ。大喜びの2人はこれを洞窟の中に隠し、一冊づつ持ち出してはお針子に呼んで聞かせ、自分たちでも夢中になって読みふけった。 外国かぶれになった孫娘のことを怒った祖父だったが、いつのまにか二人の巧みな話術に引き込まれ、村の娘たちは彼の作るモダンなデザインの服を着始めることになった。ルオの父親が病気になり、彼は都会に2ヶ月間ほど戻ることになった。お針子はルオの子を宿したが当時の中国では結婚も産み育てることもできない。 マーは外国の文化にあこがれていた町の産婦人科医に自分のバイオリンと、衣服に縫いこんだ小説を与えて、お針子は堕胎の手術をうけた。手術は成功したが、お針子は二人が読んで聞かせたバルザックの小説によってすっかり人生に対する考え方を変え、祖父ともけんかしてこの村を飛び出していってしまう。 それから数十年後、お針子の行方は依然として不明である。それぞれ優秀なバイオリニストと歯科医になったマーとルオは、2人が青春時代を過ごしたあの村がまもなく三峡ダムによって湖底に沈むニュースを聞きながら、自分たちの甘酸っぱい思い出に浸るのだった。(2002年) Director:Sijie Dai Writers:Sijie Dai (novel) Sijie Dai (screenplay) Cast (Credited cast) Xun Zhou ... Little Chinese Seamstress / Kun Chen ... Luo / Ye Liu ... Ma / Shuangbao Wang ... Head of the Village / Zhijun Cong ... Old Tailor Les Enfants de Lumiere リュミエールの子供たち フランス映画約百年の歴史をさまざまな作品の代表的な場面を見せながら流れをたどっていく。題名は、史上初めて本格的な映画撮影の行われたリュミエールという名の工場で、工員たちが仕事がひけてぞろぞろと門から外に出てくる様子が映し出されたことにちなんでいる。 フランス映画はありとあらゆる題材に取り組んだ。それは必ずしも娯楽一点張りとは違い、その点はハリウッドなどとかなり異なる。ある映画のせりふにもあったように、「ハリウッドでは99%はセックス描写に使われ、残りの1%が心理描写である」と揶揄されている。 フランス映画になじんでいる人々なら、そこに見覚えのある場面を幾多も見つけるであろう。タイトルは本編の終わったあとで紹介されるが、いずれもその映画が思い出させられる典型的な場面ばかりが現れる。(1995年) Directors: Andre Asseo / Pierre Billard Cast; Jacques Perrin ... Recitant / Narrator (voice) 冒険に挑む者たちが、命を最大限に燃焼させて行きぬいたところを描いた作品。荒唐無稽なところや、スリル満点のシーンの連続にもかかわらず、そのような細部とは別に、映画が終わったあとに、行動に突き進む人生の”完結”というものを感じさせてくれる傑作。 パリで自動車修理解体業を営むロランのところにモビールに挑む芸術家、レティティアが部品を買いに来た。ロランのレーサーエンジンを完成させる夢、彼の親友であるマヌの曲芸飛行への夢は、レティティアの心を大いに魅惑する。 レーサーエンジンは失敗し、マヌの飛行機免許は剥奪され、レティティアの個展は散々な評価を受けて、青春の夢はつぶれたかのように見えたが、ふと耳にしたコンゴ沖に沈む財宝を求め、3人は冒険の旅に出発する。 墜落した飛行機を操縦していた元パイロットが現れて、4人はついに海底に沈む飛行機の残骸から財宝を手に入れる。だがそれを知ったならず者と撃ち合いになり、レティティアは死んだ。彼女は水葬され、パイロットは救命ボートで追放される。 フランスに戻った二人はレティティアの故郷を訪ね、彼女の甥にあたる博物館の管理をしている少年に彼女の遺産の分を渡す。ロランがふと海を見ると、レティティアが手に入れたいと言っていた、要塞の島(Fort Boyard )がはるかに見えるではないか。そこには何者かが銃や手榴弾を隠していた古い城だった。 一人パリに戻ったマヌは女友達と再会したとき、ならず者にあとをつけられるが、拷問を受けたにもかかわらずあのパイロットは口を割らず、殺されずにすんだ。その代わりパイロットは殺された。マヌが再びレティティアの故郷に戻り、彼も要塞の島にやってくる。ロランはレティティアの夢を引き継いでここをホテルにする計画を立てているのだ。 だがならず者たちは二人のあとを追い、上陸してきた。銃と手榴弾で何とか彼らを防いだものの、マヌは銃撃戦で負傷した。「レティティアはお前と暮らしたがっていたぞ」とロランが言うと、マヌは「うそつきめ」といいながらも安らかな顔で死んでいった。(1967年) Director: Robert Enrico / Writers : Robert Enrico (writer) /Jose Giovanni (dialogue) Cast Alain Delon ... Manu / Lino Ventura ... Roland / Joanna Shimkus ... Laetitia / Serge Reggiani ... Le pilote 言語;フランス語 |