(2005年7月) H O M E > 体験編 > 旅行記 > ずっと長崎・ちょっと広島 |
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~鈍行列車で長崎へ~ 西日本の蝉のたてる音は猛烈だろう。再びあの「青春18きっぷ」のお世話になる。今回は夏の販売期間の間に出かけることになった。長崎と広島の2都市訪問である。 まず長崎を目指した理由は、
と、かなり盛りだくさんである。7月22日の午後1時に出発して、24時間弱で長崎に到着。途中新大阪から博多までは「ムーンライト九州」という夜行快速列車がある。早朝目がさめると、もう山口県を出ようとしていた。前回利用した東海道線の「ムーンライトながら」に比べるとかなり乗客も少なく、ワンボックスを占領して眠れるので、非常に楽だ。
まださめやらぬ土曜日の北九州の町並みを電気機関車が牽引する客車が疾走する。関門トンネルでは昔のごとく機関車の交替が行われる(直流と交流の違いにより)。それにしても北九州の街は依然としてかつての工業地帯のままだ。沿線はクレーンや工場の建物が建ち並び、住宅があまり見えない。そして町並みはそのまま博多の郊外とくっついてしまい、巨大なメガロポリスを形成している。 博多からは熊本方面への普通列車に乗り換えるが、鳥栖(とす)までは博多の都市圏内であるから本数も多く、通勤時と重なったこともあって乗客も非常に多い。このあたりから、関東でもそのチェーン店が多いチャンポン麺の店が目につきはじめる。残念ながら方言の衰退がここでもはっきりと感じ取られる。サラリーマンたちの会話、高校生同士の会話はどう聞いても標準語だ。わずかに50歳を過ぎた男女では九州弁特有の語尾が聞こえたりするが、30年前と比べると著しい違いだ。 方言の衰退は、放送局のせいだけではない。道路に面する洋服屋、牛丼屋、中古車屋、車のディーラー、巨大スーパー、コンビニ、いずれをとっても関東の町並みのコピーである。車で通る限りは道路の行き先を示す看板だけしかその土地であることを知る手がかりがないのだ。だが、列車の車窓風景はそれほど画一的ではない。竹などの林がはっきりと増え、南国特有の植栽が目に付きはじめる。また、背骨に中国山地をいだく山陽地方と違い、こちらは全体として平坦ながら、所々に小高い丘のような山が点在する風景が鳥栖まで続く。 だが、鳥栖から長崎本線に乗り換えると風景は一変する。低い山々が線路にまで迫り、なだらかにうねる丘の間を縫って線路が続く。半島特有の地形である。山地と田んぼが隣り合わせになっている。そうしているうちに佐賀駅に着いた。小さな半島の中にふたつの県がせめぎ合っているのだ。広い水田での米作は無理なので、地形を生かして餅米などの栽培が行われている。肥前山口のところで線路は分岐する。左に行けば半島の南端に沿って長崎へ(長崎本線)、ところが右にゆくと北上して佐世保に(佐世保線)向かう。距離的には長崎本線がいちばん近そうだが、この時間帯では、北上して佐世保の手前、早岐(はき)で乗り換えてハウステンボスで有名な大村線に乗って大村湾沿いに諫早まで南下するコースを取る。 半島部では他に唐津方面、伊万里や平戸方面に分岐する線もあり、なかなか複雑だ。だが半島の入り組んだ地形を考えると、中心地である博多にできるだけ早くつながるように考えられているようだ。多くは地方交通線であり、運賃は高い(例;大村線経由で長崎ー早岐間は1430円)おりからの西日本を襲った梅雨明けの高温のおかげで摂氏35度の炎天下の強行軍を覚悟せねばなるまい。いくら長崎が港町といっても、東京から約1300キロ南である(新幹線と特急を乗り継げば7時間かかる)。長崎駅に到着したのは真っ昼間の12時半(時間的にはパリより遠い!)。車内の快適な冷房から外に出ると、すでに33度は超えていた。 長崎の市内にカプセルホテルは一軒しかない。(少なくとも電話番号検索ではそう出ていた。県庁のすぐ向かいにあるのだが駅前からわずかな距離とはいえ、この暑さだからさっそく路面電車を利用する。この市電だが、実に便利にできている。三つ目の大波止(おおはと)下車。路面電車は高知市内でも活躍していたが、ここではそれ以上だ。それというのもまわりを大して高くはないが急な山や丘に囲まれ道路面からすぐ上り坂になっているので、山の上にある家を出た人々は市の中心部に行くには谷底を走る市電に飛び乗ればよい。しかも大人100円、子供50円の均一料金だ。(比較;広島市電は150円、東京の荒川の都電は160円=2005年7月現在) 自転車ではマウンテンバイク愛好者でなければとても立ち向かえない急坂と、石段だらけだからもちろん車も住宅地に入ってこられない。高齢化が進むのは日本中どこでも同じだから、市電は実に重宝なのである。 予約を済ませ、荷物を預けると近くのうらぶれた店でチャンポンを食べる。味はなかなか良いがちょっと具が少ない。これは大衆料理だから、高級店ではダメだし、ましてや関東にも展開しているチェーン店でもいけない。 理想形態はおばちゃんとその娘が店を切り盛りしていて、裏の調理場にはおばちゃんの夫がいるようなタイプだ。こういう店には味の善し悪しがはげしくて運が良ければ実にうまいが、不幸にも味オンチがやっている店なら悲惨な体験をすることになる。運にかけてみるのも旅の味わいの一つだ。 |